地域情報化施策の経済性評価−CATVに関する考察−(1)
1.はじめに−調査の概要−
本調査は、地域情報化施策の経済性評価について検討するため、地域の情報通信基盤や行政における情報化施策等の1つとして昨今注目されているCATVに焦点を当てて考察を行ったものであり、以下に調査の背景、目的、流れを示す。
1)調査の背景
調査の背景を以下に示す。
@行政評価の潮流
我が国では景気の低迷により多くの企業が収益を悪化させており、事業や組織構造の再評価、および再評価による事業再編、組織変革等への取り組みを行っている。このような変革の流れは行政分野でも同様であり、近年、税収の停滞等を背景に地方公共団体においても行政改革、および行政改革を進めるための手法である行政評価への取り組みが急務になってきている。
欧米では我が国より早くから行政評価への取り組みが進められており、米国では人口100万人以上の地方公共団体の約9割が行政評価を導入している。(注1)
我が国でも、このような欧米の事例を参考とし、三重県、岐阜県、北海道等、都道府県レベルを中心に行政評価への取り組みが進められている。三重県では1996年から行政改革の一環として「事務事業評価システム」を導入しており、「事務事業目的評価表」を用いて目的、成果、環境変化等の項目から事務事業の見直しを行っている。1997年度に行った事務事業の見直しでは、約3,200あるすべての事務事業のうち202の事務事業の廃止を決定した。
このような行政評価は福祉、産業、交通、教育等、地方公共団体が関わるすべての分野において行われることが望ましく、地方公共団体等が主体となって行われる地域情報化施策もその対象となる。島田達巳によると、「これまで地方公共団体における情報システムの評価と事務事業評価(行政評価)は整合性に欠けるものであったが、これからどのように整合性を図るかが課題となる」とされている。(注2)
しかし、実際に地域情報化施策の評価が地方公共団体において行われているかというと、ほとんど行われていないのが現状であろう。情報システム調達時におけるベンダーの選定等において事前の評価は行われているものの、事後的な評価に関しては、簡単なアンケートが行われている程度であり、システム監査等を行っている地方公共団体も非常に少ない状況にある。(注3)
評価が行われていない理由としては、手法の未確立、評価への労力負担等、様々であろうが、有効性の低い地域情報化施策の見直し、特定の地域情報化施策への加重投資等により地域情報化を効率的に推進するためには、地域情報化施策の評価が必要不可欠である。
加えて、地域情報化事業における経済的効果が不明確であるため、地方公共団体による投資、いわゆる公共事業において情報化に関わる事業が土木事業等と比較して低く評価されている場合が少なからずあろう。したがって、地方公共団体における地域情報化のための予算確保等の観点からも地域情報化施策の評価、特に経済性に関する評価が望まれる。
A地域情報化の新たな展開とCATV
高度情報化が社会的に大きな潮流として取り上げられるようになってから久しいが、この潮流はインターネットというグローバルかつ汎用的な情報通信ネットワークの出現と、パソコンや携帯電話といった情報通信機器の普及、文字・音声・映像等を複合的に処理できるマルチメディア技術の発展にともない、更に加速し、飛躍的な進展を見せつつある。
このような情報化の飛躍的な進展にともない、地域情報化の取り組みにおいても大きな2つの変容が見られる。
変容の1つは、従来、地域や施設や分野を限定したクローズドな検討が主流であった情報化が、近年ではネットワークの利用を主体としたオープンな検討に移行してきたことである。岡山県の「岡山情報ハイウェイ構想」等に代表される県レベルでのネットワーク化や、郵政省の「列島縦断型研究開発用ギガビットネットワーク整備事業」に代表される全国的な情報化の取り組みが見られる。このような取り組みは、「繋がることにより自分も相手も利益を得る」という、いわゆる「ネットワークの外部性」と呼ばれる情報通信ネットワークの特性を基礎としており、インターネット等の汎用的な情報通信ネットワーク(電話と異なりデジタル情報の伝送が可能)により加速したと考えられる。この変容はミクロ的な取り組みにおいても見られる。学校における情報化は、従来、コンピュータによるCAI(Conputer
Aided Instruction)等が主流であったが、近年ではインターネット等を活用した他校との交流や、外部データベースを活用した調べ学習等へと発展している。また、先進的な地方公共団体に見られる総合窓口のように、従来の分野別の縦割りになっていた窓口を統合し、住民に利便性の高いサービスを提供することにも情報通信ネットワークが活用されている。
