リコーダーとの出会い〜後藤君の笛
小学生のとき縦笛で鉄腕アトムのテーマを演奏し、一躍時の人になった私でしたが、本格的にリコーダーを始めたのは高校に入ってからでした。そのきっかけは兄の大騒ぎです。
ある日2歳年上の兄が、学校からどたどたと帰って来ると、
「大変だ大変だ。同級生の後藤君が新潟市歌のコンテストで優勝した。あの有名な芥川也寸志先生に認められたらしい。」
ほ〜、そんなすごい人がいるのか、と家族一同顔を見合わせて驚きました。兄は、高校に入ってからフルートを習っていましたがまだ初心者で、子供の頃からピアノやヴァイオリンを弾きこなしている後藤さんをたいそう尊敬しているようでした。それからしばらくわが家では後藤さんの話題で持ち切りでした。その数日後です。食事中に兄が
「後藤君は新潟市歌の賞金でリコーダーを買うらしい。すごい楽器だ。どうだ、友裕、おまえもやってみないか」
と突然言うのです。思わずご飯を丸のみしそうになった私は、むせながら
「やる、やる」
というのが精一杯でした。私はリコーダーとはどのような楽器なのか全然知りませんでした。ましてや自分が鉄腕アトムを吹いた縦笛と同じ楽器だとは夢にも思いませんでしたが、芥川也寸志先生に認められた人が記念に買うんだから、これはきっとすごいものに違いないと思いました。
数日後、賞金で手に入れたリコーダーを持った後藤さんがわが家を訪れました。おもむろに蓋を開けたケースのなかには梨の木で作られたというリコーダーが燦然と輝いて見えました。
「どうぞ、触ってみて下さい。」
高校生にしては大人びた感じの後藤さんに優しく勧められました。しかし、緊張した私は思わず台所に走り、
「汚い手で触ってはいけない。」
と、食事の前にも洗ったことのない手を一生懸命石鹸で洗ったのです。この瞬間に私がリコーダーを始める事が決定したと言ってもよいでしょう。
後藤さんとは、その後東京芸術大学で作曲を専攻し、現在上越教育大の助教授として活躍中の後藤丹先生のことです。最近、先生はお祭りの篠笛を習い始めたそうです。近所の神社の盆踊りで、お囃子の笛が非常に巧いおじいさんに出会い、あまりのうまさに感激し、その場で入門して毎週通っているそうです。お祭りの笛の音を聞くと血がさわぐという後藤先生は来年あたりどこかの神社で祭ばやしを吹いているかもしれません。
それではメモをご用意ください。「たけやぶやけた」でおなじみ。逆さ言葉の「本日の回文」です。後で反対から読んでください。
「遠ざかる オカリナ友と 涙した 皆友となり 薫る風音」
(とおざかるおかりなともとなみたしたみなともとなりかおるかざおと)