「死者の代弁者」(上・下) オ−スン・スコット・カ−ド ハヤカワ文庫 「エンダ−のゲ−ム」から3000年を経て・・・・ 惑星ルジタニアで発見された知的生物ピギ−。人類はバガ−を滅ぼしてしまった<異類皆殺し>(ゼノサイト) の教訓からある程度の距離を保ってピギ−に接触する。ところがある日<異類学者>ピホが残酷な形でピギ−たちに殺されてしまう。ピホのため<死者の代弁者>が呼ばれる。が一番近いところにいた<死者の代弁者>ですら到着までに、22年の歳月を要してしまう。そして、<死者の代弁者>が到着する直前、またしても<異類学者>であり、ピポの息子でもあるリボが、ピポと同じように殺されてしまった。一体何故? まさか、3000年もの時を越えてエンダ−に再びめぐりあえるとは思ってもいなかった。 ピポ、リボの死と異類であるピギ−の生態の謎が終わりちかくまで明かされず、「相手を知り、理解すること」の大切さと難しさを感じさせる。ピギ−がピポ、リボにしたことは、殺すつもりでやったことではなかった。 しかし、それぞれの生物(ピギ−、人間)の生態があまりにも違いすぎるため、不幸な結果になってしまったのだ。 3000年前、バガ−を皆殺しにしたことで<異類皆殺しのエンダ−>という不名誉な伝説をもち、一方で伝説の著書「窩巣女王」「覇者」の著者<死者の代弁者>として別の意味で伝説の存在となってりいるエンダ− バガ−皆殺しの轍を踏まないよう、ピギ−と共存するためにお互いになんとか理解しあおうと、お互い話し合う。そしてピギ−、人類、窩巣女王、の三者で調印するまでに漕ぎ着ける、が・・・・ エンダ−はここでやっと落ち着いた生活を手に入れる。エンダ−自身は、まだ30歳代半ばとはいっても、歴史は3000年もの時が過ぎている。エンダ−と共に時を越えて旅をしてきた姉でさえ、別の惑星で結婚し、子供をもうけエンダ−とは離れ離れだ。そんなエンダ−が安住の地を見つけ、窩巣女王との約束を果たすことができて本当に良かった。 「エンダ−のゲ−ム」とは趣を異にする作品ではあるが、またエンダ−に会えて素直にうれしい。 「ハイペイオン」と並んで、最近読んだSFシリ−ズの中でも最高に好きなシリ−ズとなった。 「ゼノサイド」に続く内容のようなので、順番に読んでいきたいと思う。楽しみ! |
「詩人の夢」 松村栄子 ハルキ文庫 「紫の砂漠」の続編。 読み進めながらずっと違和感がつきまとっていました。つまらない、ということではないのだけど。 たとえば会話を 「 」ではなく <>であらわすこと。これは「紫の砂漠」を読んだ時にも感じたけど、どうも私は苦手のようです。。また、言葉の不統一感。ずっと「遠くにいながらにして連絡をとりあう力」と表現されていることがP.329では「透視や念話」などという言葉になっていることとか。 とはいいながらも、やっぱり面白かったのかな。 でも、「紫色の砂漠」「巫祝の森」のもつイメ−ジには【紫色の溶液に浮かぶ詩人】は不似合いな気もするけど。だっていきなり【クロ−ンの本体】でしょ?なんか違うっていう気がして・・・ なんだかんだと、なんくせをつけた気もするけど、それはこの続編への期待が大きかったから。点が辛くなるということで許してくださいな。 でも、全体には美しく、イメ−ジが豊かで、読んでよかったと満足できる作品であることは間違いない。 |
「かめくん」 北野勇作 徳間ディアル文庫 かめくんは「木星戦争」のために開発されたカメ型ヒュ−マノイド・レプリカメ。 でも、かめくんはかめくんであってかめくんでしかない。 たんたんと語られるかめくんの日常。仕事に行き、図書館に行き、買い物をし、布団で寝る・・・・そこには、戦争のために作られた、ことなんてうそのような、普通でありふれた毎日だ。そしてかめくんは考える。世界には甲羅の内側と外側しかない。と。 軽いようでいて、深い深いかめくんの世界。そして切ないラストシ−ン。「かめくんはかめくんであって、かめくんでしかない」はずのかめくんが「かめくんはかめくんだけど、かめくんではない」になってしまうのか・・・・・ ほのぼのしているような、なんとも不思議な本でした。 意外だったのは子どもたちの反応。いつもだったら「ママ〜、また本を買ったの〜!」と冷たいのに、この本は「へ〜。かめくんだって。どんな話?おもしろいの?読み終ったら貸して」と二人して言ってきたこと。 さすがに小1の息子にはまだ無理だけど。 この表紙の絵、「かめくん」という題名が「何だろう?」「どんな話だろう?」と思わせるものがあるようです。 |