変容のもう1つは、地域を構成する住民や企業等においても情報化が進展したことで、特に個々に情報を発信できるようになったことが大きい。これまでマスメディアとしてのテレビは都心を中心とした一方的な情報提供の感が強く、電話は面識のある個々の間でのコミュニケーション手段でしかなかった。しかし、インターネットを始めとする情報通信ネットワークは個人や企業の情報発信能力を高め、個人から不特定多数への情報発信や、不特定多数間の情報交換・共有を可能にした。このような住民や企業の情報化にともない、地域においては快適なコミュニケーションを確保するための高度情報通信基盤の整備や、インターネット等を介した様々なサービス(含む行政サービス)提供へのニーズが高まっており、昨今では、インターネット等を介した行政への住民参加への取り組みも増えてきている。
このような地域情報化の新たな展開において、CATVが再び注目を集めている。従来、放送の再送信等を中心に機能を果たしてきたCATVであるが、昨今では双方向の通信機能を備えた情報通信基盤としての性向が強くなってきている。1993年以降に設立が進んだ光ファイバーを活用した都市型CATVにおいては大容量のデジタル情報の伝送能力があり、これを活用して提供されるインターネット接続サービスにおいては、通常の公衆回線の数十倍以上の速度での通信が可能である。実際、東急ケーブルテレビジョンを始めとするインターネット接続サービスを提供しているCATVではサービス加入者が急速に増加している。また、インターネット接続サービス以外にもCATVの双方向機能の活用範囲は多種多様であり、電話、遠隔医療・教育、水道量の自動検針等、様々なアプリケーションが試みられており、CATV(特に都市型CATV)が整備されている地域では地域情報化の推進においてCATVの有効利用が期待される。
2)調査の目的
上記のような背景から、地域情報化施策の評価、特に定量的な評価を行うことの必要性が高まっており、また、一方で地域情報化施策の1つとしてCATVの役割、効果を再検討する必要も出てきている。そこで、本調査では、CATVに関する動向や、その地域情報化に対する効果を再検討するとともに、CATVの経済性評価を試みることで、地域情報化施策の定量的評価方法の手法、およびその有用性を検討する。
情報化施策の定量的評価においては、個々の情報システムを調査対象とする場合、昨今注目されているTCO(Total
Cost of Ownership)
等の評価手法もあるが、コストが重視され効果(便益)が過小評価される可能性がある。そこで、本調査では地域全体として、よりマクロ的な視点から地域情報化施策を評価するため、都市経済学等において環境や社会資本の評価に用いるヘドニック・アプローチや仮想市場評価法(CVM:Contingent
Valuation Method) といった手法を試みる。
3)調査の流れ
本調査では、まずCATVの特性を理解するためのCATVの歴史等を整理するとともに、昨今の動向や、地域情報化におけるCATVの役割について検討、整理する。次に、ヘドニックアプローチと仮想市場評価法(CVM)を用いてCATVの経済性評価を行うとともに、最後に、評価方法としての有用性や、CATVそのものの地域情報化における効果について検討する。
なお、「CATV」と「ケーブルテレビ」を区別する捉え方や、「有線テレビ」という呼び名もあるが、(注4)
本調査では、「電波ではなく、同軸ケーブルや光ファイバーケーブル等を利用して、放送サービスや通信サービスを提供するシステム、もしくはサービス全体の総称」という定義のもと、「CATV」という言葉を統一して用いることとする。
(注1)
上山信一『「行政評価」の時代』NTT出版、9頁
(注2)
島田達巳『地方自治体における情報化の研究』文眞堂、171頁
(注3) (財)地方自治情報センターの調査によるとシステム監査を行っている地方公共団体は35団体となっている。
(注4)
佐野匡男/伊澤偉行編著『ケーブルテレビジョンの野望』電気通信協会、20頁
2.CATVの概要
CATVの概要を整理するため、以下に我が国におけるCATVの歴史、動向、および海外との比較等をとりまとめる。
1)CATVの歴史
CATVは元来「Community Antenna Television」の略で、山間部や高層ビルの谷間等における難視聴地域における有線テレビを指していたが、最近では「Cable
Television」の略で使われている。我が国で初めてCATVのサービスが行われてのは、1955年であり、群馬県伊香保町において同軸ケーブルを使った再送信サービスが開始された。(注1)
