川越駅西部地域の開発計画に関する考察

 

はじめに

 本論は私が通学している大学院において課題として出された「川越駅西部地域の開発計画」について考察したものであり、以下の手順により検討している。
 まず、統計資料や各計画書をもとに、マクロ的な視点から川越市の特性、発展方向を整理する。次にミクロ的な視点として、対象地域である川越駅西部地域やその周辺について特性等を整理する。マクロ的な視点、ミクロ的な視点を踏まえて、川越駅西部地域の開発に関するコンセプトを提案するとともに、それに基づく開発計画(案)をいくつか提案する。

1.川越市の概要

 統計や各種計画書、既存の資料等から川越市の特性を整理する。

1)歴史・地理

 川越市の名前の由来は鎌倉時代にこの地を統治していた御家人河越氏に由来していると考えられ、長禄元年には太田氏が川越城を築いた。江戸時代には物資の供給地として重要視され、明治時代には埼玉県一の商業都市として繁栄した。大正11年川越町と仙波村の地域をもって県内で最初に市制を施行し川越市が誕生した。その後、昭和14年に田面沢村、昭和30年に芳野村、古谷村、南古谷村等を合併し、現状の姿となっている。
 市域は約110kuであり、東側には荒川による扇状性低地が広がっており、西部には砂礫台地、ローム台地が広がっている。

2)人口

 合併が終了した昭和30年に104,612人だった人口は約3倍に増加しており、平成7年時点で約32万人となっている。高齢化率は約10%であり、埼玉県平均や全国平均と比較して低い状況にある。また、人口の増加比率を世帯増加比率を上回っていることから核家族化が進んでいることが窺える。

3)産業

 農業粗生産額は県内第2位である。工業の製造品出荷額は県内3位であり、化学工業が中心を占めており、化学工業等を中心に企業の研究所も多く立地している。商業に関しては、古くから商業のまちとして発展してきたものの、小売業販売額は県内4位であり、減少傾向にある。また、観光に関しては、歴史・文化・祭り等の地域資源を活用した観光客吸引力があり、年間約370万にの観光客が訪れている。

4)交通

 鉄道網では、JR川越線、東武東上線、西武新宿線の3路線が川越市に乗り入れており、駅数は11になる。中心市街地には3路線の4駅が集中しており、1日の利用者は約14万人になる。
 道路網では、東京圏から放射状に伸びる関越道と国道254号が縦軸として、県南西部の主要都市を結ぶ国道16号が横軸として主要幹線を形成している。
 東京圏への通勤は以外に少なく50%以上の人が市内通勤を行っている。

5)教育・文化等

 高等学校17校、大学院・大学・短大5校、専修学校7校が立地しており、大学の学生数は東洋大学工学部が約3,700人、東京国際大学(含む大学院)が約6,500人となっている。
 文化施設としては、川越市民会館、やまぶき会館、文化センター等があるが、川越市民会館は昭和39年に建設された物で老朽化が進んでいる。
 医療施設に関しては100人当たりの病床数は1.42と県平均より高く、県内最大規模の病院である埼玉医科大学総合医療センターも立地している。

2.都市間比較による川越市の特性

 川越市と人口規模で類似する函館市、秋田市、柏市、品川区、富山市、岡崎市、吹田市、宮崎市と比較して、その特性の分析を試みた。

1)人口等

 可住地人口密度は吹田、柏に次いで高い。1世帯当たりの人員に関しては核家族化が進んでいるものの同規模の都市と比較すると3番目に多い状況にある。

2)産業

 就業者の産業構成比を見ると、第1次産業、第2次産業の割合が高く、両産業とも比率が2番目に高くなっている。これを反映してか事業所数も少なく柏、吹田に次いで3番目に少なくなっている。
 その一方で工業製品出荷額は高く、岡崎に次いで2番目である。反対に小売販売額は吹田に次いで少なく、数値からは「商業のまち」としてイメージは見られない。

3)財政

 歳出額は9市区の中で最も小さいが、財務状況は良好と言え、経常収支比率79.2%、起債制限比率7.3%と岡崎に次いで低い。

4)生活環境

 持ち家比率は富山市に次いで2番目に高く、定住性は高いと言える。また、乗用車保有台数も岡崎、富山に次いで3番目に高い。都市公園面積は品川、柏に次いで少なく、もっとも多い宮崎の4分の1以下となっている。

図表1 類似都市間の比較(1)

都市間比較1

図表2 類似都市間の比較(2)

