わが家に電子レンジが来た日
わが家には電子レンジがありません。いえ、正確に言うと、ついこの間までありませんでした。
赤ちゃんを連れてきたお客さんが、幼児用の電子レンジで暖める食べ物を持参して、
「すみません。ちょっとチンさせてもらえませんか?」と言っても、うちのかみさんは
「は?チンて何ですか?」と全く話が通じないありさまです。
そんなある日新潟から大阪に引っ越す友人が電子レンジをくれるというのです。私はわくわくしました。わが家にも21世紀を迎える前についに電子レンジが入るのです。
さて、待望の日。知人が電子レンジを置いていった後、早速使って見ようということになりました。台所にはスペースがないため食堂に置きました。マグカップに入れたミルクを暖めるように頼み、居間で待つこと数分。さっぱり出来てきません。
しびれを切らした私が見にいくと、家内は血相を変えています。
「どうしたの?」と尋ねると、
「どうしても扉が開かないの」よく見ると一生懸命手で開けようとしています。
「あのねえ。これはボタンを押すの」妻はちょっと恥ずかしそうな顔をしました。
あまりのメカ音痴にあきれた私は自分でやって見ることにしました。ミルクの入ったコップを入れ、
「よし、これなら一分」
タイマーをセットし、じっとプレートの回転を見つめ、ふと振り返るとかみさんは厚手のミトンの鍋つかみを手にはめて待機しています。
「なにしてるの」と尋ねると
「だって熱くなるんでしょう?」と真剣な表情です。
私は思わず
「どっひゃ〜〜。これは電磁波で水分だけ振動させるからコップは熱くならないんだよ」と説明したときです。かみさんじりじりと後退りしながら言いました。
「それって放射能じゃないの?そんなに近づいて大丈夫??」
どひゃひゃひゃひゃひゃ〜〜と私は腰を抜かしてしまいました。
その後、何故かわが家の電子レンジは殆ど使われていません。現在、電子レンジの上には本が積み上げられ、ドアの前にも小物がぎっしり。扉が開かれることはありません。正直いうと別にあってもなくてもあまり関係なかったのでした。放射能と言うのは冗談としても、電子レンジを使うか使わないかはメカ音痴かどうかではなく、どうもその家庭の生活様式によるようです。そういえば、私の実家にも電子レンジはありません。
持っている人はこれほど便利なものはないと言いますが、ないから不自由だと言う人は私の周りにはいませんでした。その意味では電子レンジって不思議な機械ですね。皆さんのご家庭では如何ですか?
本日の回文
「私んちで まな板の鯛、生でチンしたわ」
(わたしんちでまないたのたいなまでちんしたわ)