「エンディミオン」 ダン・シモンズ 早川書房 「ハイペリオンの没落」から約300年後の惑星ハイペリオン。 ロ−ル・エンディミオンという青年が死刑になる直前、ある老人の意図によって助け出される。その老人とは、かつての<時間の墓標>の巡礼のひとり、詩人のマ−ティン・サイリ−ナスだった!エンディミオンは間もなく<時間の墓標>から現れる一人の少女を救い出すことを頼まれる。その少女こそ、全世界の命運を握っているのだ。 あぁ。SFが好きでよかった!心から思いました。ほんとに面白かった。 この本では「ハイペリオン」でチラっとでてきた、<聖十字架>が大きな役割を担っています。全体に宗教色が強く、宗教をもたない私には、不可う理解できない部分も多かったように思います。 でも、それでも、おもしろい。そしてうまい! このお話は『エンディミオンの覚醒』へと続きます。さらに厚くて重たい本が待っている・・・・ |
「 ハイペリオンの没落」 ダン・シモンズ 早川書房 7人の巡礼が<時間の墓標>にたどりついたところから物語りは始まる。「ハイペリオン」でそれぞれが語った、巡礼にでた理由が、さまざまな形で結末を迎える。そして、それはある時代の終末でもあった。 なにを書いてもネタばれになりそうで、うまく書けないのですが、とにかく、「ハイペリオン」を読んだらこれも読まずにはいられない。そして期待はけしてうらぎられません。 遠くの星に一瞬でいく事ができる、「転移ゲ−ト」や「ホ−キング絨毯」(要するに空飛ぶ絨毯)宇宙を飛ぶ森「聖樹船」など、読んでイメ−ジするだけでも楽しかったです。 |
「紫の砂漠」 松村栄子 ハルキ文庫 あの『至高聖所』(芥川賞受賞)の松村栄子はこんな本を書いていたんですね。 私的には『至高聖所』はイマイチだったのですが、『紫の砂漠』は楽しめました。特に心に残ったのは子供が成人するまでの親子の関係のところ。7歳までは産みの親のところで育ち、その後<運命の親>のところで7年間仕事を覚え立派な村人になり、7年間の<運命の親>への恩返しの期間をすぎれば自由になれる・・・ 本のはじめの方で頭がおかしくなった母親の世話をするクルトがいう 「(略)母さんの馬鹿みたいな話を聞いているのは確かに疲れるんだ。だけど一番疲れるのはそれが自分を生んだ母さんなんだってことなんだ」という部分が一番印象に残ってます。 読後感は切なく、物悲しい、しっとりとした感覚でした。 |
「ハイペリオン」 ダン・シモンズ 早川書房 辺境の惑星ハイペリオン、ここにはなぞの遺跡<時間の墓標>があり時を超越した怪物シュライクがいた。 <時間の墓標>をとりまく抗エントロピ−場が膨張し、とらわれているシュライクが解き放たれるときがちかづいているという。惑星ハイペリオンに因縁浅からぬ7人が最後の巡礼として<時間の墓標>の謎と解明する旅にでた。 お話は巡礼にでた7人が自分の過去やハイペリオンとの関係を語る形で進んでいく。 7人が語る物語がそれだけでも、1冊の本にできそうなもので、面白かったです。 特に気に入ったのは「学者の物語」。切ないです。成長するのではなく、時が遡る子供を目の前にするのは親にとってどんなにか、つらいことか・・・・ <時の墓標>についたところで物語りは「ハイペリオンの没落」へと続きます。 はやく続きが読みたい! |
「M.G.H. 楽園の鏡像」 三雲 岳斗 徳間書店 日本SF新人賞 受賞作 多目的宇宙ステ−ション『白鳳』で起きた不可解な死。無重力空間なのに、まるで数十メ−トルの高度から墜落したかのような死体だった。はたしてこれは事故なのか、事件なのか? 場所が宇宙ステ−ションなので、SFではあるのでしょうが、ミステリ−と言った方がいい感じ(作者も後書きでSFミステリ−と書いています)読んでいて、森博嗣のミステリ−を思い出しました。 SFは苦手という人でも、ミステリ−好きなら楽しめると思います。 |
