情報通信技術の発展は急速に進んでいるため、調査や研究、あるいはコンサルティング等を行う場合にも少し先ぐらいを見越しておく必要があります。そこで、少し先の技術について少しずつですが、整理していきたいと考えています。書いた時点からすぐに内容が変わる可能性もあるのでご留意下さい。

スーパーコンピュータの行方


はじめに
 スーパーコンピュータとは文字通り、一般的なコンピュータではなく、突出した性能を持ったコンピュータのことである。しかし、それは一つの時点、つまり現時点における比較であり、異なる時点での比較ではない。すなわち、過去においてスーパーコンピュータであったとしても現在において変わらずスーパーコンピュータであるかどうかは分からない。
 このようなスーパーコンピュータの動向を把握するのに非常に有用なサイトとして"TOP500 Supercomputer Sites" があり、1993年から情報発信を行っている。以下では、このサイトで公開している統計数値をもとにスーパーコンピュータの動向について整理してみたい。

供給者
 スーパーコンピュータの供給者(vendor)は1990年代は10社強しかなかった(12社(93.6)、11社(98.6))が、2000年代(24社(03.6)、26社(06.11))にかけて急速に数が増加している。ただし、数が増加しても競争が激しくなっているわけではなく、むしろ寡占化が進んでおり、トップ5のシェアはむしろ高くなっている(81.6%(93.6)→83.6%(98.6)→83.2%(03.6)→89.2%(06.11))。

設置国
 スーパーコンピュータの設置されている国は供給者同様、1990年代は20数カ国であった(23国(93.6)、24国(98.6))が、2000年代に入ってから30数カ国へと増加している(2000年代(34国(03.6)、32国(06.11))。最も設置されている国が米国であることは1993年以降変化していないが、設置されている割合は年代によって異なっており、近年、米国のシェアが再度拡大している(45.0%(93.6)→57.0%(98.6)→49.4%(03.6)→61.8%(06.11))。1993年時点で我が国は米国に次いで22.2%のシェアが設置されていたが、2003年にはドイツが2位となり、2006年には再び2位に返り咲いたものの、シェアはわずか6.0%であり、米国1国にスーパーコンピュータが集中している状況にある。また、設置国に占めるヨーロッパ諸国の割合も低下している。

アーキテクチャ
 スーパーコンピュータのアーキテクチャは、1990年代、SMP(共有メモリ型並列計算機)が主流であった(49.8%(93.6)、53.2%(98.6))が、その後、MPP(大規模並列型計算機)へと主流が移行し(43.8%(98.6)、42.2%(03.6))、最近はクラスター型が主流になっている(29.8%(03.6)、72.2%(06.11))。ただし、2006年11月の上位20の内、6割がMPPである。
 スーパーコンピュータに用いられているプロセッサは1993年6月時点でベクトル型(専用設計)が主流であった(66.8%)が、その後、スカラ型(汎用設計)へと移行し、2006年11月では、全体の98.6%を占めている。

プロセッサ
 スーパーコンピュータに使われているプロセッサ数は年々増加している。1993年6月では、1~8個が主流であったが、その後、33~64個(88.6)、129~256個(03.6)と主流がシフトし、2006年11月では513~2048個が主流となっている。この数値から分かるのは、スーパーコンピュータの処理能力の向上が半導体よりも速いということである。通常の半導体ではムーアの法則が今でも生きている言われているが、半導体の数によっても処理能力を変化させるスーパーコンピュータでは、CPU数が限られているパソコン等よりもその処理能力が大きく変化する。
 パフォーマンスは2006年11月で最も速いIBM社のBlueGene/Lで280.6テラフロップスになっており、1993年6月で最も速かったシンキングマシーン社のCM-5/1024(59.7ギガフロップ)の約4,700倍になっている。この発達速度は18~24ヶ月で半導体の集積度が2倍になるというムーアの法則よりも速い。
 2006年11月のデータをもとに、パフォーマンス(被説明変数)とプロセッサ数と周波数(説明変数)の重回帰分析を行ったところ、相関係数は0.88と高いものの、プロセッサの周波数はあまりパフォーマンスに影響していないことが分かった。


出典:http://www.top500.org/
図 スーパーコンピュータTOP500の処理能力の変化

おわりに
 我が国のスーパーコンピュータである「地球シミュレータ」が世界最速であった時代もあったが、現在のラインキングではトップ10のほとんどを米国企業が独占している。唯一、「TUBAME」という東京工業大学のスーパーコンピュータが9位にランキングされており、「みんなのスパコン」というキャッチフレーズが掲げられ、「東工大情報基盤」の一部として、新入生を始めとして東工大に属するすべての人々に利用権が与えられているらしい。スーパーコンピュータ自体、我々の生活への影響はあまり実感できないが、やはり技術力の象徴として、世界で一番のものが我が国のコンピュータであって欲しいという願いは心の隅に存在する。しかし、処理能力の競争が用途を無視して行われるようであれば、本末転倒ではあるが。
 ちなみに、最近発売されたゲーム機であるプレイステーション3の処理能力は2テラフロップスあり、1993年のトップ500のスーパーコンピュータ合計の処理能力よりも高い処理能力を有しており、そう考えると技術の進歩にはやはり驚かされてしまう。




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