かれこれ30年前の話。日本経済がまだ「バブル」と言われる前の事。
ある日本人が米国人実業家 を江戸時代から続く老舗の染物屋に招いた。
その日本人は得意げに
「この染物屋は6代も続いているんです」
と説明したところ、米国人は目を丸くして
「6代も続いている商店が、こんなに小さく、粗末な建物でやっているんですか!?」
と驚いたという。
6代も順調に続いているのに、その間に何故事業を拡大しないのだ、ビジネスチャンスは沢山あったはずなのに、と問いかけているのだ。
アメリカ型経済の発想からは、いいものを持っている会社は「発展できる」し「発展すべき」と考えるだろう。
当時、この話は、日本人の脳天気さを笑う話として伝えられた。
バブルを迎え、それがはじけた現在、この話を日本人は改めてどのように感じるだろうか。
染物屋は先祖から受け継いだ技術や、質の高さを誇りにし守ってきた。そのことによって6代も続いたのであろう。
旧来の日本の文化、伝統、技術は「経済」に支配されない理念を持っていた。
アメリカ型経済、経済至上主義ともいえる発想が導入されて、日本は変わった。
利益が上がれば、事業は拡大し、資産は遊ばせずに新たな投資を行う。
その結果、経済はバブルとなって、そして、はじけた。
私はこの二十数年を、このようなこととは全く無関係な人間として傍観し、推移を見守った。
バブルがはじけた後の日本はどうか。
私には、染物屋の精神に戻ることはなく、新たなバブルを求めているようにしか見えないのだが、杞憂だろうか。