都市間比較2

3.計画から見る地域の発展方向

 各計画から見る川越市の発展方向を整理する。

1)広域計画

 『埼玉県長期ビジョン』(平成9年2月)、および『埼玉県新5か年計画』(平成10年2月)によると、川越市は西部複合都市圏に位置付けられており、現在、建設が進められている(一部既設)圏央道沿いに産業拠点の集積を図り、新しい文化と産業の発展する都市圏の形成が唱われている。また、川越等の地域拠点となる都市においては、産業、文化、防災、交流等、都市機能の核となる地域振興拠点施設の整備が施策の展開方向として示されている。

2)『第二次川越市総合計画』

 将来都市像として「自然と歴史を生かし、市民がいきいきと、新しい暮らしを創造するまち」を示しており、基本構想の理念として、「市民の尊重と平等・公平、平和」、「豊かで健康な暮らし」、「まちと自然を愛し、歴史・伝統の保全」、「新しい価値の創造」、「市民と行政の協働」が示されている。
 将来人口の推計では平成12年で34万人、平成17年で36万人が予測されているが、人口増加比率の低下が進んでおり、平成11年1月時点の人口が32万5千人であることから、少し下方修正されると考えられる。
 具体的な施策は、保健・医療・福祉等、7つに分けて整理されており、都市基盤整備の項目においては、「時代の要請に適応した多機能な複合施設として産業文化センターの建設、および川越駅西口周辺地区の整備」が示されている。

3)川越市の諸計画等

 昨今、川越市では『川越市情報化基本計画』、『川越市環境基本計画』をとりまとめて、地域情報化の推進方向や、環境の保全・創造について示している。特に環境問題への取り組みに関しては、「節電(省エネ)・新エネルギー自治体サミット」を開催したり、独自に住宅の太陽光発電設備への補助を行ったり、節電運動を行う等、積極的な取り組みがなされている。

4.開発対象地域と周辺の特性

 既存の資料や現地調査から対象地域と、その周辺の特性を整理する。

1)川越駅東口

 東口を出て、直ぐ右側に商業と住宅の複合施設があり、左側には大規模店舗であるアトレがある。商業的な集積は線路に垂直ではなく、線路沿いに北へ伸びており、川越駅から西武新宿線の本川越駅周辺まで高い商業集積が見られる。アトレの北側から伸びるクレアモールには丸井、マルヒロ等のデパートが立地する他、沢山の小売店が集積し、休日にはアメ横なみの混雑を見せている。交通手段は電車が主であると考えられるが、クレアモールの裏側には駐車場も比較的多く、駐車場の不足やそれにともなう渋滞は見られなかった。
 市役所等の公共施設や、蔵造り等の観光資源も東口にあり、商業集積地域の更に北側に位置している。蔵作り等の観光資源はある程度の観光客吸引力があると見受けられるが、川越駅からは遠い距離にあり、周りの道路整備等の課題もある。

2)川越駅西口

 駅周辺は区画整理がなされており、東口と異なり線路と垂直に道が開けている。駅前、および線路と垂直に走る目抜き通りには、生命保険、損害保険会社のビル、塾(予備校)、駐車場等が数件あり、散在するビルは概ね7〜8階建てで、個性的な外観は見られない。駐車場に関しても、5階建ての立体駐車場等が見られるが、休日における利用率は低く、通勤時における利用が中心であると推測される。商業面では、マクドナルドや不動産屋が数件見られる程度で、駅前において商業的な集積はほとんど見られない。東口と連絡道路がある西口北側(西口を出て右側)に少し商業的な集積が見られる程度である。
 西口を出て正面直ぐに噴水があるが動いておらず、また、噴水の後ろにある地下通路も、車の通りが少ないことから利用されていないようだ。休日における昼間人口は東口と大きな差があり、人通りは非常に少ない。

3)対象地域

 対象地域は約24,000uであり、現在、駐車場として使われている部分も含め西側半分はほとんど更地である。東側には埼玉県福祉センターと県立図書館があるが、建物は比較的古いと予想される。県立図書館は西口にいくつかある塾(予備校)の生徒の自習の場となっているようだ。西側の更地と東側の公共施設の間には道路が通っているが、道幅が狭く、交通の便は悪い。
 対象地域の北から西側にかけて目抜き通りが走る予定であるが、目抜き通りの西側には低層の住宅地が広がっている。また、対象地域南側、東側にも低層住宅地、および空き地(駐車場)が広がっており、東側には木屋製作所が比較的大きな敷地を有している。対象地域を含め空き地は多いものの、周辺には公園が少ない。
 南側に通る国道16号までは近く、外部からの交通アクセスは比較的容易であろう。

