地域活性化の新思考について

 

前提

 学校において「地域の活性化のための新思考」、というテーマを宿題としていただいていた。しかし、対象を限定しないと具体的なイメージがわかず、検討が困難である。そこで、対象地域を都心であり、首都である東京と、地方都市の2つに設定し、新思考とは言えないが、活性化方策を検討するとともに、以下に活性化案として提案する。

1.活性化について

 まず、何を持って「活性化」とするか非常に難しい問題である。「人口や立地企業が増加したら」、「定住化が進んだら」、「若者が増加したら」、「人々が活動的になったら」、「健康な人が増えたら」、「経済が発展したら」等、様々な基準が存在する。
 東京に関しては、人口、企業とも十分な集積が形成されており、これ以上の集積は、地方の衰退や、集中のデメリットをもたらすと私は考えている。また、人口動態等を考慮すると、地方都市においても(一部の地域を除いて)今後、人口増加は期待できないであろう。
 そこで、ここでは「地域の現状を維持しつつ(拡大することなしに)、経済ポテンシャル(消費購買量、商品・サービス出荷額等)を高めること」を「活性化」として捉えることとする。

2.東京の活性化案(観光都市東京)

 我が国の外国人観光客吸引能力は低く、1995年現在の外国人訪問者数は約335万人となっており、先進諸国の中でも著しく低い。また、この内、東京を訪問している外国人は3分の1以下の98万人(1993年)であり、空港等の交通機能や、他の諸機能の集中を考えると、東京の外国人観光客吸引能力は非常に低いと考える。
 このようなことから我が国、特に首都であり、ロンドン、ニューヨーク等と比較される国際拠点都市、東京においては国際的観光地としてのポテンシャルを挙げることが必要である。外国人観光客の吸引は観光産業を中心とした売上拡大だけでなく、東京の国際都市としての価値の高まりや、住民への刺激等、様々な波及効果が期待でき、この面でも活性化に有効ではないかと考える。
 では、具体的にどのような方策が挙げられるか。
 まず、景観に関する規制を行うことが必要であろう。パリ、ニューヨーク等では景観を美しく見せるため、洗濯物を干したら罰金、とか電球の色を黄白色にする等の規制を行っている。個々の場所で煩雑に開発されている東京の土地や建物においても、もう少し広範囲において何らかしらの共通性を持たせるような規制を行うことが望ましい。
 加えて、我が国の歴史的・伝統的な景観の集中的な保全・整備が必要であろう。洋風化している我が国の建物は外国人観光客からすれば何も目新しくなく、むしろ我が国の伝統的な木造建築物に外国人観光客を吸引する力があると考えられる。したがって、浅草等において歴史的・伝統的な建築物や景観、機能(ミニ日光江戸村等)を総合的に整備し、外国人観光客吸引の拠点をすることが案として挙げられる。また、パリ等を参考とすると、歴史的・伝統的な景観とショッピング機能の融合等も必要ではないかと考えられる。
 一方、先進的な景観の建物の集中的な整備等も有効ではないかと考える。特に東京国際フォーラム(費用対効果は別にしてデザイン的に先進的であると思う)や東京都写真美術館等の先進的なデザインの公共施設を分散配置せず集約し、また、民間企業による先進的なデザインの建物建設を誘導すること等が想定される。
 また、マーケティング面では、個々の観光資源の知名度向上を図ることが急務であろう。「TOKYO」は知られていても、浅草、東京タワー、表参道等の個々の観光資源は外国においてほとんど知られていない。したがって、あらゆるメディアを活用して、個々の観光資源を世界的に発信することが求められる。具体的には、東京都自身がハリウッドに出資して東京を背景とした映画を作成してもらうとか、有名画家に東京を題材とした作品を書いてもらうとか、有名ミュージシャンのプロモーションビデオ撮影を誘致するとか、観光情報を意識させない、エンターテイメントを融合した情報発信が有効だと考える。

図表1 外国人訪問者数の国際比較

外国人の訪問者数国際比較

出典:国際観光振興会ホームページ

3.地方都市の活性化案(情報都市へ)

