中心市街地活性化のパターンに関する考察

 

1.はじめに

 平成10年7月に中心市街地活性化法が施行されてから、多くの地域において中心市街地活性化計画が策定されるとともに、活性化のための具体的な取り組みも進んでいる。各地域における中心市街地活性化への取り組みは、抱える問題点を同じくすることから、内容的に同様なものも多いと予想され、パターン化している部分もあるのではないかと考えられる。地域間競争と同様に独自性を出すことが重要であるなら今後はパターンに該当しないような取り組みが望まれるし、もしこのパターンに一定の有効性があるのであればこれを明確にすることで後発地域の効率的な取り組みに寄与するであろう。そこで、本稿では既存の文献や資料等をもとに、中心市街地活性化の取り組みのパターンを抽出することを目的とする。また、抽出したパターンや、欧米における中心市街地活性化事例との比較、個別事例の研究等を踏まえ、中心市街地活性化のあり方に関しても検討を行う。なお、本稿で扱う中心市街地活性化の事例は、中心市街地活性化法に基づき基本計画を策定した地域を中心に取り上げることとする。

2.中心市街地活性化の概要整理

 中心市街地活性化への取り組みについて検討する前提として、中心市街地活性化の背景や、取り組みの契機となった中心市街地活性化法について整理する。

 1)背景

 中心市街地活性化の背景にはもちろん中心市街地の衰退がある。中心市街地は長い間、地域における商業や行政の中心地、文化の発信地としての役割を担ってきたが、モータリゼーションの進展、人々の郊外居住やライフスタイルの変化にともない、近年において人口の空洞化が進んでいる。また、中心市街地においてにぎわいの核となっていた中心商店街においても、大型郊外店立地や人々の消費行動の変化による集客力低下、経営者の高齢化や後継者不足、それにともなう空き店舗の増加等、様々な問題を抱えており、低迷が進んでいる。このようなことから現在進められている中心市街地活性化への取り組みは正確には「中心市街地再活性化」への取り組みである。

 2)中心市街地活性化法

 中心市街地活性化法は、正式名称を「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的な推進に関する法律」とし、文字通り、市街地整備改善と商業活性化等を中心として、市街地の再活性化を支援することを目的とした法律である。支援の基本的な仕組みとしては、各市町村において、活性化のための方策を記載した中心市街地活性化基本計画を策定し、この計画に沿った事業実施を国が支援する形となっている。
 この他、中心市街地活性化法の大きな特徴としては以下に示すような点を挙げることができる。
・原則として中心市街地の数は1市区町村1区域(政令指定都市や合併市は例外的に複 数設定することも可能)とし、相当数の商業集積があること、商圏、通勤圏が形成さ れていること、空洞化が生じていること等が前提条件とされている。
・中心市街地活性化の推進主体として、タウンマネージメント機関(TMO)を想定し ている。
・13省庁による協議会により国による支援が検討され、支援メニューは150以上に ものぼる。

 3)中心市街地活性化の必要性

 では、中心市街地を再び活性化するために法律まで制定して支援する理由はどのようなところにあるのだろうか。都市再開発論の講義や昨年度の計画論の講義、既存の文献等から整理すると以下のように整理することができる。
・中心市街地は「地域の顔」としてアイデンティティを表す重要な役割を担っている。
・経済的な効率性、環境負荷軽減等を考えるとコンパクトな都市が求められている。
・行財政改革が進む中、既に整備されている社会資本の有効活用を図る必要がある。
・高齢者の増加や、それにともなう福祉サービスの需要増加等からもコンパクトな生活 圏が求められている。
・地方公共団体としては既存の資源や税源(企業、地価等)を地域内に維持確保する必 要がある。

3.中心市街地活性化の取り組み状況

 中心市街地活性化への取り組みは多くの地域で行われていると考えられるが、これに関する明確な指標はない。そこで、中心市街地活性化法に基づく基本計画(中心市街地活性化基本計画)の提出数でその動向を見てみる。平成11年4月までに国に提出された基本計画は106であり、提出した地方公共団体は総市区町村数の約3.26%となっている。
 都道府県別に見ると(図表1)、兵庫県が7団体で最も多く、次いで栃木県、静岡県が6団体となっている。千葉県、山梨県、京都府、奈良県、愛媛県、高知県、大分県の市町村では、この時点において計画は策定されていない。ただ、中心市街地活性化法は時限立法ではなく、テレトピア計画等のように提出期限もないことから、急いで提出する必要はなく、時間をかけて検討している地方公共団体も多いと考えられる。
 また、市区町村別に見ると市と特別区が94団体と約9割を占めており、町が12団体、村は0団体となっている。前提条件として相当数の商業集積や、商圏、通勤圏の形成が挙げられていることから町村レベルにおいて中心市街地に該当する地域を見出すことは困難な部分もあると推測される。このことは人口規模別の分類からも読むことができ、提出比率は人口50万人以上100万人未満の大規模な地方公共団体が最も高く、人口5万人未満の地方公共団体では相対的に低い提出率となっている(図表2)。
 平成12年度に基本計画を策定して支援措置を要請する地方公共団体は約150と言われており(注1)、これは人口規模5万人以上の地方公共団体数の約3分の1に当たる。
(注1)『企業診断 99/6』同友館、64頁