1970年代からは難視聴対策に加え、民放チャンネルが少ない地域における多チャンネル化、つまり域外テレビ放送の再送信が進みモア・チャネル型と呼ばれるCATVが普及した。また、再送信サービスに加えて、自主放送サービスを行う事業者も現れ、自主放送により地域情報や独自の番組を放送するチャンネルをコミュニティ・チャンネルと呼んでおり、第1号は岐阜県郡上八幡の共同聴視組合によるサービスとされている。(注2)1970年代には、法制度面の整備も進み、1973年に有線テレビジョン放送法が施行された。これにより引き込み端子数501以上の施設を対象とした許可制となり、引き込み端子数500以下の施設は届出で良いこととなった。
1980年代に入ってからは、自主放送に付帯するデータ伝送や双方向サービスを含む都市型CATV構想や、通信衛星を利用して番組供給を行うスペース・ケーブルネット構想が広まった。郵政省の定義では、都市型CATVとは、(1)事業対象エリア内世帯数が1万以上、(2)自主放送5チャンネル以上、(3)中継増幅器が双方向対応、の3つの条件を満たすCATVのことで、1987年に第1号として多摩ケーブルネットワークが開局した。また、1989年には、JC−SAT1号・スーパーバードB号の打ち上げで通信衛星を利用した番組供給が開始され、本格的なスペース・ケーブルテレビネットが開始された。その後、1992年まで都市型CATVの開局は順調に増加したが、地方の中核都市での開局がほぼ完了したことから、開局数は減少した。
1993年には規制緩和により、1つの市区町村に限定しないサービス提供や、通信事業への参入等が可能になるとともに、外資の出資比率も高められた。これにともない1995年にはタイタス・コミュニケーションズ、ジュピターテレコム等、外資の参加するMSO(Multiple
System Operator)が相次いで設立された。また、1996年には武蔵野三鷹ケーブルテレビによりCATV会社によるインターネット接続サービスが初めて提供され、その翌年には杉並ケーブルテレビ(ジュピターテレコム)やタイタス・コミュニケーションズによって電話サービスも開始された。このように規制緩和にともないCATVにおける通信と放送の融合化が進み、多様かつ高度なサービスの提供が具現化してきており、郵政省の『マルチメディア時代におけるケーブルテレビシステムに関する調査研究会報告書』ではこれを「フルサービス化が進んでいる」と表現している。
表2−1 CATVの発展経緯
2)CATVの動向
CATVの普及動向、および技術動向を以下に示す。
@普及動向
CATVの施設は、小規模施設(引き込み端子50以下再送信のみ)、届出施設(引き込み端子51以上500以下、および引き込み端子50以下で自主放送を行っている施設)、許可施設(引き込み端子501以上)の3つに分けられるが、数的に見れば前者2つが圧倒的に多く、総施設の約97%を占めている。しかし、小規模施設や届出施設は、ビル建設等による電波障害のため一部の地域に再送信する施設が多いと考えられ、加入世帯数で見ると、許可施設が60%以上を占めている。また、許可施設に関しては、再送信のみの施設の方が数的には多いが、加入世帯数を見ると自主放送を受けている世帯が大きな割合を占めており、自主放送を行っている許可施設が再送信のみの許可施設より相対的に規模が大きいことが窺える。
表2−2 小規模施設、届出施設、許可施設の構成
出典:郵政省の資料
自主放送を行っているCATVの加入世帯数の推移を見ると、1995〜97年にかけて急激な増加が見られ、2年間で約85%の増加率となっている。この急激な増加は、従来の放送に特化したメディアであったCATVが、規制緩和により放送と通信の融合化を可能にする情報通信基盤への発展したことによるところが大きいと考えられる。また、双方向機能を備える都市型CATVの加入世帯数に関しては、1995年までしか統計データがないものの、その後順調に増加し、1997年度の自主放送受信契約世帯数672万世帯の大きな割合を占めていると予想される。CATVの普及率に関しては、すべてのCATV加入世帯数から約32.9%(総加入世帯数を『平成7年国勢調査』の総世帯数4,407.2万世帯で除する)となるが、高度なサービスを提供している都市型CATVの普及率はこれ程高くはない。自主放送受信契約世帯数の総世帯数に占める割合は約15.2%であり、都市型CATVの普及率はこれより低いと考えられる。
出典:郵政省資料
図2−1 自主放送を行っているCATV加入世帯数の推移
