珠のような赤ちゃんの話
皮膚科の外来には赤ちゃんから、お年寄りまで沢山の方が見えます。毎日診療をしていますと、色々な出会いがありますし、嬉しいこと、悲しいこと、おかしいこと等が沢山あります。きょうはその中から、ちょっと変わったエピソードをご紹介しましょう。
ある日、生まれたばかりの珠のようなあかちゃんを抱いた お母さんが皮膚科を受診しました。
「どうされましたか?」私は、いつもの寝ぼけたような声で尋ねました。
「あのう、この子なんですけど・・・」お母さんは真剣です。
「生まれたときから頭のてっぺんにハゲがあるん です。」
「どれどれ」と頭を見た私は答えました。
「はいはい、これは脂腺母斑といいましてね・・・」
わりとありふれた皮膚病なので自信満々で答えました。
「良性のアザの一種です。放置しても差し支えありません が、ごく稀にですね、この子が年をとっておじいさんになる頃に、この部分に癌ができる可能性があるといわれています。滅多にないことですが、一応念のため成人するまでに手術して除去すれば安心です。」
しかし、お母さんは何も言いません。よく理解していただけなかったのかと思い、もう一度説明しました。それでも、お母さんは何も言いません。ひょっとしたら「癌」等という言葉を使ったのでショックを受けたに違いない、と思った私は
「いやいや、お母さん、心配ありませんよ。癌になるったって滅多にないことだし、ましてやこの子がおじい さんにな ってからです。ね、おじいさん。だから・・・」
一生懸命説明する私の声をさえぎるように、お母さんは言い ました。
「あのう、この子、女の子なんですけど・・・」
申し訳なさそうに言うお母さん。自分の大失敗に気付いた私は慌てて大声で訂正しました。
「すみません。間違えました。おばあさんでした! 」
と言った瞬間です。生まれたばかりの子をおばあさんといわれたそのお母さんは、珠のようなあかちゃんをぎゅうっと抱きしめたのでした。
お母さんと、赤ちゃん。すみませんでした。 もし、この放送を聞いていたら、笑って許してください。
では紙と鉛筆をご用意ください。「たけやぶやけた」でおなじみ。逆さ言葉の「本日の回文」です。 書き取って反対から読んでみてください。
「おねむの子、泣くなよ泣くな、この胸を」
(おねむのこなっくなよなくなこのむねお)