ライオンはわが子を千尋の谷に突き落とすか? (2002.6.28)


 先週は人間が皮膚呼吸をしているというのはデマだという話をしました。今回は世の中に蔓延するもうひとつのデマについて考えます。


 ライオンはわが子を千尋の谷に突き落とし、這い上がってきた子だけを育てるという話があります。教育論などでよく引き合いに出されます。


 最近テレビを見ていて、思わず身を乗り出しました。ライオンの生態を扱った番組です。雌のライオンが狩をして、子供に肉を与えています。

 雄ライオンはたてがみは立派ですが、うろうろするだけで何もせず、ただの怠け者のように見えます。

「いつ親ライオンは子供を突き落とすんだろう。さては、えさをやる振りをして崖に誘い出すかな」

わくわくして見ていましたが、ちっとも突き落としません。

 そのうちに気がつきました。ライオンの住んでいるアフリカの大草原に崖などないのです。まさかライオンがわが子を電車や飛行機に乗せて崖のあるところまで連れて行くとは思えません。

 そこで動物行動学の学者に聞いてみましたが、やはりそんな子育て法はありえないとのことでした。
 ではなぜこんなデマがまかり通っているのでしょうか。

 実は雄ライオンは群れを乗っ取った場合、自分自身の子孫を繁殖させるために、前に群を支配していた雄ライオンの子供をかみ殺してしまうのです。その後、雄ライオンは自分の子供が生まれても子育てや狩はしません。自分の群れを守り、別のオスに乗っ取られないように縄張りを歩き回っています。


 千尋の谷に突き落とすという話は、前のボスの子供をかみ殺す部分が誤って伝わったようです。 

  
 動物の行動は自分の子孫を残すことに集中されており、人間が考える子育て論などは通用しないようです。

 強いてことわざめいたものを作るなら「継子いじめをするようでは怠け者の雄ライオン並だぞ」といったところでしょうか。


 

俺のライオン おいらのレオ

(おれのらいおんおいらのれお)