地方財政改革におけるアウトソーシングの必要性に関する考察

 

1.アウトソーシングとは

 「アウトソーシング」とは、文字通り、OUT(外部)のSOURCE(資源)を活用することであるが、当初、情報システム分野を中心に取り組まれた経緯から情報システムに限定したものする考え方もある。しかしながら、近年、アウトソーシングが行われている分野は情報システムに止まらず、総務、経理、福利厚生、人事関連業務等の多岐に発展しており、情報システム分野に限定した定義では不十分になっている。このような背景から、花田光世『マルチプル・コ・ソーシングによる未来の創造』(1996年)では、「アウトソーシングは、企業にとって専門的なサービスを外の組織に求められていくことに他ならない」と広く定義している。この定義における「企業」は「地方自治体」に置き換えることも可能である。
 また、アウトソーシングには多くの類似する概念があり、この類似概念とアウトソーシングの分類に関しては、花田モデル(花田光世)を用いることである程度可能である。しかし、現場において明確な区別が認識されていないこと、どちらに属するか分からないグレーなサービスが存在すること等から、本レポートでは花田モデルを参考としつつも、類似概念も踏まえた柔軟な対象でアウトソーシングを捉えることとする。

図表1 アウトソーシングの位置付け(花田モデル)


業務の設

計・計画
 

Y E S

  コンサルティング

   アウトソーシング

 N O
 

    人材派遣
 

    外注(代行)
 



 
     N O     Y E S

          業務の運営
 

  出典:ニュービジネス協議会『アウトソーシング産業育成に関する調査研究報告書』

2.地方自治体におけるアウトソーシングの潮流

 以下に整理するような背景により、我が国の地方自治体においてもアウトソーシングの取り組みが進みつつある。

1)行政改革の進展

 制度疲労の激しい現行システムを改革するため、政府は1997年に行政改革会議の最終報告を行った。この報告では、行政機能の見直しを進める上で「行政の減量化(アウトソーシング)」が必要であり、行政機関自ら行う必要が乏しく、民間に委託した方が効率的な事務・事業に関しては、大幅に委託するとしている。  地方自治体に関しても、このような政府の動きや、税収の停滞等の社会環境変化を受け、近年、行財政改革への積極的な取り組みを進めている。自治省においても「地方自治・新時代に対応した地方公共団体の行政改革推進のための指針」を1997年11月に策定しており、その中で「民間委託の推進」を唱っている。

2)海外における地方公共団体のアウトソーシングの進展

 海外の地方公共団体では、雇用の流動性の高さ等を背景として、ドラスティックなアウトソーシングを進めており、効果を創出しつつある。  情報システムのアウトソーシングに関しては、豪州南オーストラリア州、米国インディアナポリス市等が有名であり、それぞれ9年間で1億ドル、7年間で2600万ドルのコスト削減を見込んでいる。  また、情報システム以外の分野においてもアウトソーシングが進んでいる。米国では、少年院運営、廃棄物処理、在宅医療、消防等、多様な公共サービスのアウトソーシングが進んでおり、昨今では公立小学校のカリキュラムや、授業そのものをアウトソーシングする自治体も出てきている。  一方、英国では、サッチャー保守党政権が1980年に導入した強制競争入札制度(CCT:Compulsory Competetive Tendering)により、法律で定めた公共サービスについて、地方自治体と民間企業が競争入札で執行者を決めることになっている。CCTの対象は当初、道路の建設・維持・修繕部門に限られていたが、1988年の法改正によってゴミ収集や建物清掃、学校給食等の事業に拡大し、現在ではほとんどの事業が対象となっている。CCTによりアウトソーシング(民間企業による公共サービスの執行)も進んでおり、全国自治体経営協議会(LGMB)の調べによると、1996年10月時点で約9230(イングランドとウェールズの合計)の事業がCCTに基づき入札されており、44.5%を民間企業が落札している。

3)本業回帰経営の高まり

 近年の景気の低迷に伴い、企業においては「本業回帰」が進んでおり、固有の価値を持つ中核的な業務(コア・コンピタンス)に資源を集約し、間接業務等をアウトソーシングする動きが見られる。この本業回帰へのニーズは行政業務においても同様であり、自治省が行ったアンケート調査においても、「行政サービスに特化したスリムな行政運営」が求められていることが如実に表れている。

3.地方財政改革のためのアウトソーシングの必要性

  昨今における景気低迷により税源の縮小する中、景気回復と就業機会創出のため各自治体においては公共事業の拡大が行われ、自治体の財政状況は急激に悪化しつつある。これは、公共事業のために不足する財源を地方債で賄っていること、および地方債の元利償還費を国が補填することになっているが、全てを補填することにはなっていないため、借金が累積していること等が主な原因である。このような財政状況悪化の中、地方自治体における財政改革は急務であり、これまでの行財政システムを見直し、効率的な行財政システムを構築することが望まれる。  財政改革の大きな方向としては、国から地方自治体への税源と権限の委譲することが必要であるが、この他にもいくつかの方策が考えられる。  以下に、地方財政改革の方策の一つとしてアウトソーシングの必要性について整理する。