一方、規制緩和によりCATVを活用した通信事業に参入する事業者が増加している。CATVを活用したインターネット接続サービス(CATVインターネット)は、高速サービスを安価に利用できることから人気が高く、既にサービスを開始している事業者では加入世帯が急速に増加している。タイタス・コミュニケーションズが千葉県柏市と我孫子市にて提供しているCATVインターネットではサービス開始1ヶ月半で加入世帯が1,000世帯を突破した。また、武蔵野三鷹ケーブルテレビでは、1998年7月時点の約700世帯であった加入世帯が、1999年1月には約2,800世帯となっている。(注3)
出典:郵政省資料より作成
図2−2 第一種電気通信事業の許可を受けているCATV事業者数の推移
A技術動向
CATVに関する技術は、多チャンネルに対応するための伝送路の「広帯域化」と、フルサービスを実現するための「双方向化」という2つの方向で発展してきており、これに対応して伝送路は従来の同軸ケーブルから光ファイバーへと移行している。光ファイバーは高価であることからすべての伝送路を光ファイバー化することは困難であり、幹線を光ファイバーとし、各家庭等への引き込みには同軸ケーブルを活用する光/同軸ハイブリッドシステム(HFC:Hybrid
Fiber/Coaxial System)
が採用されている。HFCは、同軸ケーブルのシステムと比較して、光ファイバーの部分の伝送損失が小さいことから長距離伝送が可能であり、そのため増幅器による中継段数も少なくすることができる。また、光ファイバーは同軸ケーブルより軽く、雑音低減等により双方向サービスの高速化も容易である。HFC化により、従来、250〜450MHzであった帯域が550〜750MHzまで拡大、つまり広帯域化しており、これにともない送信可能なチャンネル数の拡大や、双方向サービス等が容易になっている。
CATVに関する技術のもう一つの大きな潮流は伝送方式の「デジタル化」である。平成9年からCSデジタル放送が開始され、地上波放送に関しても2003年からデジタル放送を開始し、2010年頃までに完全移行を予定している。このような放送のデジタル化にともない、従来、アナログ方式で伝送されてきたCATVにおいても今後デジタル化が進むと予想される。電気通信審議会(郵政相の諮問機関)の答申では、2005年までに主要CATVの幹線網を光ファイバーにして高速インターネットサービスを提供することが望ましいと提案し、また、2010年にはすべてのCATVをデジタル化することが必要としている。(注4)
アナログ方式で伝送できるチャンネル数は標準テレビジョン放送で6MHzの帯域幅に約1チャンネルであるが、デジタル方式ではデジタル情報圧縮技術(MPEG−2)を活用することで6MHzの帯域幅で4〜6チャンネルの伝送が可能になる。また、上述した広帯域化に関しても、現状のアナログ方式の伝送では550MHzまでの利用が限界であり、750MHzまでの利用可能な光ファイバー網を構築しても、その帯域を最大限に活用するためにはデジタル化が不可欠となる。この他、デジタル化には昨今、各CATV会社において再送信サービスが増加しているCSデジタル放送との親和性も高い等のメリットもある。既に、1998年7月から、国内初のデジタル方式によるCATVとして鹿児島有線テレビジョンがサービスを開始しており、これから開局するCATVのデジタル化や、既存のCATVのデジタル方式への移行が予想される。
出典:『マルチメディア時代におけるケーブルテレビシステムに関する調査研究報告書』郵政省
図2−3 CATVの技術動向
Bその他の動向
CATVに関わる大きな動向として「広域化」を挙げることができる。1993年に実施された規制緩和にともない、これまで1つの市区町村を範囲としてきたCATVのサービス対象地域の広域化が可能になった。これにより、武蔵野三鷹ケーブルテレビやケーブルテレビ埼玉に代表されるような複数の地方公共団体をサービス対象地域とするCATV事業者の設立が進むとともに、マイ・テレビに代表されるように近隣に市区町村にサービス対象地域を拡大する動きも出てきている。また、同時期に行われた外資出資比率に関する規制緩和により、複数のCATVを運営する事業者であるMSOが我が国にも誕生しており、分散したサービス対象地域による広域的事業展開も進められている。このようなサービス対象地域の広域化は加入世帯の拡大や投資対効果の向上等のメリットがあり、MSOにおいては、番組調達コストや機材購入コストの低減、放送資源の共有化、広告事業の強化等、いわゆる規模のメリットを創出することが可能である。
一方、MSOと同様の効果を創出するため、CATV事業者間の連携も進んでいる。代表的な事例としては、全国の23の中小CATV事業者が番組調達コスト低減を目指し「日本ケーブルテレビ事業者協同組合」を設立している他、東北地方の13の都市型CATV事業者が広告を広域で放送する共同広告システム「東北ケーブルテレビCMネットワーク」を設立している。
