「都市計画の行政制度」について

はじめに

 本稿は、西尾勝氏が1966年に著した『都市計画の行政制度』という論文の概要を整理したものであり、都市計画の変遷を勉強する上でとりまとめたものである。発表資料として使ったものなので、箇条書きになっているが、何かのお役に立てれば幸いである。この論文では、1919年に都市計画法が制定されてから論文が作成された1966年までの都市計画行政制度の変遷、および1966年時点の都市計画制度の問題点、在り方等について述べている。

1.都市計画制度の沿革

 1)都市計画法(1919年)←東京都市区改正条例
  ・2つの正確の継承(国家権力による行政、市街地建築物法が別に制定)
  ・個別事業の調整がねらい(地域主義、縦割り行政)
 2)地域主義を止揚する水平的レベルの調整
  ・地方公共団体の区域を越えた区域設定(東京、大阪)
  ・1923年に堺、尼崎両市が別個に適用受けてから個別適用進展→広域区域制度瓦解
 3)縦割り行政を止揚する垂直的レベルの調整
  ・「内務省−都市計画地方委員会」によりある程度機能
  ・戦後の内務省解体、都市計画委員会の改組により基盤崩壊

2.都市計画行政の主体

 1)都市計画事業の決定手続
  ・決定権は建設大臣
  ・計画案、事業案の立案権限については無記述→慣行上、市町村が発議
  ・都道府県は何ら調整権限がない→実際、立案能力のない地域に介入
  ・実際は正式の申請手続き前に、建設省都市局と協議

 



 

市町村

立 案
 




 

知 事

(経由)
 




 

建設

大臣
 





都市計画地

方審議会
 





建設大臣

(決定)
 




 

内 閣

(認可)
 

 2)都市計画事業の執行
  ・「行政庁」が執行…行政庁とは市町村長、都道府県知事、国
  ・地方自治への根本的な背反=財源は住民の税金だが意見を反映する仕組みが不在

3.都市計画区域

 当初、広域区域を想定してたが、自治体行政区域を単位とするようになった。
 →・隣接大都市の権力介入を排除した点において都市自治の尊重
  ・広域行政論の批判のまと
  (広域行政論は、広域的な用途地域制を切望。工業地区、住宅地区、緑地地区等の機能分化を理想とする。→各自治体が単機能になる可能性)

4.都市計画行政の総合性

 1)マスタープランの欠如
  ・都市計画は土地の効率的利用で、用途地域制と各種公共事業の有機的連携が必要
  →実際は用途地域制は都市計画の中核とはなりえず、専ら利用制限として機能
  ・都市計画事業の対象事業範囲の限定…街路、公園、下水道、区画整理等
  ・街路、区画整理等は必ずしも都市計画事業として執行する義務がない。
  ・「マスタープランから個々の事業」でなく、「個々の事業の積み上げからマスタープラン化」
 2)中央政府の調整機能
  ・都市計画制度と各種個別事業との調整の失敗←都市計画事業の利点が小さい。
  ・都市計画事業の利点:「区域内の建築制限」、「土地収用手続の若干の利便」、「補助金利用の可能性」、「都市計画税・受益者負担金の徴収の可能性」
   →実際は国庫補助は認められず、事業負担金制度も機能しなかった。
  ・内務省の解体→建設省内、各省間で調整
       ↓    
  ・中央政府に対する批判
   @地方への権限委譲
   A総合開発庁の新設…旧内務省的な総合調整原局の復帰、計画の広域的体系化
 3)市町村の調整機能
  <中小都市>
  ・都市計画事業の規模が小さい。
  ・都市計画担当者の能力の欠如
  ・行政力のなさから建築規制行政は都道府県に委託
  <大都市>
  ・緊密な連携調整関係で結合する試み=都市計画機能を企画部門の一部として統合…東京都首都圏整備局、挙都市都市計画局
  ・企画部門設置の進展
   @開発振興型=開発振興事業の計画と事業執行を兼担
   A企画調整型=企画調整機能のみ担い、財政権限をも統合
       ↓
  ・市政のマスタープラン作成の開始=新しい都市計画概念の発生
  ・実際は財政的な裏付けを書いた絵に描いた餅

5.都市計画行政の財政構造

 1)財源の重要性
  ・施設建設事業としての都市計画制度の成否は財源の保障に左右される。
 2)都市計画事業独自の財源
  ・地方交付税収入=人口1人当たりの単位費用を人口に乗じて算出
  ・都市計画税=固定資産税の7分の1まで課税できるが、利用地域は僅か。→都市計画の自主財源確保に自治体は不熱心
  ・受益者負担金=活用は僅か。→自治体自ら行うことに臆病
  ・補助金=国庫補助金は死滅、しかし個々の事業に対する補助金は存在
       ↓  
  ・補助金は建設省都市局が掌握しているので、地方へ権限委譲を行っても補助金交付の保障がなくなる危険性がある。

6.都市計画と「自治」

 1)中央集権
  ・都市計画制度は中央集権的であり、地方自治の理念を否定したところで成立している。
 2)地方への権限委譲
  ・「自治」不在の地方政治に委ねることへの不安→自治体は私権の制限を伴う計画決定を断行するだけの政治統合機能を持っていない。
  ・都市計画制度自体が住民による「自治」的秩序形成を予定していなかった。
       ↓
  ・権限委譲を行う場合は、「自治」的秩序感覚の育成が最大の課題

7.制度の展望

 1)都市計画制度改革の方向性
  ・自治への委譲と手続の民主化
  ・都市計画の広域化
  ・計画行政の総合化
 2)自治への委譲
  ・自治能力の向上
  ・財政力の強化
 前提条件
  ・都市行政全体の総合化
  ・都市計画専門家の養成
 3)広域化
  ・都道府県段階で広域地方計画を都市計画と考え、市町村は地方計画の枠内で事業計画を立案→都道府県が決定権を有するのであれば自治への委譲の問題
  ・産業中心の広域計画から総合的な広域計画への進展が必要
 4)総合化
  ・都市行政における施設計画の総合化
  ・施設計画と土地利用計画との調整
  ・「都市計画行政の総合化は都市行政の総合化」

おわりに

 現行の都市計画法について詳しい知識はないが、住民参加のマスタープラン作成も行われていることから、現状では都市計画権限の地方への移譲はかなり進んでいる考えられる。しかし、歴史的な流れから考慮すると、1919〜66年という期間においては、本文献に整理されている都市計画制度の方が有効だったのではないか。なぜなら、この時期においては文化的な未発達により住民の自治意識も成熟しておらず、自治体の行政能力も発展途上であったと予想される。また、この時期においての都市計画は依然としてインフラ整備的な意味合いが強かったことからも、住民等の参加のない迅速な推進は有効だったのではないかと考える。

 

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