ロマンは一日にしてならず(2002.8.2)
第18回 私の学生時代 その1
私は本州最北端の青森県にある弘前大学で学生時代をすごしました。
入学式後の最初の授業でのことです。
親からきちんとした身なりをするように言われた私は背広を着て行きました。
子供の頃からの癖でやはり寝坊し、少し遅れて教室に入りました。幸い先生はまだ来ていません。
しかし、当時流行の学生運動の戦士が新入生に向かってアジ演説をしています。
そのまま教壇の方へ進んで行くと、私を教官と間違えた運動家が
「先生、もう少しだけ演説させてください」
と私に言うのです。一瞬ひるみましたが、事態を飲み込んだ私はとっさに
「よろしい。ただし5分だけだ。」
少し厳しい口調で言いました。
彼はすなおに
「はい」
と答えると、口早に話をまとめ始めました。
私は噴出しそうなのをこらえながら、いかめしく腕組をして、教室全体を見回したり、わざとらしく腕時計を見たりしました。
そして頃合いを見計らい、
「さあ時間だ。君たちは出てゆきなさい
と告げたところ、彼らは素直に出てゆき、私はそのまま空いた席に着きました。
教室は異様に静まり返り、数分が過ぎました。
「何で講義を始めないんだろう」
と、不審な表情で振り返る者もいます。
そこに、本物の先生が息せき切って入ってきて、
「やあ、ごめんごめん。最初の授業なのに遅れて。ところで、学生運動の連中は今日は来てないの?あいつら、いつも授業を妨害するんだ」
と言ったときです。一人の学生が立ち上がり
「この人です。この人が追い出してくれました」
と私を指差して言いました。すると、教室はどっとどよめき、それに続いて嵐のような拍手が沸き起こりました。
私は一躍時の人となり、同級生から
「先生、先生」
と慕われたのです。しかし、私の学生時代はこの時すべての運を使い果たしてしまったようにずっこけていくのでした。
それでは、「竹やぶ焼けた」でおなじみ、逆さ言葉の本日の回文です。
いい若い先生可愛い
(いいわかいせんせいかわいい)