ロマンは一日にしてならず
第22回 (2002.8.30)

割れ鍋に綴じ蓋


 ひょっとすると猫の恩返しなのでしょうか。学生時代に知人の中年夫婦に野良猫の子をお歳暮としてあげ、私はその家の娘を嫁にもらいました。


 まだ学生だった私も、新米教師だった妻もあまり豊かではありませんでした。


 例えば私は、まともなテレビは持っておらず、粗大ごみの日に拾ってきた音だけの出るテレビと画像だけの出るテレビを使っていましたし、妻は洗濯機がなく、手で洗濯していました。

 そんな不十分な生活でしたが、二人の持っているものを合わせると、ちょうど一世帯分になりました。おかげで、ちゃんとしたテレビを見ることができ、洗濯も楽になりました。出かけるときは一台の自転車に二人乗りをし、雨のときは傘を後ろから差しかけてもらいました。


 そんなある日のこと、妻は勤務先で一通の書類を提出しました。内容は「扶養家族手当の申請」です。しばらくすると、事務官から呼び出され、少しきつい口調で言われたそうです。


「丸山先生。夫を扶養するという事は社会通念上なく、前例もないので受け付けられません」


妻はあんぐりと口をあけましたが、気を取り直して言いました。

「夫は職もなく、収入もありません。収入のある方が扶養するのは当然で、妻が夫を養ってはいけないという決まりはないと思うのですが、いかがでしょうか」


 事務官は社会通念を盾にかなり難色を示しましたが、押し問答の末しぶしぶ
「それでは考えてみましょう」と言ったそうです。


 数日後、晴れて扶養家族手当てを勝ち取った妻は私に言いました。
「あなた、おめでとう。今日から私はあなたを養うことができるわ。月一万円で。」

 その時、私は嬉しさと、物悲しさが混ざった複雑な表情をしていました。


それでは「たけやぶやけた」でおなじみ、逆さ言葉の「本日の回文」です。

「フウフウ言う夫婦」
(ふうふういうふうふ)