なぜ東京都においてここ数年転入傾向が続いているのか

 

1.事象の概要

  東京一極集中の弊害が顕在化してから東京都では転出が転入を上回る傾向が続いてきたが、昨今、再び転入が増加し始めている。

2.考えられる理由

 以下に理由とその可能性を示す。

1)東京の大学への入学者の増加

  1992年から97年の大学生数の増加率は東京都が7.6%であるのに対して近隣の埼玉県、千葉県、神奈川県はそれぞれ17.4%、21.9%、11.6%と10%を越えている。他の都道府県においても概ね東京都より高い増加率を記録しており、このことから転入増は学生によるものであるとは考えにくい。

2)仕事のための転入者増加

  事業所統計によると東京都は事業所数が減少しているものの従業者数は増加している。その面では従業者数の増加による仕事のための転入増加の可能性もあるが、転出が続いていた時期においても従業者は増加していたので、直接の原因であるとは考えられない。

3)地価下落

  東京都住宅白書によると分譲マンションの1戸当たりの平均価格は93年に急激に下落しており、95〜97年は4,500万円から5,000万円の間で推移している。この地価下落にともなう都内の住宅価格の低下により転入者が増加したことは十分に可能性として考えられる。

4)住宅供給戸数の増加

  東京都住宅白書によると東京都の分譲マンションの新規供給戸数は、94年から急激に増加し95〜97年には毎年3万戸以上の分譲マンションが供給されている。埼玉県、千葉県、神奈川県も増加しているものの東京都ほどではなく、この住宅供給戸数の増加も転入超の原因であると考えられる。実際、地区別の転入転出を見ても、大規模なマンション建設等が行われている練馬区、江東区等で転入が進んでいることが窺える。

5)ファミリー世帯人口の転出減少

  『東京都の人口移動の実態』によると、東京都においては25〜39歳のファミリー世帯の転出が96年時点で依然として転入を上回っているものの、着実に減少していることが窺える。つまり、このファミリー世帯人口の転出減少が東京都における転入超に影響していると考えられる。

6)都市としての魅力

  住み易さ等のランキングを見ると東京都やその中に属する市区町村は必ずしも良い評価を得ていないが、実際に都市としての魅力は低いのであろうか。週刊ダイヤモンドが読者1,513人に定年後に住みたい街をアンケートしたところ、市区町村では東京都23区、都道府県ではやはり東京都が1位になった。このようなことからも統計的な指標による住み易さとは裏腹に東京都の居住地としての魅力は高いと考えられ、この魅力により転入超になっている可能性はあると言える。

7)政策的な要因

  1962年の『全国総合開発計画』以降、国土計画の根本を担う部分として、いわゆる「全総」の検討、策定が行われてきており、四全総までは東京や都心への一極集中是正について言及した内容が盛り込まれ、それを基にした政策が検討されてきた。しかし、98年3月に閣議決定された五全総では「多軸型国土構造形成の基礎づくり」が基本目標とされ、一極集中に言及している部分も見られるものの、優先度は低く位置付けられていると考えられる。一方、景気刺激策の一環として住宅ローンに関する大減税が行われており、この中には譲渡損失を繰り越し控除できる買い換え支援策も盛り込まれていることから、より職場に近い都心に買い換えを行う人も出てきてるのではないかと考えられる。
  以上のような政策的な要因はないとは言えないが、政策が比較的新しいことを考えると、数年前からの転入傾向を説明するには弱いであろう。

8)マクロ的な要因

  マクロ的な要因としては、景気の低迷、GDP成長率の低下、公定歩合の下落、それにともなう貯蓄額の停滞、人口増加の停滞等があると考えられる。特に東京都への転入傾向が現れた時期は公定歩合が0.5に低下した時期と重複しており、また、他の要因とも負の相関がある(少なくともここ数年において)と考えられる。

3.まとめ

  東京都において転入超の傾向が見られるのは、転出者の減少が大きく、具体的にはファミリー世帯人口の住宅購入や家族増加にともなう転居等が減少したことによると考えられる。つまり、都内における地価下落により、都内から出なくても、住宅購入や比較的広い部屋に住むことが可能になったため、ファミリー世帯人口の流出が減少したのである。この背景には東京都の地域としての魅力や、できれば職場に近い都心に住みたいという志向があると考えられ、また、大きくはマクロ的な要因も背景にあるであろう。

Copyright(C) Tadashi Mima  ALL Rights Reserved.

 

 ホームへ     前のページへ