図表1 中心市街地活性化基本計画の都道府県別提出状況

中心市街地活性化基本計画の都道府県別提出状況

図表2 中心市街地活性化基本計画の規模別提出状況

中心市街地活性化基本計画の規模別提出状況

4.中心市街地活性化の類型化

 統計情報、および新聞記事等を中心とした事例研究を基に、中心市街地活性化の取り組みの傾向、パターンの抽出を試みる。

 1)統計情報からの検討

 中心市街地活性化の内容に関して統計情報として手に入ったのは中心市街地に設定された区域の規模だけであり、これを分析する。
 中心市街地規模は、最大で900ha(郡山市)、最小で10ha(沼田市)となっておりかなりばらつきがある。事例として最も多いのは50〜99haであり、次いで100〜149haとなっている(図表3)。設定規模は行政区域の面積や人口等も影響していると考えられ、それぞれの値と中心市街地の規模の相関を調べたが、ほとんど相関は見られなかった。ちなみに行政区域面積に対する割合を比較すると、塩竈市が最も高く11.76%を占めており、逆に割合が低いのは遠野市で0.06%しか占めていない。
 私の郷里、徳島市を例にすると、生活してきた者としてイメージする中心市街地は駅から東新町、西新町、富田町等(ローカルな話ですが)にかかる約80ha(地図から算出)であり、徳島市の設定区域(74ha)は妥当であると、個人的には考える。ただし、中心となる商店街地域はその内の8分の1にあたる約10ha程度と考えられ、活性化のための労力や資本の集約を考えるともう少しコンパクトに設定すべきであろう。
 私の郷里の例を踏まえても、200ha以上の区域設定は活性化の労力や資本の集約という面から妥当性に欠けると考えられ、また、中心市街地活性化の視点であるコンパクトな都市、生活圏という観点からも逸脱するものである。このようなことから新聞記事等で指摘されているように、複数存在する商店街の利害関係を調整できず、結果的にすべてを含む大きな区域設定になったことが推測される。

図表3 中心市街地の設定規模の分布

中心市街地の設定規模分布

2)事例研究からの検討

 平成10年8月11日から日経流通新聞において定期的に連載されている「よみがえれ中心市街地」の記事をもとに事例研究を行い、類型化を試みた。「よみがえれ中心市街地」では、平成11年7月6日までに45の事例が紹介されており、この内9事例は平成11年4月までに中心市街地活性化基本計画を提出していない。
 45の事例の多くから共通した傾向を窺うことができる。郊外店舗(含む域外)への購買力の流出、その理由の1つである駐車場の不足、中心市街地の人口の減少等を問題点として挙げていること、および解決策として駐車場の整備を挙げていることが、ほとんどの事例に共通している。古河市のように、自転車専用道路整備やレンタサイクル等を実施し、自動車を中心としないに独自の活性化策を検討している地域も例外的に存在するものの、ほとんどの地域がモータリゼーションによる中心市街地の衰退を問題点とし、この問題点のため、道路や駐車場の整備に取り組んでいる。
 また、中心市街地の活性化方策の大きな方向性に関しては、観光機能の強化、再開発事業の2つに類型化することが可能である(図表4)。中心市街地活性化に取り組む地域の多くは、地域内(中心市街地からは離れている)もしくは近隣地域に観光地を有しており、これらの観光地を訪れる観光客を中心市街地に呼び込むことを活性化手段の1つとして捉えている。このため中心市街地に観光施設を整備したり、商店街の景観整備に取り組む地域が多く、遠野市、彦根市、小田原市等を代表的な事例として挙げることができる。
 一方、中心市街地活性化方策として再開発事業に取り組む事例も多い。核となる商業ビルを建設し、そこに商業機能や公共施設等を集約することで、中心市街地の集客機能を高めようとするものが多く、中には商店街全体を見直し、宿泊施設や娯楽機能等を新たに付加する大規模な再開発も見られる。もちろんこれらの再開発においては、前述した駐車場の整備も含まれており、代表的な事例としては大牟田市、高松市、津山市等を挙げることができる。ただし、再開発事業に関しては、神戸市のように、震災により8割の建物が全半壊したという特殊な背景をもつ地域もある。
 なお、瀬戸市や鳥取市のように、観光機能の強化と再開発事業、双方に取り組む事例も一部に見られる。このように活性化方策はどちらかと言うとハード整備に傾倒しているように見られ、各記事により情報にむらがあるため一概に評価できないが、ソフト面に関しては模索段階の地域が多いようである。

