グリッドコンピューティングの可能性
はじめに
我が家のパソコンを含め、膨大な数のコンピュータが世界中に散在しているが、果たして我々はそれらの資産を有効活用しているだろうか。有名な検索エンジンのサーバのように24時間休みなく稼動しているコンピュータもあろうが、個人用のパソコンを中心に、企業の基幹系システムのサーバ(職員が就業時間中のみ利用する)等は、いつも使われているわけではなく、使われていない時間も多い。このような遊休の処理能力を活用できれば、より資産効率を高めることができ、経済面、あるいは地球環境面でもメリットは大きい。
1.グリッドとは
グリッドとは電力分野で使われていた言葉であり、電力がどこの発電所で発電されたかを意識することなく利用できるように、コンピュータの処理能力に関しても、それがどこにあるかを意識せずに利用できるようにうにすることをグリッドコンピューティングと呼ぶ。ネットワークを介して複数のコンピュータを結ぶことで、仮想的に高速処理能力を実現したり、余剰なコンピュータリソースの有効活用を図ることを目的としており、分散メモリ型並列計算機の一種として捉えることも可能であろう。
ハイエンドコンピューティングの分野では、スーパーコンピュータを連携させ、その有効活用や処理能力向上を高める動きがあり、代表的な例として米NSF(National Science Foundation)が支援し,SDSC( San Diego Supercomputer Center )、NCSA( National Center for Supercomputing Applications)等を高速ネットワークで結ぶTeraGridプロジェクトがある。
このようにアカデミックな分野における高速処理を目的としていたグリッドコンピューティングであるが、昨今ではビジネス分野への応用も検討されている。すなわち、企業が導入しているサーバやホストコンピュータには余剰な処理能力があり、それらをネットワークで接続し、より効率的な情報システムの運用を図るというものである。このような研究は一般的にビジネスグリッドと呼ばれており、我が国ではIPA(情報処理推進機能)を中心に研究が進められており、2006年からIPAと大手ベンダーによるビジネスグリッド推進コンソーシアムが立ち上がった。
2.グリッドの広がり
また、インターネットにおけるP2P技術を活用して、パソコン等のローエンドのコンピュータを大量にネットワーク化することで、高速処理能力を実現しようとするグリッドコンピューティングの取り組みも見られる。米国癌学会等では、白血病治療薬の候補物質探索に所謂PCグリッドを活用した。90万台のパソコンが参加し、半年間の提供時間の累積実績で換算すると世界トップクラスのスーパーコンピュータ(4TeraFlops)を持ったと同等の効果が得られたそうである。これ以外に代表的な例として、端末の余剰CPU パワーを集めて地球外知的生命体の探査を行う「SETI@home(セチ・アットホーム)」という実験が知られている。2004 年8 月末時点でこのプロジェクトに参加している端末は5,111,927 となっており、その処理能力もスパコン以上に達している。この他、我が国でもNTT データがインターネットへ常時接続されている家庭、企業・組織内の端末、約1 万2 千台の協力を得て、2002 年12 月20 日から2003 年4 月30 日まで「セルコンピューティング」という名前でグリッドコンピューティングの実証実験を行っている。
さらに、広義で捉えた場合、データグリッドやセンサグリッド等も存在する。前者は、一カ所ではストックできない程の大量のデータを分散配置し、これをネットワークを介して一元的に活用しようとするものである。また、後者に関しては、いたるところに設置されたセンサからネットワークを介して情報を収集するというものであり、ユビキタスネットワーク社会を実現する上で重要な技術と考えられている。
おわりに
グリッドコンピューティングにおける大きな課題の一つが遅延である。膨大な数のコンピュータにおいてCPUやメモリで受け渡しをスムーズに行うためには、それを結ぶ情報通信ネットワークが安定して高速であることが必要である。一方、多くのコンピュータが任意に接続できるためには可能な限り汎用的な接続インターフェースが必要であり、インターネットが最も適していると考えられるが、これまでのインターネット(専用線サービス等は除く)では、安定しか高速通信の実現が難しく遅延のため処理に待ちが発生し、グリッドのメリットが十分に創出されていなかった。しかしながら、昨今、インターネットにQoS制御やセキュリティ機能を付加したNGN(Next
Generation Network)という次世代通信網への移行が進められており、これが実現すればNGNを介してグリッドコンピューティングがより実用化に向けて進むのではないかと期待される。
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