関屋分水横断事件
高校3年の頃、その数年前に完成した関屋分水のほとりをよく散歩しました。 海に面した水門は閉じられたまま、その実関屋分水はほとんど溜め池の状態でした。
ある日、隣のクラスの友人K君と関屋分水のほとりを散歩していた私は、川幅200メートル程の対岸を見つめながらふとつぶやきました。
「ここを泳いで渡ってみないか?」意外にもあっさりとK君は承諾しました。
K君は変人として有名で、人目を気にしないという点で私と共通性があり、不思議と気が合うのでした。当日はもう陽が暮れそうなので、翌日、ということになり、時間を約束して別れました。
翌日、約束の場所に到着した私は驚きました。半数近くの同級生が見物に集まり、中にはカメラを持っている人もいるのです。朝、学校でクラスメイトの一人に何気なく言ったのがあっという間に広まったようです。シャツを脱ぐと水泳部のK君は筋骨隆々。私は自分の貧弱な体が急に恥ずかしくなりました。
いよいよスタートです。ドボンと飛び込む二人。橋の上からはヤンヤの喝采。K君はどんどん進みます。追い付かないと悟った私は、クロール、平泳ぎ、バタフライ、横泳ぎに犬かき、得意の”イカ泳ぎ”、”溺れ泳ぎ”等を披露、橋の上の同級生は大爆笑で付いてきます。最後には”鯨の潮吹き”も披露。これは口の中いっぱいに水を溜め、潮吹きよろしく水を噴射しながら泳ぐものです。
数分後、無事対岸に到着。先に到着していたKと肩を組んで写真に収まり、無事イベントは終了です。同級生達も大満足で帰路につきました。私と二人残ったK君が小声でつぶやきました。「おい、体がべたべたしないか?」「う〜ん、たしかにべたべたするなあ」相談の結果、海まで行って「身を清める」事にしました。しばし海で泳いで陸に上がると、すっきり爽やか。関屋分水はよほど濁っていたようです。
翌日からは何事もなかったように、また平凡な日々が再開しました。ところが数日後の朝、何気なく新聞をみていた私は一つの記事に眼が釘づけになりました。見出しに『清掃業者、関屋分水に糞尿を不法投棄』とあります。この業者は数年間に渡り、家庭より汲み取った糞尿を密かに関屋分水に投棄し続け、その総量は何百トンにも及ぶというのです。さすがの私も飛び上がりました。その日学校に行くと、すぐK君のクラスへ向かいました。行ってみるとK君はいません。なんと下痢と発熱がひどくて入院したというではありませんか。 それにしても何故、鯨の潮吹きまでした私が何ともなく、すいすい渡ったK君が発病したのでしょうか?
良い子の皆さん、決してまねをしないでくださいね。
「本日の回文」
いかん、下痢、限界!
(いかんげりげんかい)