図表4 中心市街地活性化方策の類型

中心市街地活性化方策の類型化

 中心市街地活性化法において活性化の推進主体として位置付けられているTMOに関しては、記事に掲載された時点で45事例の半数以上が設置しておらず、TMO設置の予定のない地域も少なくない。また、既に設置している地域に関しては、以前からまちづくりに関連した事業を行ってきた第3セクターや公社がTMOを担う事例が多く13事例見られ、次いで商工会議所(商工会、商議所等)がTMOを担う事例が8事例見られる。TMOの設置は通常1地域1機関であるが、小田原市のように事業毎に第3セクターの設置を予定している地域もある。
 以上のような考察から、我が国における中心市街地活性化の取り組みは、概ね図表5に示すようにパターン化することが可能であろう。

図表5 中心市街地活性化への取り組みのパターン化

中心市街地活性化への取り組みパターン

5.中心市街地活性化の欧米との比較

 日経流通新聞に掲載された「中心市街地再生に向けて」の米国、ドイツ、イタリア、フランスに関する記事、および日経地域情報の欧米のタウンマネジメントに関する情報をもとに、欧米における中心市街地活性化の取り組みの我が国との違いを抽出する。ただし、このように紹介されている事例は欧米においても一部の成功事例であると考えられ、欧米のすべての地域が同様の取り組みを行っているのではないことに留意する必要はあろう。
 欧米の事例を見ると、まず、中心市街地活性化への取り組みの歴史に違いがあることが窺える。我が国のTMOは、米国におけるBID(ビジネス・インプルーブメント・ディストリクト)を参考としたものであるが、米国(含むカナダ)では、既にBIDの活動を支援する国際ダウンタウン協会やナショナル・メインストリート・センターが設立され中心市街地活性化のノウハウの蓄積や情報交換が進められている。また、1975年から中心ショッピングセンターの開設、歩行者専用道路整備、駐車場の整備、昨今ではLRT(ライト・レール・トランジット)の整備等、古くから継続的に中心市街地活性化に取り組んでいるフランスのオルレアン市の事例を見ても我が国の中心市街地活性化への対応の遅れが感じられる。
 BID(我が国のTMO)の運営に関しても、いくつかの違いが見られる。まず、大きく異なるのが財源であり、BIDでは対象地域から特別税(街づくり税)を徴収しており、商店等の出資者を募る方式の我が国のTMOより進んでいる印象を受ける。なぜなら税を徴収できるということは、中心市街地活性化に対する地域全体のコンセンサス形成が前提となるからである。次に中心市街地活性化法に基づき概ね行政単位で形成されている我が国のTMOと異なり、海外のBIDでは街区毎に設立されている事例が多い。これは行政が大きな役割を担っている我が国と、企業や民間が中心となって中心市街地活性を進めている欧米の違いを反映したものと考えられる。
 この他、欧米の中心市街地活性化の事例においては以下の図表6に示すような特徴的な成功要因を見ることができる。 