 パソコンやインターネットの普及に見る高度情報化の進展は都心と地方の情報格差を縮小するどころか、都心と地方の格差を拡大しているように感じる。しかし、この情報化への潮流は世界的にしばらく続くと考えられ、地方都市においても避けて通れない社会環境変化であろう。したがって、情報格差拡大による地域の衰退を防ぐために、地方都市の情報化推進が望まれる。また、昨今、公共事業の問題が頻繁に指摘されているが、土木産業に偏重した我が国の産業構造の転換を図る上でも、地方都市において地域情報化を進めて、新たな産業への構造転換を加速することが必要であろう。
 では、地方都市において情報化を促進し、これを活性化に結び付けるためにはどうすれば良いのであろうか。私は住民の情報リテラシー向上と集中投資が鍵になると考えている。
 情報通信ネットワーク、特にインターネットの活用は、都心と比較して地方都市の不便な点を補完する可能性がある。洋書や専門的なソフトウェア等、地方都市では手に入りにくい物でもインターネットを通じて手に入れることが可能であるし、また、人口の少ない地方では同じ話ができないようなマイナーな趣味の人もインターネットの中で同じ趣味の人を容易に見つけることができ、文化的な多様化、広がりにも貢献する。このようなことから、地方都市においてこそインターネットの利用が盛んになるべきであり、そのために住民の情報リテラシー育成を測ることが急務である。
 また、正確な統計はないが、同額所得層、特に中間所得層における情報リテラシーを比較すると、米国の方が我が国より優れており、これが今日の米国経済、およびその情報産業の発展を支えていると私は考えている。したがって、情報リテラシー向上は以下に示すような好循環を形成し、地域における経済の発展に寄与すると考えられる。高い情報リテラシーは、情報へのニーズを作り出すとともに、これにより情報そのものを商品とした経済の発展が期待できる。
 それでは、具体的にどうするか。学校、職場、家庭という3つの場におけるインターネット利用を促進することが最も有効であろう。加えて、このインターネットの利用促進においては集中投資が非常に重要である。インターネットは文字通りネットワークなので、ネットワークの外部性が働き、利用者がある程度身近にいると利用開始時のストレスも軽減される他、利用者個々の効用も向上する。したがって、学校におけるインターネットを利用した情報教育の義務化、職場におけるインターネット利用のための設備投資の非課税化や特別償却、家庭におけるインターネット利用設備購入支援、等の施策を行政機関を中心として集中的に行うことが望まれる。もちろん、民間企業やボランティアの活力を活用することも有効であるが、最も留意すべき点はは、集中的に行うことで有効性が高まるということである。

図表2 情報リテラシー向上による好循環

情報リテラシー向上による好循環

 

4.過疎地域の活性化案(歴史的生活村落)

 過疎地域において人口等を維持することは非常に困難である。なぜなら、私を含めて一般的な若年人口は、子育てや利便性等、様々な理由により一定以上の人口規模のあるまちを選択し、流出するからである。昨今では、豊かな自然等を理由に農村回帰を志向する人々も出てきているそうであるが、都心へのアクセスのよい近郊農村が対象となっているらしく、地方の過疎地域において人口を維持するのは至難の業であろう。
 そこで、特定の人を吸引するために過疎地域の思い切った差別化を提案する。つまり、村から電気、自動車等の一切の文明的な産物を排除し、農業を基本とした自然的な昔の生活へ回帰するのである。私が一度訪問したことがあるノースカロライナ州のオールドセーラムという地域では旧来の歴史的な街並みを保存しており、一部の人は、電気もガスも通っていないその旧来の建物で旧来の生活を営んでいた(確か?)。このような生活回帰の志向は、価値観が多様化すれば(少ないであろうが)一定の割合で出てくると考えられ、この人達の流入が期待できる。もちろんショートステイを受け入れることで、街並みや自然を保存するための資金を確保することも想定される。

参考:http://www.oldsalem.org/oldsalemonline/index.html

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