1)最適規模の実現

  オーツの理論によると、地方公共財の最適供給範囲から自生的に行政区が形成されるとされているが、我が国でも、明治時代から戦後にかけて教育等の供給体制の観点から町村合併が進められた。しかし、明治時代には7万以上あった自治体の数も1960年代始めに約3300になってからでほとんど変化しておらず、現在の規模が社会や公共サービス供給において適切かどうかは大きな疑問である。実際、住民1人当たりの歳出規模は自治体により大きな格差があり、また、交通網の発展により住民の移動範囲が拡大していることからも、自治体を合併し、規模の拡大、数の縮小を図ることが、社会状況にに則していると考える。  しかしながら、現状において自治体のドラスティックな統廃合を行うことは、民意等の観点から難しく、また、国による強制的な統廃合は地方分権の考え方と矛盾する。自主的な統廃合のみを進める場合は、脆弱な自治体のみが取り残される可能性がある。一方、行政に求められる社会資本や公共サービスに関しては、それぞれにおいて最適規模が異なっており、適当な規模の特定も困難である。  そこで、自治体規模を変えずに最適規模を実現する手段として民間企業へのアウトソーシングが有効である。民間企業では行政単位にとらわれない最適規模によるサービスが可能であり、また、自治体は委託するサービスの特性により最適な民間企業を選択することが可能である。

2)競争原理と公共性の両立

 ティボー・モデルに代表される新古典派の議論においては、自治体間の競争原理により地方公共財の最適供給が得られるとしているが、これは規模の経済が考慮されておらず、地域間格差を拡大する可能性がある。また、低所得者、失業者、高齢者等の担税能力が低い住民に対するサービス、つまり福祉サービス等の切り下げが起こる可能性も多分に含んでおり、競争のために公共性が犠牲になる恐れがある。
 このようなことから、地方自治体におけるサービスにおいては公共性を確保するが故に完全競争には馴染まない部分が多分にあると考える。しかしながら、権限や財源を自治体に委譲し、地域の自主的な財政再建を進める上では、地域のマネジメント能力を高めるために他地域との競争意識も必要であり、競争原理と公共性の両立が望まれる。
 アウトソーシングは公共性を損なわない部分だけ民間企業に委託すすることで、民間企業間の競争原理と行政の公共性の両立を可能とするものであり、このような性格からも地方財政改革を進める上で有効な方策であると考える。

4.アウトソーシングの有効性

 では、実際、アウトソーシングは財政面の改善に対してどれだけの効果をもたらすのあろうか。
 アウトソーシングに関しては、図表2に示すようなコスト削減効果が報告されており、ほとんどのサービスが自治体独自で行う場合の半分以下のコストで実現されている。日本経済新聞と日経産業消費研究所が全国の市と東京23区を対象にして行った調査においても、約94%の自治体が「コスト削減につながった」と答えている。
 また、アウトソーシングすることによるサービスの質の低下が危惧されるが、実際には競争原理(悪いサービスを行うと契約解除、他企業と契約)や意識啓蒙(公共サービス提供という自覚)等により行政自身が行う場合と同等以上のサービスの質を確保している場合が多い。日本経済新聞と日経産業消研究所の調査においても、約37%の自治体が「サービスの質も向上した」と答えている。海外においてもコスト削減効果をあげている。英国の全国自治体経営協会(LGMB)の調査によると、イングランドとウェールズ地域におけるCCTによるコスト削減効果は平均7%(建物清掃20.6%、ゴミ収集12.4%)と報告されている。

図表2 地方自治体のアウトソーシングのコスト削減効果


業務内容
 

地方公共団体によ
るコスト(A)<円>

民間企業によるコ
スト(B)<円>

B/A
<%>

単位等
 

ゴミ収集

     17,921

      8,252

 46.0

トン当たり

給食

       408

       193

 47.3

1食当たり

公用車

       875

       300

 34.3

1キロ当たり

学校警備員

    8,758、000

    1,915,000

 22.3

年間1人当たり

庁舎清掃

   53,830,000

   27,520,000

 51.1

年間経費

保育所

    1,162,748

     289,507

 24.9

園児1人当たり年間

老人ホーム

     356,000

     281,000

 76.9

1人1月当たり

入浴サービス

     32,400

     13,931

 43.0

1回当たり

公民館運営
 

   259,140,000
 

   72,560,000
 

 28.0
 

年間経費
 

出典:ニュービジネス協議会『行政サービス・ビジネス』

5.アウトソーシングを活用した地方財政改革のために

   アウトソーシングを活用した地方財政改革を推進するために、以下に示すような対応が必要であると考える。

1)リエンジニアリングの推進

 アウトソーシングのみを行うよりも、業務プロセスのリエンジニアリング(再構築)を並行して進めた方が財務改革においてより大きな効果が期待できる。リエンジニアリングにより現状の業務における無駄な部分を取り除き、更に民間に委託した方が効率的な部分をアウトソーシングすることで、行政はその機能・サービスを縮小することなく、組織の大幅なスリム化、ダウンサイジングが可能である。現状の業務は上位の行政機関からの委任事務等が多く、非効率的な部分もある。今後は、職員の業務時間コストや住民の満足度向上等を念頭に置いたコスト最小化、スピード追求を進めることが望まれる。特に、縦割り組織構造による不効率、業務の重複、多くのハンコを必要とする稟議書等に関しては、早急な見直しが必要である。

