副作用研究会30回記念大会 公開シンポジウム

メインテーマ:医薬品の副作用にどのように取り組むか

皮膚科医の立場から 〜薬疹を中心に〜

 皮膚は表面積約1.6平方メートル、重さ約3キログラムの人体最大の臓器で、その機能は多彩である。皮膚は知覚による外的刺激からの防御、メラニン合成による有害紫外線からの防御、発汗調節による体温や体液バランスの維持等の機能を持つほかに免疫反応の場として重要な役割をはたしている。

 免疫反応の場であるがゆえ、薬剤の副作用は極めて容易に皮膚に現われる。直接の接触によるものが接触皮膚炎であり、全身的な摂取によるものが薬疹である。薬剤による接触皮膚炎の原因としては消毒剤、湿布薬、外用剤、点眼薬がある。薬疹の原因にはほとんどの内服、注射薬がなりうる。

 また、特殊なものとしてはステロイド外用による副作用やペニシリンショックがある。

 ステロイド外用に関しては萎縮、紫斑、紅斑、毛細血管拡張などが見られ、これらは通常中止により改善する。しかし、顔面に見られる酒査様皮膚炎は毛細血管拡張、潮紅、丘疹、膿疱、ほてり感などの副作用がある一方で依存状態に陥るため、中止によるリバウンドに悩まされ、容易に改善しない。何故、顔面に特異的にこの副作用が起きるのか不明とされているが、演者としては以下のように考えている。顔面には「恥ずかしいと顔が赤くなる」などの特殊な神経血管反射がある。これがステロイドを外用するうちに増強し、炎症と区別がつかないためさらに外用を継続し、持続的になる。この神経血管反射は個人差が大きく、全く起きない人から頚部に至るまで生じる人もいる。従って、ステロイドの顔面への使用は、その強度を考慮する以前に、その患者が酒査様皮膚炎を起こしやすいかどうかを優先的に考慮して、その可否そのものを決定すべきと考える。酒査様皮膚炎を起こしやすい人の見分け方としては、演者の経験によると、まず第一に女性であること、ニキビが出やすい(既往がある)こと、毛細血管が目立つこと、痒みのない赤みが出没しやすいこと、自然発症の酒査の既往がある、などである。

 ペニシリンショックは数十年前のある時期に多発し、現在は著しく少ない。その理由は二つあると考えているが、その一つは公表を差し控える。皮膚科的な立場で言えば、もう一つの原因はペニシリン軟膏の使用である。簡単に言えば皮膚に外用することにより抗体を生じ、次に投与した時にアレルギー(ショック)を起こすという図式である。皮膚にはランゲルハンス細胞があり、坑原提示能がある。従って免疫反応の場である皮膚に外用する危険性が如実に現われた例と考える。ちなみに現在はペニシリン軟膏は禁止されており、抗生剤の外用としては感作能の低いゲンタシンやテトラサイクリンが使用されている。植皮などの手術部位にセファメンジンの湿布をするドクターがいるが、同様の理由で勧められるものではない。(現在の所ショックの報告はないが)

 1980年代以降の薬疹のタイプ別発症頻度は、紅斑丘疹型が約50%、多形紅斑型が約10%、以下紅皮症型、湿疹型、蕁麻疹型、苔癬型、固定疹型、紫斑型、光線過敏型、色素沈着びらん型、座瘡型等がそれぞれ7%〜1%程度、皮膚粘膜眼症候群、乾癬型、エリテマトーデス型、天疱瘡型、中毒性表皮壊死症、脂漏性皮膚炎型等がそれぞれ1%以下である。

 1970年頃までは固定疹型が約30%でトップであったが、その後激減している。これは主たる原因であったピラゾロン系薬剤の使用頻度が減ったためである。  現在、薬疹の原因としては抗生物質が最多であり、その中ではペニシリン系とセフェム系が大部分を占める。以下、消炎鎮痛解熱剤、高血圧治療剤、抗痙攣剤等が続く。

  薬剤摂取開始から薬疹の発症までに要する期間は一日未満から1年以上まで極めて多彩である。蕁麻疹型や固定疹型においては一日未満から数日が多いが、長期摂取後ようやく感作が成立し、発症する場合もある。苔癬型や色素沈着型では薬剤の蓄積により発症するため一ヵ月から一年以上かかることが多い。

 発疹型と薬剤の種類には強い相関関係がないため、通常、発疹型から原薬剤を決定することはできない。しかし、フトラフールによる掌蹠の色素沈着や、ブレオマイシンによる掻破性皮疹など、一見してそれとわかるものもある。また、ステロイドによる座瘡や、スパラによる光線過敏症など、その薬理作用や、その疹型の突出した頻度より容易に原薬剤を推定できる場合もある。また最近の喘息治療用のステロイド吸入剤は「ステロイドが吸収されないため、ステロイド作用による副作用はない」とされているが嘘である。この吸入剤使用後に頚部から頬部にかけて座瘡(ニキビ)が出現するケースがある。これはまさにステロイドの薬理作用そのものであるが、通常のステロイド座瘡が体幹部に好発するのとは違う形態をとっており、新しい形態の薬剤による新しい形態の副作用といえる。

 しかし、原薬剤決定にはかなり難渋することが多い。検索法としてはスクラッチテスト、皮内反応、パッチテスト、RAST法による薬剤特異的なIgE抗体検出、薬剤特異抗体を証明するエライザ法、薬剤添加クームス試験、白血球遊走阻止試験、リンパ球刺激試験、再投与試験などがあるが、一長一短で確実な方法はない。

 実は、薬疹かどうかの診断は皮膚科専門医にとってもかなり難しい。全身に皮疹を生ずる薬疹と、ビールス発疹症との鑑別は常に問題になる。筆者の経験では前者が後者より痒みが強く、発熱などの全身症状は後者において早期から出現、皮疹は前者で体幹部、後者では末梢部より出始めることが多いようである。

 薬疹の治療で一番重要なことは原薬剤の中止である。複数の薬剤を服用中に薬疹を生じた時には、各薬剤の薬疹発生頻度を考慮し、中止可能なものは中止、他系統に変更可能なものは変更する。しかし、ステロイドによる座瘡などでは有用性が副作用を上回ると判断し、敢えて中止しない場合もある。

 薬疹治癒後は再摂取による再発を防ぐことが重要である。従って、不確定でも、疑わしい薬剤名を記載したアレルギーカードを患者に発行、医療機関受診時には医師に提示させ、可能な限り再発を防止するように努めている。  

済生会新潟第二病院

丸山友裕 

註:「酒査」(しゅさ)という表記を用いましたが、この「査」の文字は、正確には偏が「査」つくりが「皮」の「査皮」で一文字(「さ」と読みます)です。フォントがないため「査」の文字を用いました。また座瘡の座の字は正確には「やまいだれ」ですがこれも同様の理由でこの文字を用いました。

註の註:私の恩師である佐藤良夫新潟大学名誉教授は文字の誤りには厳しく、いつも直されました。あるとき頼まれた仕事をして誤字が多のを知りながら、時間がなく、しかも公表する文書でないため、そのままとし「誤字・脱字ご容謝ください」と添え書きしたら「ご容赦だろう!」とこっぴっどくしかられました。なつかしいなあ。