「星虫」 岩本 隆雄 ソノラマ文庫 氷室友美は16歳。高校1年生。5歳の時にロケットの打ち上げを見て以来、「スペ−スシャトルのパイロット」になるのが目標になった。でも、バカにされるので、人には内緒。学校では、模範生を装いつつ、一人トレ−ニングに励んでいた。 ある日・・・・ 無数の星が降ってきた。「星虫」と呼ばれるようになったそれは、人の額に張り付き、視力や感覚などを増幅してくれた。 最初のうちは歓迎されていた星虫だったが、額の上で段々大きくなり足が生え始め、音を出し始めると危険扱いされるようになり、ほとんどの人が取ってしまった。 そして 残った星虫は友美と広樹のものだけになった。 おもしろかったです!中盤、星虫が大きくなるところで、ちょっと「うひゃ〜」という部分もあったんですが、星虫の意外な正体などなど、感動でした。 小学生の頃読んでいたら、私も友美のように、夢をあきらめなかったかもしれません。(実は私も宇宙飛行士になりたかったんですよ!ほほ)できれば、子どもに読んでもらいたいなぁ。 |
「猫の地球儀−焔の章−」 秋山 瑞人 電撃文庫 「猫の地球儀 その2 −幽の章−」 はっきり言って、ネットで話題になっていなければ、手にとって見ることもしなかったかもしれない。だって、表紙の絵とか、ちょっと・・・・・ −焔の章−はどちらかというと、物語の導入部分であり、「スカイウォ−カ−」や「トルク」「スパイラルダイブ」などの用語説明と人物紹介なのかな。まだ物語のおもしろさは見えてこない。 −幽の章−は!!!すごく良かった!ちょっと長いけど好きな部分を引用します。 「誰もが自分の話の中では王様で、しかも話の力というのは強力だ。 言霊というやつだ。そいつをほんとうにすごい奴にしたりもするし、 どうしようもない奴にしたりもする。猫は自分の話しが要求するなら、 自分の望むように自分の話しを完結させるためなら、死ぬことさえできる。 −中略− そいつが生きている夢の中から、その猫を救い出すことは、たぶん誰にも できないのだ。それは「いい」でも「悪い」でもない「悲しいこと」なのだと思う。」 本当に涙がでました。かわいくて、けなげな猫たちに幸せあれ! |
殺竜事件 上遠野 浩平 講談社ノベルス 雑誌『ダ・ヴィンチ』の作者のインタビュ−を見て、おもしろそう!と期待が大きすぎたのか、残念ながら期待はずれでした。 魔法が戦争の武器としてつかわれる世界。世界に数匹しかいない、絶対な力を持つ不死身のはずの竜が刺殺された。 いったい、誰に?何故?どのようにして?謎の答えを探すため、ED、レ−ゼ、“風の騎士”ヒ−スロゥは旅にでた。 3人の誰にも感情移入できなかったのが、敗因かな?旅に出る動機にしても、合って話しをした人たちについても、いまひとつ、必然性が感じられない。だから、なんとなく最初ら最後まで、もやもやとして終わってしまったような気がして・・・・私の読み込み不足かもしれませんが。 |
風の名前 妹尾 ゆふ子 プランニングハウス 名前の魔法が支配する世界。名前を持たない妖魔使いと、ひとつの名前をその記憶とともに受け継いできた巫女が旅にでた。巨大な身体を、ただただ前進させることしか考えない幻獣、長虫を追って・・・・ マキリップの『妖女サイベルの呼び声』を思い出させる設定でした。サイベルファンとしては、こちらもすんなりと入っていける世界で、楽しめました。 ただ・・・結末についてはちょっと不満かな。もっと、別のハッピ−エンドを期待していたので。 先日読んだ、『ノスタルギガンテス』でも、【名前】というものが、特別な位置をしめていたし、『時計を忘れて森へいこう』でも、【名前】について考えるところがあって、ちょっと名前ってなんだろう、って考えてしまいます。 |
