ロマンは一日にしてならず
第21回 (2002.8.23)

猫山君と私


 学生時代のことです。私は住んでいたアパートのさびかけた階段で一匹の猫と出会いました。

私はその野良猫とは思えない上品な風貌に惹かれ、メスなのに「猫山君」と名づけ可愛がりました。

餌をやったりしているうちに時々泊まっていくようになりました。

 朝、大学に出かける時に外に出すと、夕方帰る頃に玄関の前で待っていたり、夜遅く部屋に来たりしました。
 ある日のことです。いつものように玄関の外の「ニャオ」という鳴き声にドアを開けると、ほとんど同時に隣の部屋のドアが開き、隣の住人が「ミケ、おいで!」と猫山君を部屋に入れているではありませんか。

 そのとき私は恋人を取られたような大変なショックを受けましたが「そうか、猫山君は隣ではミケにになりすましているのだな。あっちこっちで可愛がられているんだ」と妙に感心しました。


 そのうち猫山くんはかわいい子猫を2匹産み、献身的に世話をしました。例えば、えさを与えると子猫に先に食べさせ、子猫が満足するのを見届けてからやっと自分が食べるなど、その母親ぶりは誠に心を打たれるものがありました。


 しかし、ある時を境に猫山君は急に子猫の世話をしなくなりました。親離れの時期が来たのです。このまま野良猫にするには忍びないと思い、二匹の子猫を、表に「お歳暮」と、マジックで大きく書きしたダンボール箱に入れ、自転車で、ある知人の家へ持って行きました。

 。その家の夫婦は玄関先でそれを見て目を丸くしました。私に促されて箱を開けると、そこには2匹の子猫がきれいに並んですやすやと寝ています。その姿を見るとにっこりと微笑み、快くそのお歳暮を受け取ってくれました。そして、猫達は末永く幸せに暮らしました。


 その家の娘が現在の私の妻です。

 ひょっとするとこれは猫の恩返しかもしれません。


それでは「たけやぶやけた」でおなじみ、逆さ言葉の「本日の回文」です。

「この子猫、子猫の子」(このこねここねこのこ)