このようなCATV事業者の事業面での広域的な連携は、昨今、CATV網を相互接続するという物理的な連携へと発展してきている。規制緩和によりCATVの情報通信基盤としての性向が強くなってきていること、CATVインターネットへのニーズが高まっていること等から、各CATV事業者は「ネットワークの外部性」を創出するため、相互接続への取り組みを進めている。各CATV事業者は相互接続により、通信サービスによる収入拡大、デジタル化投資のコスト低減等の効果を期待しており、1999年1月にはMSOであるジュピターテレコムとタイタス・コミュニケーションズの両社が傘下CATV局を結ぶ光ファイバー網の共同建設に合意した。また、CATVを地域情報化を進める上での基盤の1つとして位置付け、行政ネットワーク等と相互接続する動きもあり、代表的な事例に岡山情報ハイウェイが挙げられる。
表2−3 CATVの相互接続の代表事例
3)海外との比較
我が国のCATVの特性等を理解する上で参考とするため、海外のCATVの動向を整理し、比較する。特にCATVの普及率が高い米国の動向を中心に整理する。
@米国のCATVの動向
米国で最初にCATVが整備されたのは我が国の7年前に遡る1948年であり、我が国同様、当初は再送信を目的としていた。60年代に入ると、競合する地域テレビ局の圧力等により地域外放送の再送信禁止等の規制が行われたが、70年代初期から規制緩和が行われ、70年代末までに全米で約1,500万世帯がCATVに加入した。その後、1984年にケーブル法が制定され、更なる規制緩和が行われると、CATVに対する投資は更に拡大し、84〜92年の間に1兆5千億円を越える投資が行われたとされている。(注5)
膨大な投資により、80年代にはCATVの急速な普及が進み、80年代末には約5,300万世帯が加入し、全世帯に占める割和も約57.1%に達した。90年代においても加入世帯は増加を続けているものの、その成長は鈍化傾向にあり、94年からサービスが開始されたDBS(Direct
Broadcast Satellite)の普及がCATVの成長鈍化に拍車をかけたとされている。(注5)
それでも、98年の加入世帯数は6,700万世帯を越えており、普及率は67.4%で我が国の普及率の4倍以上であり、マスメディアとして地位を確立していると言えるだろう。また、CATVのMSO化が進んでいるのも米国の大きな特徴である。米国の2大MSOであり、我が国のMSOにも出資しているテレ・コミュニケーションズとタイムワーナーはそれぞれ加入世帯が1,200万世帯を越えており、MSO上位5社の加入世帯の合計はCATVの総加入世帯の約60%を占めるに至っている。
一方、90年代後半からはCATVは通信分野への規制緩和等によりサービスの高付加価値化、フルサービス化を進める方向で発展を模索してきている。96年に可決した米通信改革法案により地域電話、長距離通信、CATVの3業種の垣根が撤廃され、相互の事業参入や、通信事業者とCATV事業者の提携・合併等が進んでいる。代表的な動きとしては、米通信最大手であるAT&Tによるテレ・コミュニケーションズ(MSO)買収や、地域電話会社USウェストによる多チャンネルデジタル放送サービスの開始等が挙げられる。このように既存のCATVでは、提携や合併により電話やインターネット接続等の通信サービスへ取り組みを模索しており、全米有線放送協会のホームページ(注6)
に掲載されているPaul Kagan Associates, Inc.
の調査によると、米国においてCATVインターネットが利用可能な世帯数は98年時点で1,950万世帯、その内、実際に利用している世帯は50万世帯となっている。同社は全米におけるCATVインターネット利用可能世帯は2000年には3,900万世帯、2005年には6,700万世帯以上まで拡大すると予測している。
また、CATVのデジタル化も進んでいる。我が国で2001年に予定されている地上波デジタル放送が、米国では既に1998年11月から開始されており、米連邦通信委員会(FCC:Federal
communications Commission) の計画を上回る42の地上波テレビ局がデジタル放送を開始し、3大ネット(CBS、ABC、NBC)ではデジタルHDTV(High
Definition Television)への取り組みも行われている。米CATV業界では、このような地上波放送のデジタル化に先駆けデジタル放送を開始しており、テレ・コミュニケーションズは97年2月からデジタル放送「ヒッツ」を開始し、傘下の43局がサービスを行っているPaul
Kagan Associates, Inc.
