週刊朝日・名医のベストセラピー25

手掌多汗症(掌蹠多汗症)
皮膚疾患シリーズC

手のひらや足裏の多汗によく効くイオン浸透療法
水道水に患部を浸し、通電するだけの簡単療法


小さいころから手足の汗がひどく、ハンカチを持っていないと手のひらがビショビショに。外用薬も効かず主治医に「手術しかない」と言われました。ほかに治療法はないのでしょうか。

(群馬県・女子大生・20歳)


【掌蹠多汗症】新潟県内の予備校生A君(18)が手足の多汗に悩み始めたのは小学生のころ。握手をするときも手のひらから汗がしたたり落ち、同級生に気持ち悪がられた。しょっちゅうズボンで手を拭っているので、担任教師からは、「落ち着きがない」と言われた。
 大学受験では試験中に緊張から大量の汗が出て、答案用紙がびしょびしょに。パニック状態で試験どころではなく、結果は不合格。皮膚科で外用薬をもらったが効果がなかった。
 汗の分泌にかかわる胸部の交感神経を切除する「胸腔鏡下交感神経切除術」(ETS)という根治療法があると聞いたが、決心がつかなかった。そんなとき、「水道水イオントフォレーシス(Iontophoresis)」という治療法を、済生会新潟第二病院皮膚科で取り入れているのを知り、丸山友裕部長を訪ねた。
 この治療は、手などの多汗症の部位を合成樹脂製のトレイに入れた水道水に浸し、5〜10_アンペアの微弱電流(直流)を通すだけのもの。脇の下の場合は水道水を浸したスポンジを介して電流を通す。機械は米国製。あちらではよく握手をする習慣があるので、多汗症対策の研究が進んでいるのだという。
「通電によってプラス側に発生した水素イオンが汗孔から汗を製造する汗腺分泌部に浸透します。その結果、汗の量を調整する細胞膜の『ナトリウムイオンチャンネル』の機能が障害されて、汗の分泌が抑えられるのです。電流を通す液は、ごく普通の水が最も効果的という研究結果から、水道水を使用しています」
 と丸山部長は説明する。
 治療時間は患部1カ所につき10分程度。ピリピリ感がひどければ電流の強さを患者自身で調整できる。ただし、治療個所が多いと時間がかかる。Aさんの場合、両手足の4カ所なので40分程度かかった。
 また、効果が出るまでくり返し治療する必要があるため、毎日通院。Aさんは最初は何の変化もなく、疑問を感じていたが、1週間ほどたったて汗が減ってきたという実感が得られた。
 2週間後には、汗はしたたり落ちなくなり、多汗の程度は初診時の10分の1ぐらいに減った。翌年の受験では第1志望の大学に見事合格したという。
「手のひらや足の裏の多汗症では、ごくわずかな精神的な緊張で異常に多くの汗を分泌してしまいます。脇の下や全身の多汗症を伴う人もいますが、手足のみの局所性多汗症に悩む人が多いですね。」
 多汗症のはっきりした原因はまだわかっていない。根治療法のETSは手の多汗症に劇的に効くが、半面、「代償性発汗」といって背中や腹部などに大量の汗が生じる副作用が問題視されている。
「ETSの治療を受けたことを後悔する患者さんもいます。そこで、ETSの前段階の治療法として力を入れてきました。イオン浸透療法が無効な患者さんには、慎重に適応を検討して片側ずつETSを行っています。この治療を実施している病院は限られていますが、実効があることは確かです」
 丸山部長はこれまで150人以上にこの治療をしている。8回以上通電した場合の有効率は70%以上という。
「14回以上通電するとさらに効果が高まります。ただし、腋の下では手足に比べて、効果にばらつきがありました。連日治療を受けるのが無理な場合は1週間に2、3回でも構いません。治療を中断すると症状が元に戻ってしまうので、効果が出たあとも1、2週間に1度の割で通電する必要があります」
 同科では、継続した通院が困難な遠方の患者らのために2週間の入院治療も実施している。
「入院では外来の場合と違い、1日3回、1カ所20分まで治療を受けることが可能です。そのぶん、高い効果が期待できます」


(註)この文章は取材に基づき記者が書いたものです(まるちゃん直筆ではありません)。