ノスタルギガンテス 寮 美千子 パロル舎 櫂が作ったメカザウルスをお母さんがゴミに出してしまった。 青い、他のどんな青より青いガラスの目をした、メカザウルス。ただの『ゴミ』にされてしまうのがつらくて、こっそり公園の『隠れ家の木』の上のほうに針金や麻ひもでゆわえつけた。 この木は櫂にとって『神殿』だった。でも、そのことがすべてのはじまりでもあった・・・・ 読みながらずっとイメ−ジしていたのは、『琥珀の中の虫』だった。透明で、周りはよく見えるんだけど、閉じこめられていて、出られない。琥珀や水晶のような、硬く、透明で美しいものに隔てられている感じ。 それは、櫂が感じていた閉塞感だったのかな・・・ |
小惑星美術館 寮 美千子 パロル舎 遠足の朝、オ−トバイにはねられ、銀河盤に衝突したユ−リ。気がつくと地面が空までめくれあがった、不思議な光景の中にいた。そっくりの風景、そっくりの友だち。でも何かが違う。「十二歳の子は遠足に行くのが掟」と無理矢理宇宙船に乗せられるユ−リ。 行き先は<小惑星美術館>船長はユ−リに「いつの日かしるしを持った十二歳の子がやってきて、小惑星美術館の秘密を解くだろう。その時『れんがの月』の大いなる円環は開き、新しい時が始まる」という伝説を語る。そしてユ−リこそしるしを持った少年に違いない、と。 小惑星に浮かぶ、アンモナイトや様々な動物。巨大なパイルオルガン。想像しただけでも、ため息が出るほど、美しい。 マザ−という機会に管理されているところは、竹宮恵子の「地球へ」を彷彿させるし、宇宙船の船長に選ばれた人には、20歳になったら、迎えがくる、という、ところはブラッドベリの短編を思い出させるけど。でも、好きだなぁ。 |
エンジン・サマ− ジョン・クロウリ− 福武書店 <嵐>と呼ばれる大崩壊後の未来のアメリカ。 そこではインディアンの末裔達が、一種の牧歌的ユ−トピア社会を形成して暮らしていた。そうした集落のひとつ、リトルリベアに住む、てのひら系の少年<しゃべる灯心草>の独白によって物語は始まる。 なんとも、不思議な雰囲気の本だ。舞台的には、「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」のような感じ。 (この本の中にも天上都市ラピュタが出てくるのだが、ジブリの映画と関係があるのか?)<しゃべる灯心草>が ”聖人”になろうとして旅にでた。その冒険貪譚。 <一日一度>と呼ばれる美少女、ドクタ−・ブ−ツと巨大な猫族。謎の水晶体などなど。 本の中にながれるゆったりとした雰囲気が、心地よく、先へ先へと読みたい、というより、読み終わってしまうのがもったいない、と思うような、なんとも言えない、今まで読んだことがない、不思議な本だ。 |
「人獣細工」 小林泰三 角川ホラ−文庫 3つの短編からなる本。「人獣細工」は病気のための臓器移植としてぶたの臓器を移植された少女の話。おどろおどろしくて食後には読みたくない内容だ。 人間はたぶん技術さえあれば、このようなことをするだろう、と思うし、もしかしたら、すでにどこかで行われているかも、とさえ思う。 ホラ−集なんだけど、人間の欲望の底知れなさ、愚かさが恐ろしい本だった。 |
「アンドリュ−NDR114」 アシモフ&シルヴァ−グ 創元SF文庫
5月13日に公開される映画の原作。 |
「キラシャンドラ」 「クリスタル・シンガ−」 アン・マキャフリ− ハヤカワ文庫 クリスタルを掘り出す”クリスタル・シンガ−”になったキラシャンドラの物語。 「クリスタル・シンガ−」の方はキラシャンドラがどのように クリスタル・シンガ−になったか、クリスタル・シンガ−とはどのような 職業か、などの説明的部分が多いが、これを読んでおかないと、 「キラシャンドラ」の内容はわからないので、両方セットで読むとよい。 |
「歌う船」 アン・マキャフリ− 創元SF文庫 身体は奇形だったが頭脳が優秀だったため、宇宙船の身体をあたえられたサイボ−グ船ヘルヴァの成長の物語。 サイボ−グ船という部分はSFだけど、全体の印象としては、SF、というより、ヘルヴァがいかに成長し、行動するか、というはなし。「SFは苦手」という人にも充分楽しめる本だと思う。 |