小児のあざの診断と治療


済生会新潟第二病院 皮膚科 丸山友裕

 当院では1996年に母斑治療用にレーザー装置を2台導入し、小児の母斑治療にも応用し一定の成績を収めている。いずれも米国キャンデラ社製で、扁平な、色調の異常を主とする病変の治療に使われる。

 一台はヘモグロビンに特異的に吸収される波長を持ち、これを含む赤血球破壊する。従って血管性の病変に照射することにより溶血、血栓を引き起こし、異常な血管を消滅させる。いわゆる赤あざ、すなわち単純性血管腫、苺状血管腫などの治療に威力を発揮する。もう一台はメラニンに特異的に吸収される波長を持ち、これを選択的に破壊する。すなわちメラニン過剰によるあざ、太田母斑、色素性母斑、扁平母斑などに有効である。

 いずれもレーザー照射時に疼痛を伴うため、自家調剤の7%リドカインクリーム、またはペンレスを患部に塗布または貼付後30分ないし1時間後に照射を行う。  これらの装置は、従来のものと異なり、瘢痕形成などの危険は殆どなく、安全に治療できるばかりか、苺状血管腫の治療に対する概念を根底からくつがえしたといっても過言ではない。

A. 血管性のあざ(赤あざ)

(1)苺状血管腫  小児に好発する赤あざの一種である。生後数日から一週間位で出現し、7〜10か月まで成長する。従来の考え方は、一定期間成長したあとは自然退縮するので不用意な治療はしないほうがよい、というものであった(wait and see polisy) 。治療によりかえって瘢痕化を招く怖れがあることや、一時放射線治療が蔓延したことに対する反動からこの治療方針が普遍したものと考えられる。現在入手できる皮膚科、小児科等のテキストは殆どこの考え方が記載されている。  しかし、現在のレーザー装置(瘢痕を生じないレーザー装置として波長575〜577nmのflashlamp-pumped pulsed dye laser(色素レーザー)が開発された)を使用するようになってから、その考え方は一変した。生後一ヵ月以内の、未だ隆起の少ない苺状血管腫に対して治療した場合、その効果は劇的である。すなわち、増殖中の早期の血管腫はレーザー照射により紅斑の軽減のみならず消退も誘導される。  従って、レーザー装置を手にいれたわれわれとしては苺状血管腫は見つけ次第ダイ・レーザーで治療すべし、ということになる。  その理由としては@成長しすぎて、完全に消失できないものが、実はかなり多い。この場合赤みはとれても線維質が残ってしまう。Aレーザー治療は、初期のまだ隆起していない段階ではとても有効で、しかも治療によって痕になってしまう危険はほとんどない。Bしかし、隆起してしまった血管腫にはほとんど無効。  従って、見つけ次第レーザー治療をしてしまった方がよい、ということになる。この場合、放っておいてもきれいに治ってしまう苺状血管腫まで治療してしまうことになるが、そうでなかった場合の出血等のトラブルや、痕を残すことを考えれば、レーザー治療をしておいたほうが安全、ということになる。

 しかし現実にはこの初期治療のタイミングを逃したためレーザー治療の効果が期待できないケースもある。このような場合や、積極的治療の適応となるケース、すなわち、1)生命にかかわる器官に浸潤するとき、2)破壊性で急速に増大するとき、3)機械的に開口部を閉鎖するとき、4)出血するとき(血小板減少の有無にかかわらない)、5)心血管系の代償不全をきたす恐れのあるときは、従来通りの基準で、持続圧迫療法、凍結療法、ステロイド投与、手術、放射線療法などを施行すべきである。  とくに眼瞼部に生じた場合は、視性刺激遮断による弱視を生じる可能性があるため早急な治療が必要である。

 有効率は局面型でより高く、腫瘤形成したものでは、表在性の赤みはとれるが、腫瘤自体の平坦化はあまり期待できない。治療は3週間に一度の割で平均5回位施行している。生後10か月の時点で厚さ2ミリ以下であれば瘢痕化しないと考えられる。完全消失するまで治療を続ける必要はない。  