図表6 欧米の中心市街地活性化における特徴的な成功要因

欧米の中心市街地活性化における特徴的な成功要因

6.中心市街地活性化のあり方

 我が国における中心市街地活性化への取り組み状況の整理、活性化方策の類型化、および欧米との比較を踏まえ、中心市街地活性化のあり方について以下に考察する。
 我が国の中心市街地活性化への取り組みは、共通の問題点を抱えているという点から共通する部分が多くなることは否めないが、あまりにもパターン化し過ぎていると思われ、本当に有効に機能するか甚だ疑問である。活性化方策は観光施設整備や再開発事業等、従来型のハード整備事業が中心となっており、LRTを活用した公共交通の見直しや地方公共団体(もしくは街区)における制度整備等、欧米に見られるような独自の取り組みがほとんど見られない。ソフト面の活性化方策に関しても、いくつかの地域でポイントカードや宅配等のサービスが行われているものの、全体的に十分な検討や対応が図られていないように見受けられる。また、観光客の吸引に関しては、観光地が離れている事例が多く、観光地には観光地の商店が存在することを踏まえても、かなり魅力的な観光機能を整備が不可欠あり、再開発事業に関しても本当に投資分だけの効果が見られるか非常に疑問である。加えて、建設省、国土庁、運輸省等に傾斜した中心市街地活性化予算(図表7)を見ても、非難の多い従来型公共事業を補完する意味で、つまり公共事業の量を確保するために中心市街地活性化が行われているのではないかという疑問が拭いきれない。
 したがって、各中心市街地においては、前述した共通の活性化パターンを踏まえ、今後はソフト面での活性化施策や、独自性、先進性のある活性化方策に重点を置き、検討を進めることが必要であろう。また、再開発事業等、大規模他な投資を行う場合には投資対効果を十分に評価することが不可欠である。「中心市街地は必要か?」という住民アンケートの結果をたまに目にするが、このアンケートは民意を正しく反映していない。なぜなら、住民側のコスト負担が明記されていないからである。中心市街地活性化事業には我々の税金も使われており、「中心市街地を活性化するために○○万円程度の貴方の税金を投入することが必要であると考えられますが、中心市街地の活性化は必要でしょうか?」と聞かなければ民意を正しく反映することはできないであろう。

図表7 各省庁の平成11年度中心市街地活性化予算

各省庁の11年度予算

 欧米の成功事例と比較すると、行政主導で進められている感があることも大きな問題点であろう。武蔵野市において吉祥寺駅前が中心市街地に選ばれなかったことは代表的な事例であり、遊休地の利用問題という地方公共団体側の都合が優先された結果、武蔵境駅前が選ばれている。このように、既存の中心市街地活性化法は行政単位での申請を前提とした時点で、民間活力が反映され難い仕組みになっており、地方公共団体の単なる補助金誘導方策の1つとなる可能性を有している。欧米の事例が「中心市街地のための中心市街地活性化」であるのに対し、我が国の取り組みからは「地方公共団体のための中心市街地活性化」といったイメージを受ける。また、地方公共団体が故に中心市街地の範囲設定等の調整が難しい面もあり、設定地域面積が非常に大きくなっている事例が見られることも活性化法の負の側面である。
 したがって、まず各街区毎に民間活力を基にしたTMOの設置を促し(地域にやる気がない場合は無理に活性化する必要はない)、TMOから支援施策を申請する(所属地方公共団体を通してもよい)という手順を踏むことが望ましかったのではないか(つまり活性化法は手順が逆)、と個人的には考える。今回の中心市街地活性化への取り組みは、地域におけるコンセンサスが十分に成熟しないうちに行政主導で進められている感があり、そういう点では旧来の政策と変わらない。

7.まとめ

 前述したように平成10年7月に施行された中心市街地活性化法に基づく、各地域における中心市街地活性化の取り組みは多くの問題を有しており、前途多難と言える。ただ、この活性化法により、商店街や住民を巻き込んだ中心市街地活性化へ機運が高まった地域も少なくないのは事実であり、今後、「中心市街地主導による中心市街地活性化」の進展に期待したい。
 ただ、約3,300の各市区町村にそれぞれ中心市街地が必要なのであるかどうかは疑問であり、モータリゼーションや公共交通の整備が進み人々の行動範囲が広がった現時点において、現状の市区町村の規模自体に問題があると考えられる。今回の中心市街地活性化法は各市区町村単位で基本的に1つの中心市街地の支援することとなっているが、申請する市区町村が増加すればする程、全体の投資額が大きくなる反面、投資対効果の低下は進み、税金の垂れ流しになる可能性が高い。中心市街地活性化を図る前に、人々の生活圏を考慮した市区町村の再編を行い、それとともに商店街の統廃合を進めることが必要ではないだろうか。

参考文献
『中小企業白書』中小企業庁
『企業診断 99/6』同友館
『企業診断 99/3』同友館
『地域開発’99/2』日本地域開発センター
『地方都市中心市街地再生政策の提案』地方都市中心市街地再生政策研究会
『日経地域情報 No.308』日経産業消費研究所
『日経地域情報 No.309』日経産業消費研究所
日経流通新聞各関連記事
 ・「よみがえれ中心市街地1〜45」
 ・「中心市街地活性化事業Q&A」
 ・「中心市街地再生に向けて−米国の現場から−」
 ・「中心市街地再生に向けて−ドイツの現場から−」
 ・「中心市街地再生に向けて−イタリアの現場から−」
 ・「中心市街地再生に向けて−フランスの現場から−」
いくつかの地方公共団体の中心市街地活性化基本計画

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