の調査によると、98年時点でCATVによるデジタル放送サービスが利用可能な世帯は140万世帯となっており、同社は2000年に980万世帯、2006年に3,860万世帯に増加すると予測している。
出典:全米有線放送協会のホームページ
図2−4 米国におけるCATV加入世帯数の推移
出典:全米有線放送協会のホームページ
図2−5 米国のCATVにおける高付加価値化の展開予測
Aその他の国のCATVの動向
ヨーロッパでは、国によりCATVの普及率が大きく異なるが、その普及率は我が国と比較して相対的に高いと言える。1994年11月時点においてスイス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクは、米国を越える80%以上の普及率に達しており、マスメディアとして重要な位置を占めている。また、ドイツでは、43.9%の世帯がCATVに加入している反面、衛星放送であるDTH(Direct-To-Home)の普及率も高く、CATVと衛星放送の競争の構図が窺える。逆に英国ではDTHの普及が進んでいるため、CATVの普及が遅れている。
また、ヨーロッパでも米国同様、通信と放送の融合化や、放送のデジタル化も進んでおり、特に英国において顕著な動きが見られる。英国のCATVは通信大手ケーブル・アンド・ワイアレス(C&W)の子会社と米ナイネックスが出資するCWCと、米テレ・コミュニケーションズとUSウェストが出資するテレウェストの2大MSOが7割を占める寡占状態であり、米国のCATV事業者や通信事業者の参入が多く見られる。同国は世界に先駆けて1991年にCATV事業者の通信事業兼営を認めており、98年には通信事業者の放送事業参入も認め、通信と放送の融合化、競争環境整備を進めている。CATV事業者における通信事業参入は低価格サービスによる電話サービスの加入世帯を増加させたが、本来のサービスである放送サービスへの加入世帯は電話サービスより少なく、98年1月時点で、放送サービス加入世帯数は電話サービスを100万世帯以上下回る217万世帯となっている。また、DTHのデジタル化が98年6月、地上波放送のデジタル化が同年11月から開始されたことから、各CATV各事業者におけるデジタル化への取り組みも進んでいる。最大手のCWCはデジタル放送を利用した双方向サービスを行うため、航空会社や銀行など提携を行うとともに、インターネット接続サービスの提供も予定している。英調査会社のCIT
Research Ltd.
によると、1998年時点、西ヨーロッパでCATVに加入している世帯数は4,500万世帯、内デジタル放送サービスが提供されている世帯は75万世帯とされており、同社では2007年にCATV加入世帯が6,600万世帯、内デジタル放送サービスが提供される割合は38%(英国では63%)になると予測している。(注7)
一方、アジアでは我が国以外では、台湾、韓国等においてCATVの取り組みが見られ、特に台湾における普及が進んでいる。台湾では1972年頃からCATVによるサービスが提供され始めたが、長い間違法なものとして扱われてきた。しかし、93年には有線電視法が制定されCATVの合法化、再編化が行われ、その後、急成長を遂げ、98年時点の加入世帯数は約500万世帯、普及率80%以上となっている。このようにマスメディアとして発展した台湾のCATVにおいては、事業者間の激しい競争が繰り広げられており、ライバル事業者への番組提供を停止する等の問題も起こっている。また、98年末から東森、和信等の大手事業者がインターネット接続サービスを開始した他、99年には外資の資本参加、2001年には電話事業への参入が緩和されることからも今後、更に競争が激化することが予想される。
表2−4 ヨーロッパにおけるCATVとDTHの普及状況
出典:CABLE AND SATELLITE EUROPE,Jan.1995
(注1)
『マルチメディア辞典』産業調査会辞典出版センターによると、我が国で初めてCATVが開設されたのは1954年で、群馬県伊香保町だけでなく、静岡県湯河原町、静岡県熱海町でも開始されたとされている。
(注2)
『マルチメディア時代におけるケーブルテレビシステムに関する調査研究会報告書』郵政省
(注3)
『東広島市における情報通信の高度化に関する調査研究報告書』NEC総研、28頁
(注4)
『ケーブルテレビの高度化の方策及びこれに伴う今後のケーブルテレビのあるべき姿−平成22年のケーブルテレビ』郵政省
(注5)
佐野匡男/伊澤偉行編著『ケーブルテレビジョンの野望』電気通信協会、198頁
(注6)
全米有線放送協会のホームページのURLは http://www.ncta.com/home.html
(注7) CIT Research Ltd.