(2)単純性血管腫とその類症  

サーモン・パッチ  新生児に見られる、額、上眼瞼、鼻下等の淡い紅斑である。通常2歳頃までに自然消退するので放置してよい。最近、三代にわたって家族性にみられた、遺伝性と考えられる稀な非消退例を経験した。非消退例はレーザー治療の適応となる。

ウンナ母斑  新生児項部に高率にみられる紅斑である。通常サーモンパッチより色調が強い。後頭部のかなり上方にまで広がっているケースもある。文献上、自然消失「する」と記載されたものと「しない」としたものと両方みかける。これらはいずれも間違いであろう。著者の現在までの経験では小学生位から成人期位の人達にあまり観察されず中年以上で多く観察されることから、小学校上級位までの間にいったん消失し、青壮年〜中年齢以降に再び出現するのではないかと推測している。頭髪で隠れるためか、幼児期以降これを主訴に受診するケースはまずない。何らかの理由で治療を希望する場合は、レーザー治療の適応となる。

通常の単純性血管腫  生来性にみられ、平坦で、通常生後変化がみられない点で苺状血管腫と異なる。レーザー治療のよい適応である。神経走行に沿って広範囲にみられる場合がある。下肢に広範囲に出現した場合に、軟部組織の過発達をきたすクリッペル・ウエーバー症候群を呈する可能性もある。顔面でも、隙間なく非常に濃く赤黒い血管腫が出現しているケースで、頬部や口唇の腫大を見ることから、血管腫に伴う軟部組織の過成長は下肢に特有の現象ではないと考えられる。逆に、色調の濃いものでこの現象が観察されることから、過剰な毛細血管の存在による、一種の栄養過多がこの成因と思われる。したがって、乳児の下肢の広汎な単純性血管腫を診た場合、クリッペル・ウエーバー症候群を呈する可能性の有無は、色調の濃さ、血管腫の密度である程度推測できるものと思われる。

 レーザー治療の有効率は平均すると約70%で、四肢に比して顔面の方が有効率が高い。治療回数は一ヵ月に一度の割で5回から20回位である。治療によりいきなり瘢痕形成する危険性はまずないが、繰り返しの治療のうち徐々に治療部が陥凹してくることがある。この状態でまだ赤みが残存していればほぼ治療の限界である。一般に幼児期に治療したほうが、長じて治療を開始するより成績がよいと推測されているが、データー的な裏付けはまだない。

 また、年齢とともに徐々に疣贅状に隆起した部分は、レーザーで平坦にすることはできないので切除し、その後平坦な部分にレーザー治療をする。この手術創は血管腫により血流が十分なため、まず瘢痕にならない。 過去に放射線、ドライアイス、アルゴンレーザー等の治療を受けた部は、瘢痕化しているため治療成績は悪い。

 レーザー治療で消失したものが再発することはないと考えられている。リンパ管腫も単純性血管腫と同等にレーザー治療に反応するが、こちらは高率に再発する。

B. メラニン色素によるあざ(茶あざ、青あざ、黒あざ)

 メラニン色素によるあざは組織学的に、表在性のものと深在性のものに分類される。

 表在性のものは表皮基底層(表層からおよそ0.2mm)に過剰なメラニン色素が存在するもので、概ね茶色を呈している。小児ではソバカス、扁平母斑やレックリングハウゼン病に見られる色素斑がこれに該当する。熱傷や外傷後の色素沈着、成人に見られる肝斑や老人性色素斑も組織学的には同様である。

 深在性のものは表皮直下から真皮上層(表層からおよそ1mmまで)にかけて、本来存在しないはずのメラニン色素が存在するもので概ね青色を呈する。このタイプのものは太田母斑、青色母斑、蒙古斑などである。表在性のもの深在性のものが共存している場合は色調も茶色、青色が混在して見られる。太田母斑はしばしばこのような色調を呈する。表在性、深在性とも大過剰に存在すれば黒く見える。色素性母斑(俗に言うほくろ)はこのタイプである。  当院では、表在性色素生疾患にはキャンデラ社製色素レーザー(PLDL)を、深在性色素製疾患ではQスイッチアレキサンドライトレーザー(PLTL)を使用し、治療している。

