Q リコーダーを始めた頃のことについて聞かせてください
高校に入ってから始めたのですが、越野昌芳君という同学年のすごくうまい人にしごかれました。毎日新しい曲の楽譜を持ってきては初見で合奏させられるのです。やり直しは許されず、一回きり。うまくできないと悔しい思いでその楽譜をコピーして家で練習するのですが、翌日はまた違う曲、といった具合でした。おかげで初見がものすごくきくようになったのと、バロック特有のフォーミュラーが身についたのです。後の私にとって大きなことです。
Qフォーミュラーといいますと?
個々の音や一曲一曲をさらって音楽を仕上げて行くのではなく、バロックならバロックの音楽特有のイディオムをかたまりとしてとらえるのです。だから楽譜を一瞥しただけで、その曲のテンポ、ニュアンス、構築などをとらえ、演奏できます。簡単にいうと「ノリ」がわかるということですね。ジャズなどの奏者はこの方法で音楽を作っていると思います。クラシックの分野でもこのあたりの感性を早期に磨くような教育をすれば個性的な奏者がさらに増えると思います。
Qお医者様でいらっしゃいますが仕事との両立は?
医師という責任の重い職業に就きながら音楽などやっていて良いのかずいぶん悩みました。 しかし、音楽をしている時と医師をしている時は別の部分が働いて、互いに休息させ高めあっているのではないかと考えるようになってからは、あまり気にならなくなりました。 いくら医学が進歩しても人はみな死にます。その意味では医学は究極において無力なわけです。本当の医療の役割は皆がより豊かに生活するのを手助けすることではないかと思うのです。そのためには自分が豊かでなくてはいけない。本当の豊かさとは何なのか私は音楽を通して探し続けているのかもしれません。