ロマンは一日にしてならず
第28回(2002.10.11)

名前泥棒の話



  私の三男と、私のおばの曾孫(ひまご)はどちらも「翔太郎」という名前で、字もまったく同じです。これにはいわく因縁があります。
 ある年の法事の後のことです。80歳を過ぎた私のおばが、親戚一同で撮った写真を眺めながらため息をつきました。

「やれやれ。この年になると、誰が誰やらさっぱりわからない。そうだ。この機会に確認して、卒業アルバムみたいに名前をつけておこう」

というわけで親戚中に電話をして、子供たちの名前を確認することにしました。まず、甥である私のところに電話をよこし、私の三人の息子たちの名前を確認すると、台所のホワイトボードに黒々とした字で大きく

「健太郎」
「康太郎」
「翔太郎」

と書きました。そしてそのまま用事を思い出し、外に出かけてしまいました。
 さて、そのおばが留守の間に、里帰り出産した孫が夫とともにその家を訪れたのです。

「あら、おばあちやんは留守なのね」

といいながら台所に行きますと、すばらしい名前が三つ書いてあります。

「まあ、おばあちやんたら、頼んでおいた赤ちやんの名前をもう考えてくれたのね。健太郎も康太郎も翔太郎もいい名前だわ。ねえあなた、どれが良いかしら」

夫もその名前が気に入り、あれこれ迷いましたが結局三つ目に書いてある翔太郎に決めました。二人はおばあちやんの帰りを待ちましたが、その日は会えず東京の自分の家に戻り、そのまま区役所にその名前を届け出てしまったのです。

かくして、私の三男と私のおばの曾孫はまったく同じ名前になってしまいました。


 その数日後、おばあちやんに電話をした孫はそのことを知ると、飛び上がらんばかりに驚いて叫んだそうです「あらら〜、これじや[あやかり名前]じやなくて[名前泥棒]だわ。どうしましょう!」今でも親戚一同集まると、その話で盛り上がります。



本日の回文です。

「よい名前絶え間ないよ」
(よいなまえたえまないよ)