都市計画における住民参加のあり方について
生活が豊かになるに従い、人々の生活する地域環境への関心は高まってきており、従来、行政機関が担ってきた都市計画、まちづくり等における住民参加が進んでいる。また、近年における政治への無関心、行政の信頼低下等も、住民の直接参加意識高まりの要因であろう。つまり、住民参加には、高まりつつある住民意識を反映する側面だけでなく、信用が低下しつつある間接民主制を補完するという側面もある。
井上繁『市民主導の都市創造』によると、住民参加の発展は「反対」、「陳情」、「提案」、「協働」の4段階に分けられるとされているが、真の意味での住民参加とは、「提案」からではないかと考える。実際、住民からの「提案」や、住民と行政の「協働」により都市計画が行われれば、これが都市計画のあり方として理想に近いと考えるが、現実には、時間、労力、予算、利害関係等、様々な制約から、そのような域に達している事例はほとんどないのが実状である。「市町村の都市計画に関する基本的な方針」(以下、市町村マスタープラン)においても、住民参加の方法は、「アンケート」(76.6%)、「住民説明会」(37.8%)が中心であり、「策定委員会への住民参加」(4.9%)
や、「住民による原案策定」(1.7%)
はほとんど行われていない。
このように住民参加による都市計画が進んでいない原因には、上記の時間、予算、利害関係等の問題もあるが、「住民の意識がそこまで達していない」ことも大きな原因の一つと考える。市町村マスタープランに未着手の地方公共団体の約4分の1が、住民意識の未成熟を未着手の理由として挙げており、この傾向は市より町村の方が高い。私も地域情報化計画策定に何回か携わっているが、地方公共団体の規模や都心からの距離等により、住民の情報化への関心度が大きく異なる。住民の情報化への意識が低い状態で、地域情報化の議論へ参加してもらうことは困難であり、これは都市計画においても同様であろう。従って、都市計画における住民参加を推進するためには、住民意識を高めることが大前提であり、意識啓発のためのシンポジウム、セミナー等の開催や、パンフレットの作成等が考えられる。また、住民への都市計画に関する情報提供の充実や、まちづくりに携わるボランティア団体の支援等も行政機関において望まれる。
次に住民参加の方法について考えてみたい。
住民の意向を反映する方法に関して、現行の都市計画制度では、都市計画決定の際の公聴会、意見書提出等の仕組みしか存在しないが、これでは明らかに「協働」になっていない。都市計画決定以前から、マスタープラン策定等において住民の積極的な参加を促す仕組みづくりが必要である。先進的な地域に見られるように、マスタープラン策定組織への住民参加や、住民による原案策定等が有効であると考えられるが、この場合、参加住民の偏りに留意する必要がある。希望者による住民参加の仕組みにおいては、参加者が比較的時間に自由度のある高齢者や主婦に偏る傾向があり、これから地域を担うであろう学生や、老後をその地域で過ごすであろうサラリーマン等の意見を反映することが望まれる。職業、性別、年齢等のバランスを考慮して行政側から住民を選定、依頼する方法も考えられるが、これでは住民の主体性が尊重されず、また、取り組みの熱心さも希望住民による場合より劣ると予想される。したがって、現状に見られるように希望住民の参加としつつも、学校の授業との連携、インターネットの活用、休日・夜間における検討組織の開催等により、学生やサラリーマン等が参加できる仕組みづくりに努めることが望まれる。従来から行われているアンケート等も住民の総意を抽出する意味で有効であり、組織による検討を補完する形での活用が期待される。
また、前述した住民の意識啓発とともに、原案策定等を行うためには、住民における都市計画に関するある程度の知識を醸成することも不可欠である。ドイツでは「プラーヌンクス・ツェレ」(ドイツ語で「計画の細胞」)という住民参加の手法があるが、住民が訓練を受けながらあるプロジェクトに対して提言をする仕組みで「実践を通した民主主義の学習」と評されている。柏市では、「まちづくり」をテーマにしたインターネットによる生涯学習が行われており、大学の教授を講師として、都市計画等に関する住民の知識醸成が進められている。このように、都市計画に関する知識醸成には、生涯学習としての側面もあり、都市計画、土木・建築、生涯学習等、行政の縦割り組織を越えた新たな仕組みにより、都市計画に参加する住民の知識醸成に取り組む必要がある。
加えて、住民による都市計画検討において重要であると考えられるのは、高い調整機能を有するリーダーシップである。都市計画を住民参加で検討する場合、様々な視点の意見が出されることが想定され、時には利害関係による対立等もあり得る。このような意見の対立、分散を効率良く集約し、限られた期間において都市計画の提案としてとりまとめるためには、調整能力の高いリーダーが必要である。このリーダーに関しては、高いリーダーシップを有する住民が担うことが望ましいが、適切な人材がいない場合は、上記の知識醸成の講師と併せたかたちで、行政職員やコンサルタントが担当することも想定される。
また、都市計画策定後の開発実施においてもチェック機能としての住民参加が必要であり、住民の環境アセスメント能力育成や、チェックが働くような仕組みづくりが望まれる。
以上、都市計画における住民参加のあり方について考察したが、上述したような、住民の高い意識や知識、検討体制やリーダーシップは急に整備、育成することは困難である。したがって、市町村マスタープランの作成、見直し等を通じて段階的に整備、育成していくことが望まれ、継続的に取り組むことが非常に重要である。
最後に、住民側において都市計画の原案策定を行う場合、行政側においても都市計画を策定すべきかどうかという点であるが、行政職員の能力育成、住民の検討における参考等という点で、策定は必要であると考える。住民の意識や能力が低い内は行政による計画策定を主軸とし、住民の意識、能力が高まるに従い、行政機関から住民へと計画策定の役割を移管することが理想であろう。ただし、行政機関から住民へ完全に移管されるものではなく、行政機関として、ある程度の機能は残す必要がある。
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