のホームページのURLは http://www.citresearch.com/index.htm
3.地域情報化におけるCATVの役割
CATVにより提供が可能なサービスを以下に整理するとともに、これらのサービスが地域に対してどのような効果をもたらすかについて検討する。
1)CATVによるサービス
CATVは社会資本としての性格を有しており、この性格は規制緩和によって通信網としての機能が付加されたことにより更に高まった。では、地域情報化においてCATVにはどのような役割が期待できるであろうか。CATVにより提供可能なサービスは、従来、「放送サービス」という単方向の情報提供サービスが中心を為していたが、規制緩和により「通信サービス」という双方向の情報通信サービスの提供も可能になっている。これにより昨今、通信サービス、もしくは放送と通信の融合したサービスの提供に取り組むCATVが増加しており、いわゆる「フルサービス化」が進んでいる。
放送サービスとしては、CATVの開始当初から行われてきたテレビ放送の再送信があり、これはテレビ放送の受信が困難な山間地域や、放送局の少ない地方都市において、都心との情報格差是正に大きく寄与している。昨今ではCSデジタル放送等により再送信できるチャンネルが多様化してきており、加入世帯個々のニーズに対応した放送サービスの提供等も可能になりつつある。また、コミュニティ・チャンネルは行政情報、商店街の売り出し情報、災害情報、催し物情報等、地域に密着した情報提供を行っており、地域内の情報対流において重要な機能を果たしている。
通信サービスとしては、普及が進んでいるインターネットへの接続サービス(CATVインターネット)が最初に挙げられる。インターネットは非同期性、マルチメディア等の特徴を持つグローバルなネットワークであることから利用者が急増しているが、CATVにより高速なインターネット接続環境を提供することは住民や企業の高度な通信サービスニーズに応えるものである。インターネットの普及に対応してホームページにより情報を提供したり、電子メールにより公聴活動を行う地方公共団体も増加しており、CATVインターネットにより、行政と住民、企業のコミュニケーション促進等が期待される。また、電話や専用線としてのサービスは、従来、日本電信電話が独占していた地域内通信市場において競争を促すという面で利用者側のメリットは大きい。この他、CATVによる通信サービスを活用することで、ホームセキュリティ等のサービスが提供できる他、水道料金の自動検針や緊急通報システム等、公共サービスの運営の効率化を図ることも可能である。
放送と通信の融合したサービスとしては、まず、オン・デマンド・サービスが挙げられる。代表的なものとしてVOD(Video
On Demand)
があり、古くは奈良県生駒市のにおけるHi−OVIS(Highly
Interactive Optical Visual Information System)において1977年に実験的な取り組みが行われている。Hi−OVISの実験では利用者のニーズに応じてビデオテープをビデオデッキに装填し放送する仕組みであったため、同一ビデオへの複数ニーズへの対応や、ビデオの途中変更等に対する柔軟な対応が難しいといった問題があった。しかし、昨今ではデジタル技術を利用したビデオ・サーバを用いることで、利用者個々への柔軟なサービス提供が可能になりつつある。オン・デマンド・サービスは、ビデオ以外に、カラオケやゲーム、ニュース等のソフトに関しても可能である。この他、放送で流される商品の映像情報等をもとに通信機能で購買を即時決済できるホームショッピング等のサービスも想定される。
また、放送と通信の融合したサービスとして、医療・福祉、学習等の分野の在宅サービスが挙げられる。在宅の医療・福祉サービスでは、遠隔地にいる医師や保健婦等がテレビ電話等を介して、在宅の患者や要援護高齢者等の相談に応じたり、指導・指示を与えるというものであり、体温、脈拍、血圧等の必要な情報を通信機能により医師に送信することも可能である。在宅医療サービスに関しては、現在、医療法や薬事法等の法制度面の規制やサービス提供に要する設備コスト等から、いくつかの実験的な取り組みが行われるに留まっている。また、在宅学習サービスに関しては、講義等の映像情報を放送するだけのサービスが主流であるが、今後は、通信機能により質問や意見交換が可能な形態へと発展していくと考えられる。