4)その他

 開発対象地域と複合した開発の可能性がある日清紡川越工場であるが、開発対象地域から多くの住宅を隔てており、複合開発を行うのは困難であると考えられる。

5.川越駅西部地域の開発コンセプト

 ここでは、1つの明確な開発コンセプトを提示するのではなく、これまでの現状分析をもとに複数のベクトルを提示したい。総合計画では開発対象地域は産業文化センター(仮称)の建設が唱われているが、本考察ではこれにとらわれず検討を行う。
 開発の基本的な目的を「地域アイデンティティの強化」とし、そのためのベクトルとして以下の4つが考えられる。

1)商業集積の拡充

 川越市は明治時代には県内一番の商業集積地であったが、昨今では川口、大宮、浦和等に後塵を拝している。確かに西口には商業集積が見られるが、同規模の都市と比較すると小売販売額が小さい。西口における新たな商業集積を生み出すことにより、更なる商業振興が期待でき、「商業のまち」という地域アイデンティティ回復を図る。

2)教育・研究

 川越市には文化・教育というイメージがあり、高等学校等の進学率は高いと聞いている。そこで、このような優秀な学生の地元の受け皿として、更なる高等教育機関の整備が必要ではないだろうか。また、企業の研究施設が多く立地していることから、大学、もしくは大学院との産学共同研究を推進することで、産業振興面での効果も期待できる。

3)環境保護

 昨今、川越市では環境問題への先駆的な取り組みを行っており、環境保護先進都市としてのイメージを定着させるモデル事業が必要ではないか。また、新たな文化形成という側面からも環境保護を推進することは同市において有効であると考えられる。

4)文化施設の拡充

 蔵造り等の歴史的な街並みに代表されるように文化的なイメージがある川越市であるが、都市公園面積が同規模の都市より少なく、公園等のオープンスペースの拡充が望まれる。また、コンサートや劇等のイベントを行うスペースに関しても人口増加に見合った拡充が望まれ、現在老朽化が進んでいる川越市民会館に関しても機能を拡充した代替施設の整備が必要であろう。

6.開発プランの提案

 上記の開発コンセプトを踏まえ、いくつかの開発プランを提案する。

1)プラン1(エコストア整備)

 高度な環境対策を整備した大規模商業施設を先進的エコストアのモデルとして整備する。

@施設の概要

 大型SC(ショッピングセンター)、個別の小売・飲食店、公共施設等で構成する4〜5階建ての複合商業施設とし、地下には2〜300台の駐車スペースを設ける。施設の南側の外壁や屋根に太陽電池を配することで必要な電力のある程度自給を可能とする。太陽電池のエネルギー効率を考慮すると、南側に向けて曲面的なデザインの施設にすることも想定される。この他、生ゴミ等の分解処理するシステムや、ゴミのリサイクルシステム等を構築するとともに、必要に応じてコジェネレーションシステムを整備する。建物の専有面積は敷地面積の約3分の2とし、残り3分の1はオープンスペースを設けて公園として市民に開放する。
 公共施設としては、パスポートセンター、防災センター、総合計画に唱われている生涯学習センター等の整備が想定され、市民への環境問題への意識啓発を促すような新たな公共施設整備も考えられる。
 また、観光用に貸し出す電気自動車と充電用の電気スタンドを整備する等も考えられる。(川越駅から蔵造り地区まで距離があるため)

A効果と問題点、課題

 大規模商業施設の建設により西口への集客が進み、全体として川越駅周辺の集客機能が強化され、市の小売販売額等も増加すると予想される。市の環境先進都市としてのイメージを形成するとともに、市民への意識啓発等に関しても効果は大きいと考えられる。また、複合商業施設として整備することで、開発のための行政の支出も小さくすることが可能であろう。通商産業省等の環境対策のモデル事業の指定を受けることで、太陽電池等のシステムに関しても比較的低支出で整備できると考えられる。
 問題点としては、商業機能の競合、分断が懸念される。対象地域は現状では東口の商業集積地域と連続性がなく分離しており、一体的な発展や相乗的な効果は生み難い。西口に集客することで、クレアモール等の集客力が低下することや、駅を挟んだ競争の構図を生み出す可能性がある。したがって、西口の商業集積と連続性を持たせるため、西口と東口の連絡通路から対象地域にかけた商業開発も並行して進めることが望まれる。
 また、線路を2階に通す等により、東口と西口の連絡通路の人の流れをスムーズにすることも不可欠である。