2)行政評価の推進

 リエンジニアリングにより、自治体内部における業務の見直しを行う一方、公共事業の政策評価を行うことも、財政改革を図るために不可欠である。この事業を本当に自治体で行うべきなのか、それとも民間で行うべきなのか、実際にニーズがあるのか等について客観的な視点からの行政評価を行うことで、無駄な財政支出を削減できるとともに、民間活力の活用も推進される。
 事実、我が国の地方財政支出においては、土木費の割合が異常に高く、実際には必要性の低い建物や道路を就業機会創出のために建設している場合も少なくない。建設業従事者は我が国の就業者の約1割を占めていることから、不必要な公共投資を削減すれば、失業率が上がることは目に見えているが、社会ニーズに即した就業構造転換を図らない限り、財政改革は実現されない。
 それ故、行政評価によりこれまでの土木偏重の公共投資を見直す一方、アウトソーシングにより地域における新たなビジネス機会を創出し、社会経済の変化に即した地域の構造転換を図ることが望まれる。   

3)地方自治体職員のマネジメント能力育成

 いくつかの地方自治体の企画部と仕事をした経験からではあるが、自治体職員のマネジメント能力はそれ程高くないと感じる。調整能力はあるものの、事業を絞り込んだり、縮小したりすることが苦手なようで、計画を作成する際にも総花的な計画を作成したがる傾向が強い。また、中央指導的なこれまでの行財政システムにより、地域として独自性の高い政策を考えることが苦手であり、各省庁や他の自治体の動向を伺いながら政策決定を行う傾向がある。このような現状において、地方財政改革やアウトソーシングの活用に関する柔軟な検討は困難であり、地方に税源と権限を委譲しても十分に機能しないのではないかと危惧される。
 したがって、今後、アウトソーシングを活用した地方財政改革を推進するためには自治体職員のマネジメント能力を育成することが不可欠である。具体的な方策としては、民間企業との人事交流の拡大や、自治大学校といった閉鎖的な教育機関ではなく民間の経営大学院等に人材を派遣することが想定される。また、成果主義的な人事評価制度の導入や、民間企業のマネージャーを職員として採用すること等も有効であると考える。

4)中央省庁等の機能の見直し

 一方、中央省庁では、「自治体に任せたらロクなことにならない」、「自分たちが自治体を先導しなければ」といった考え方が依然として強く、これにより自治体職員を指導しようとする傾向がある。このような中央省庁を頂点とした国→都道府県→市町村といったヒエラルキー構造が、自治体職員のマネジメント能力育成の障害になっている部分は大きく、このような意識、風潮を変えていくことも重要である。
 また、広域的なアウトソーシングの実現に関しては、市町村レベルにおいて発案されにくいことが危惧される。そこで、都道府県や国においては、広域的なアウトソーシングの調整役(コーディネーター)としての機能が求められる。ただし、あくまでも決定権は市町村にある。

5)住民の意識改革と住民参加

 地方では就業機会を始めあらゆることを自治体に頼る傾向が非常に強く、住民が行政に寄りかかっているような地域もある。これは元利償還費を地方交付税で補填する過疎債の発行等により、地域間における所得再分配を行った結果であるが、「甘えの構造」、いわゆるフリーライダーになっている部分もないとは言えない。
 このような行政依存地域においては、公共サービスのアウトソーシングは「行政の怠惰」であると捉えられる可能性が非常に高く、地域自立に向けた財政再建の必要性等について住民に十分な啓蒙活動を図ることが必要である。
 また、地域の財政再建に関して十分な理解を得た上で、自治体の独りよがりの政策にならないように、住民参加による行政運営体制の整備も望まれる。住民参加を推進するためには、行政情報の公開や、広聴体制の整備が大前提であり、生涯学習と連携した形で住民参加体制構築等が想定される。        

<参考文献>

日本能率協会『アウトソーシングがわかる本』日本能率協会マネジメントセンター
牧野昇『アウトソーシング』経済界
島田達巳『アウトソーシング戦略』日科技連
上山信一『「行政評価」の時代』NTT出版
ニュービジネス協議会『行政サービス・ビジネス』東洋経済新報社
神野直彦/金子勝『地方に税源を』東洋経済新報社
宮本憲一『地方自治の歴史と展望』自治体研究社
(社)ニュービジネス協議会『アウトソーシング産業育成に関する調査研究報告書』
『週刊ダイヤモンド5/30』ダイヤモンド社
『ESP97.9』経済企画協会
『日経ビジネス6-29』日経BP社

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