遅刻の王者


 この年になっても朝寝坊の癖はとれません。

 あるとき「早起きをすると欲がなくなる」という話を人から聞き、なるほど、とおもいました。たぶん早起きにより身の回りのことなどこまめにするようになり、体を動かしたりしているうちに煩悩が消えていくのだろうと考えたのです。

 煩悩の多い私は早速早起きをしようと、普段より2時間も早く寝ましたが、寝過ぎたためかえって眠くなり、ますます起きることができませんでした。

 何日か挑戦しましたがそれまで8時間だった睡眠時間が結局は10時間に伸びただけでした。ついに私は諦め、「睡眠・覚醒には人それぞれのパターンがあり、どうにもならないものだ」と勝手に決め付けることにしました。

 そんな私ですから小中学校の頃はしょっちゅう遅刻していました。それで付いたあだ名が「遅刻の王者」

 中学に入学した、その2日目の出来事です。前日入学式を終えたばかりの新入生600人がオリエンテーションのため体育館に勢ぞろいしていました。いえ、正確に言うと私を除く599人がクラスごとに整然と並んでいました。入学早々遅刻した私は息せき切って体育館に駆けこみました。しかし何せ一学年14クラスの大所帯です。前の方の先生の顔は見えないしクラスメイトの顔もわかりません。

「えーと12組12組」

と心に念じながら列の後ろを歩いて行くと、奥から三列目の最後尾に昨日知り合ったばかりの同じクラスのS君の顔が見えました。奥から順に14組、13組、12組と並んでいるようです。

「君、S君だよね。」

と確認し、ほっとしてその後ろに付きました。やっぱり昨日友達になっておいといてよかった。心のなかでつぶやきました。しかし入学早々の失態で先生の話は上の空。あっという間にオリエンテーションは終了し、クラスごとに行列して教室に向かいました。初対面の者が多いためか皆口数は少なく、私も珍しく黙って歩きました。渡り廊下を渡って教室に入りました。

あれ、何かおかしいぞ。自分の席がありません。教室の様子も何か違います。

「S君。君、昨日と違うところにすわっているね」

と言いましたが、彼はとぼけた顔で

「あんた誰?」

というではありませんか。私は少し興奮して

「君ぃ、昨日あんなに喋ったのにもう忘れたの?」

と詰め寄りました。すると彼は突然笑い出したのです。

「あんた、弟と間違っているね。俺、双子なの。俺3組、弟12組!

慌てて教室を飛び出し確認するとそこは、やはり3組。他のクラスに紛れ込んでしまったのでした。

かくして、幸先の悪い私の中学校生活が始まったのでした。

本日の回文

「さあ、よきお目覚め。起きよ朝。」

(さあよきおめざめおきよあさ)