上記のサービスは放送サービスに通信機能を付加するといったアプローチによる融合が中心であるが、昨今、通信サービスの中に放送サービスを取り込むというアプローチからの融合も見られる。具体的にはインターネットによる放送サービスがであり、これはCATVに限定したサービスではないが、CATVによる高速インターネット接続サービスを活用することで、より質の高い映像情報の提供が可能である(公衆回線の速度では映像情報の提供は困難)。立川市のマイテレビでは、1998年5月からCATVインターネットの利用者に対して、最新映画の予告編の映像情報や音楽CDの試聴情報等の提供を開始している。最新映画の予告編は最大200kbpsで配信され、テレビ放送には及ばないもののISDNでは実現できない滑らかな動きを実現しているそうだ。(注1)
この他、インターネットを介したカラオケ・オン・デマンド等のサービスも実用化されており、今後、CATVインターネットの普及により、通信サービスの中の放送的なコンテント充実が期待される。
図3−1 CATVにより提供可能なサービス
2)CATVのサービスが地域にもたらす効果
先に整理したように、CATVは従来の放送サービスに通信サービスを融合化させることにより、フルサービス化を進めている。では、CATVにより提供されるこのようなサービスは地域に対してどのような効果(便益)を創出しているであろうか。CATVの創出する効果は、「高度な情報環境整備」と、それにともなう「情報化以外の地域振興」に大きく分けることが可能である。「高度な情報環境整備」とは、狭義における地域情報化そのものであり、「情報化以外の地域振興」とはCATVによる「高度な情報環境整備」により地域において創出される情報化以外の効果である。広義における地域情報化は、前者と後者両方を含有する概念であると考えられる。
@高度な情報環境整備
CATVによる高度な情報環境整備とは狭義においては地域情報化の推進に他ならず、細かくは、情報通信サービスの多様化、取得・利用可能な情報の拡充、情報の取得・発信の利便性の向上、地域内の情報の対流・コミュニケーションの活性化等を挙げることができる。また、このような環境整備、および様々なアプリケーション整備により、住民の情報リテラシー向上、企業の情報化推進等の波及効果も期待でき、地方においては都心との情報格差是正等も効果として挙げられよう。
専門チャンネルの放送やインターネット接続サービス、専用線サービス等は住民や企業が利用できる情報通信サービスの選択肢を拡大するとともに、取得可能な情報の拡充をもたらす。また、VOD等のオン・デマンド・サービスや、コミュニティチャンネルによる地域情報の提供、ホームショッピング、CATVインターネット等のサービスは、住民の情報の取得・発信の利便性向上や、地域内の情報の対流・コミュニケーションの活性化に寄与する。特にインターネット(CATVに限定したサービスではないが)はコミュニケーション手段として、現在、普及が進んでおり、地域内の情報の対流・コミュニケーションの活性化という面で効果が期待できる。
たまに「情報化は目的ではなく手段である」という言葉を耳にするが、実際には上記のように情報化そのものも重要な目的、つまり期待される効果の1つである。ただし、「情報システムの構築」は手段であり、目的ではない。
A情報化以外の地域振興
CATVは、狭義の地域情報化以外にも、産業、保健・医療・福祉、防災、学習、行政等、様々な分野において効果が期待される。
産業分野では、CATV会社、およびそれに関連した企業による新たな産業の育成、雇用創出等が効果として挙げられる他、ホームショッピングによる商業の活性化も想定される。保健・医療・福祉分野では、CATVを活用した在宅医療・福祉サービスや、緊急通報サービス等によるサービスの充実が可能であり、防災分野においては、コミュニティチャンネルによる災害情報の伝達や、ホームセキュリティ・サービスにより、地域の安全性向上等の効果も考えられる。学習分野では、専門チャンネルや在宅学習サービス等による住民の学習支援、CATVインターネットやテレビ会議を活用した学校の情報教育推進等が可能である。この他、自動検針等、行政分野における業務の効率化に寄与する部分もあり、特にコミュニティ・チャンネルに関しては議会の中継や行政関連情報の効率的な提供等、行政分野における有効利用が期待できる。
表3−1 CATVが地域にもたらす効果
(注1) 『日経マルチメディア 1998/9』日経BP社、74頁
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