図表3 商業集積分断への対応イメージ

2)プラン2(大学整備)

 理工系の大学、もしくは大学院を誘致し、産学による共同研究施設を併設する。

@施設の概要

 敷地面積の3分の2程度を建物の面積として、大学施設、産学協同研究施設等を整備する。大学施設は7〜8階建てとし、大容量の情報通信ネットワークを装備する先進のインテリジェントビルとする。また、川越駅西口のビル群と異なり、デザインを重視したランドマーク性の高い建物にすることが望ましい。
 インテリジェントビルと離れた場所に4〜5階建ての産学共同研究施設の整備し、施設の上階には遠くから通勤する教授等のための宿泊施設を整備する。
 大学として敷地等が不足する場合は、日清紡川越工場のある土地にキャンパスを近隣分散立地することも考えられる。

A効果と問題点、課題

 産学協同研究の推進等による産業振興が図られ、更なる研究機能集積も期待できる。また、若年層の流入により、まちの雰囲気や商業等の活性化も想定される。その他、市の生涯学習の拠点としての機能も期待できる。
 一方、大学の誘致は非常に難しいと考えられ、立地インセンティブを与えるための行政支出増大等が問題点として挙げられる。公立大学の設置も想定されるが、膨大な初期投資が必要であり、また、運営体制を整えるためにある程度の期間が必要であることから実際には不可能であろう。加えて、文部省の認可等に時間を要する等の問題点も挙げられる。
 公設民営や、金融機関、学校法人等の連携によるPFI的な整備も可能性として挙げられるが、日本の私立大学においてPFIに対応できる余力や組織の柔軟性があるか疑問である。したがって、実際に行う場合は支援施策を充実して、既存の大学を誘致することがより良い選択であると考えられる。

3)プラン3(市民会館整備)

 現存する市民会館を閉鎖して、新たな市民会館を駅前に整備する。

@施設の概要

 ホール、会議スペース、ホテル、公共施設等からなる複合施設として整備する。ホール機能は、席が2段もしくは3段あり座席数1,500程度の大ホールと、座席数300程度の小ホールから構成される。会議スペースに関しては、市民が気軽に利用できる小さな会議室を中心に大きな会議スペースも整備する。ホテルに関しては、客室数十の比較的小規模なものが想定され、地下には100台程度の駐車スペースを設ける。公共施設のスペースも同時に整備し、パスポートセンター、防災センター、総合計画に唱われている生涯学習センター等の整備が想定される。
 展示会や国際会議等へ対応するコンベンション機能も有するものの、この分野は現在過当競争にあるため、コンサートや劇等に特化した機能(音響、舞台装置等)整備を行うことが望ましい。また、プロジェクターやインターネット接続機能等、マルチメディアに対応した機能整備も不可欠である。
 加えてエコストアと同様の太陽電池を配し、環境対策型ホールとすることも想定される。

A効果と問題点、課題

 駅前の利便性の高い場所にイベントホールを整備することで、近隣からの集客性やイベントの誘致が容易になる。市民においては新しいイベント施設を利用することができ、収容人員も上がることから人気のコンサートや劇等への参加機会も増加する。
 一方、問題点としては初期の整備コストが膨大になることが挙げられる。また、当初政策的に意図していた産業振興的な要素に欠けるため県等の支援も得られない可能性もある。この他、市民会館の維持・運営のためには毎年数億から十数億円の膨大なコストが必要であると予想され、これを捻出するため施設の利用率向上等の課題がある。
 ただし、PFI的な整備の可能性はあり、金融機関、建設会社、施設運営会社等からなる企業体(ジョイントベンチャー)によるPFIで、初期コストの抑制や、施設の効率的な運営が実現可能である。また、ジョイントベンチャーにイベント企画会社等が参加することで効率的なイベント誘致が可能であり、施設利用率向上等も期待できる。
 加えて、施設整備は市が行い、施設の運営は民間企業に委託するアウトソーシング等も整備手法の選択肢として考えられる。

<参考文献>
伊藤繁『都市開発〜その理論と実際』ぎょうせい
井熊均『PFI〜公共投資の新手法』
『週間ダイヤモンド 1998.5.30』
『週間ダイヤモンド 1999.1.30』
『日経地域情報 No.284』
『地域開発’97.4』日本地域開発センター
『埼玉県新5か年計画』
『埼玉県長期ビジョン』
『第二次川越市総合計画』
『川越市環境基本計画』
『西部地域産業文化センター(仮称)モデルプラン作成に関する調査』
『地域経済総覧’98』東洋経済新報社
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