(1)表在性色素性疾患

ソバカス (雀卵斑) およそ1回か2回のレーザー治療で劇的に消失する。しかし、ソバカスは先天素因に紫外線の影響で姿を現わして来るものなので、日光暴露を避けていなければ、2〜3年で再発する。

扁平母斑  月一回の治療で5〜10回位のレーザー治療を要するが、その成功率はおよそ30〜40%と低い。頻回の治療でかえって濃くなることもあるので、注意を要する。 Bレックリングハウゼン病における色素斑  扁平母斑とほぼ同様と考えられる。

熱傷や外傷後の色素沈着  初期のものには無効。一年以上経過したもので、「固定」してしまったものには有効である。

成人の肝斑(頬部、口囲の淡い色素斑) レーザー治療は無効なばかりかかえって悪化する。トランサミン、ビタミンC等の長期(3〜6か月)内服が有効である。

老人性色素斑 月1回、3〜5回のレーザー治療で70%消失させることが可能である。

 同じ表在性メラニン色素過剰症でありながら疾患により有効率に開きがあるのは不思議な感じがする。しかし、よく考えると、メラニン色素が「沈着」してしまったものには有効で、炎症により持続的にメラニン色素が生産されているものには効果がないと考えれば、一気に合点が行く。

(2)深在性色素性疾患

太田母斑  生下時には存在せず、数か月から2年位で発症する場合と思春期に発症する場合がある。いずれもレーザー治療の有効率はほぼ100%である。成人の場合、治療回数は月1回で20〜30回かかる。3か月に一度の治療にすれば、10〜15回ですむが、前者のほうが治療期間は短い。毎月行った場合回数を要するのは、レーザー治療自体により軽度の炎症後色素沈着を生じるためと思われる。治療開始が4歳未満であれば、治療に対する反応は早く、5〜10回で完治する。このため、太田母斑に対しては見つけ次第色が濃くならないうちに治療した方が二重の意味で良いと考えられる。

青色母斑  扁平なものは太田母斑と同じように反応すると考えられる。しこりとして触れるようなものは、切除等、別の方法を検討すべきであろう。

蒙古斑  基本的には自然消失が期待できるので、経過を見るべきであろう。異所性で、濃いものは消失しきらないものがあるので、この場合治療の対象となる。しかし、必ず消えるはずの臀部の蒙古斑が消失するまでは治療の対象にならない。

刺青  人工的に真皮内に炭素を入れたもので青〜黒に見える。その深さや濃さに応じた治療回数がかかる。理論的には薄くはなるがが、レーザー治療においては直径3ミリのスポット(殆どピンポイントといえる)で治療するため、手のひら大以上のものは事実上不可能である。また、炭素以外の物質による刺青は、その色調により、血管腫用の色素レーザーも用いて治療する。大型の刺青は切除または、ダーマトームで剥離後植皮する。

外傷性刺青  偶発的な理由により真皮内に異物が入ったのが透けて見えているもので、鉛筆、交通事故などによるアスファルトが多い。いずれも炭素であり、人工的な刺青より容易に、2〜3回のレーザー治療で除去できる。

色素性母斑  俗に言う「ほくろ」の事である。先天性のものは概して大型で色も濃い。本症はその、位置、形、大きさ等により適切な治療法を選択する必要がある。レーザー自体が有効である確率は40%位である。治療回数はほぼその濃さに比例し、月一回で10〜30回である。この治療回数は相当の期間を要するので、切除を第一選択とすることも多い。  数回に分けて切除縫縮、植皮、切除しきれない部分にレーザー照射等、色々なパターンがある。

以上に述べたレーザー治療の必要回数、有効率を表にまとめた(表)。

(表) 各種母斑に対するレーザー治療の有効率・治療回数  

苺状血管腫: 開始時期による        

純性血管腫: 70%  5〜20回        

     ソバカス: 90% 1〜2回               

     扁平母斑: 30%  5〜10回            

  太田母斑(小児): 100% 5〜10回              

    外傷性刺青: 90% 2〜3回               

           色素性母斑: 40%  10〜30回