脱官民社会に向けた制度設計
1.はじめに
徒然ノートに記載しようと思いましたが、少々長くなりそうなので、こちらに掲載することにしました。仰々しいタイトルが付いていますが、今回お話することはそれ程、大きな話ではありません。昨今、NPOの設立が急速な勢いで増え、行政だけでなく多様な主体が地域を担う新たな社会への変革がいたるところで叫ばれています。しかしながら、実際には地域における公的な部分を形成するための資金のほとんどは(民間企業が担う部分を除き)、行政機関に集約されているのが実状であり、正確ではないかも知れませんが、NPOが行政の下請け的な位置付けになっているような気がします。また、このようなNPOの財源の脆弱性を補助するため、寄付の税控除等も言われていますが、そもそも寄付という文化が根付いていない我が国では寄付による財源確保は難しいのではないかと思います。ある文献に書いていましたが、(欧米と比較すると)我々日本人は寄付のような社会貢献部分も税金に含まれていると考えている人が非常に多いと捉えることもできるのではないでしょうか。
そこで、このような現状を考慮して、真の意味で多主体参加型の地域社会を構築するための新たな仕組みを提案したいと思います。ふと思いついたアイデアなので、既の他の人が言われているかも知れませんが、とりあえず以下に整理してみます。
2.新たな仕組みの提案
新たな仕組みでは、まずお金の流れを変えることが必要になります。行政が独占している公的名目で住民から収集しているお金(税金)の一部(例えば1割)を「第三者公共サービス枠」として分離します。この「第三者公共サービス枠」にある資金(税金)は、文字通り、実際に公共サービスを提供するNPOやボランティア団体等の第三者団体(行政、住民以外)に配分されるのですが、その配分は納税者による(オンライン)投票で決めます。納税者の持ち票数は納税額に応じたものではなく、固定にすることが望ましいと個人的には考えています。例えば、各納税者が10票を持ち、各第三者公共サービス団体の昨年度の活動状況を踏まえて、投票します。一つの団体に10票入れてもかまいませんし、10団体に1票ずつでもかまわないでしょう。投票結果、得票数を全投票数で割り、それに「第三者公共サービス枠」の金額をかけたものが各団体への配分金額になります。
このような仕組みにすることで、前年度の活動成果を行政機関ではなく住民が評価して、資金が配分されるので透明性が高くなり、行政機関と対等な位置付けとしてNPO等の第三者公共サービス団体が自らの意志で活動することも可能になります。各第三者公共サービス団体はその努力が住民に理解されれば、より多くの活動資金を手にすることができますし、逆に住民のニーズに合っていなかったり、公共サービスとして住民に認識されないような活動状況であれば、お金の配分は少なくなります。したがって、ある意味、公共サービスの市場化と捉えることもできるでしょう。
上記の仕組みを図式化すると以下のような感じです。
3.新たな仕組みの課題
上記の新たな仕組みの課題としては、いくつかの点が想定されます。
まず、投票する手間を住民が割くかどうかということと、投票を得られなかった部分の取り扱いをどうするかということが挙げられます。前者に関しては、オンラインで投票できるようにして負荷を軽減するにしても、インターネットを利用していない人にとっては利用が困難です。結局、通常の選挙と同じ足による投票で行うことになると、それだけで大きな費用が必要になり、継続的な仕組みの運営が難しくなります。したがって、インターネットを利用できない人のみ街頭端末で投票する等の案が考えられます。いずれにしても無投票部分の取り扱いを決めておかなければならないのですが、余った部分の配分を決める人が不在である以上、有効投票のみで配分を決めることが現実的な解かもしれません。つまり、全投票数で各団体への投票数を割って配分を決定するということです。もちろん、有効投票率等を設定することも考えられます。
次に公共サービス団体の公共性をどのように担保するかということと、第三者公共サービス団体が自らの活動について透明性の高い情報公開を行うかどうかということが挙げられます。前者に関しては現時点では行政機関、あるいはそれが委嘱した審査会議等によって評価するのが現実的ではないかと考えます。その意味では完全に行政機関から独立して活動できるとは言えないかも知れません。また、後者に関しては、団体を登録する時に情報公開義務を課すとともに、第三者機関による監査等を行うことで不正な情報公開を防ぐことができるのではないでしょうか。
三番目に考えられるのは、政治(市場)の失敗です。住民は自分が感知できるものに価値を感じますので、上記の仕組みでは政策提言を中心に活動しているNPO等には票が集まらない可能性があります。したがって、身近な公共サービスに投票が集中し、そちらを担う公共サービス団体が増加する反面、地域の発展を俯瞰的な視点からで考えたり、目に付きにくい部分の活動をしている団体が低く評価される危険性があります。この点に関しては、現時点で良い解決案が浮かばないのですが。。。
4.おわりに
これまで我が国では「公共=行政」という図式が成り立って来ましたが、その考え方は徐々に崩れつつあります。住民の多様なニーズに一つの組織で対応することには限界があり、それ故、様々な主体がそれぞれの得意分野を担う多主体型の地域社会へ移行が望まれています。したがって、制度面に関しても、従来の「公共=行政」ということを前提とした制度から新たな社会に適合した制度へと再設計しなければなりません。今回提案した仕組みが新たな制度に成りうるものかどうかは分かりませんが、根本的な部分を変えるような制度の変革がなければ新たなステージへと進めないような気がします。
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