DIVERGENCE 


 後、半年もすれば高校も卒業する頃、私は大学生の彼とつきあっていた。
 彼は頭はいいのだけれど、どこかクールで悪びれた所がある人で、初めて男の人とつきあう私は少し振り回されていた。
 そんなところがあるなんて、つきあい初めは判らなかった。
 彼は私にいろいろなことを教えてくれた。お酒も煙草も。時には車の運転なんて事までも。
 私の親は放任主義なので、何をやってても別にうるさく言われなかった。それをいい事に、無断外泊もするようになっていった。
 少しずつ彼のことを考える時間が増えてきていた。これが「好き」という気持ちなのかな、と思うようになっていた。
 そう感じるようになってから、だんだん自分が変わっていくのが、自分でも判った。
 彼との距離を縮めたかったから、興味のない事にも、手をだしてみた。自分の今まで知らなかった世界は、思ったよりいい景色だった。
 ようやく新しい世界が楽しく感じられるようになってきた時、変なうわさを聞いた。
 彼には大学で彼女がいる、と。
 それまでに感じたことのない感情が、胸の奥から出てきた。
 彼を独占したい。
 他の人になんて、絶対に・・・
 とは思っても、どうしたらいいか、なんて考えは浮かばず、やっとでた答えも「とにかく、少しでもいる時間を長くしよう」くらいだった。
 彼が楽しいと感じる時間をたくさん共有しよう。そうすれば、私が彼の「大切な人」になれるはず。
 それからの私は、自宅にいるより、彼のマンションにいる時間が長くなった。簡単に学校を休むようになった。
 友達の言う、「大切なモノ」なんて、私には、いらなかった。
 私の望みは−−−
 愛されたい。
 彼の心が欲しい。どうなっても。
 この秋は、楽しく、辛かった。


 やがて、冬が来た。
 父親が3ヶ月出張する事は、後から聞いた。着替えをとりに帰ったとき、兄貴の顔がまともに見れなくなっていた。
 ただ、大学にはいきたかったので、勉強だけはやっていた。彼の通う大学は結構難しいから。
 でも、法律なんて、何が楽しいんだろう?これだけは、理解できなかった。
 一緒の大学なら、学部は違うところにいってもいいかな、でも同じ学部なら、より一緒の話題が出来るし、どうしよう?
 彼にその話をすると、どっちでもいいような事を言われた。
 どっちでもいいの?と聞き返したかったけど、それ以上返事を聞くのが怖くて、やめてしまった。
 こんな感じで、なんか最近、会話がうまくいかない時があるよう気がしていた。なんでだろう?
 不安、を感じた。彼の気持ちが判らなかった。
 だから、「愛されたい」という気持ちが、大きくなっていた。


 そろそろクリスマスの気配が街にただよってきた頃の深夜、私は自転車で彼のマンションに向かっていた。
 友達の家で泊まりがけで勉強する予定だったけど、彼女が風邪を引いて急にキャンセルになってしまったので、
「ラッキー」と思いつつ(ごめんね)、自転車をこいでいた。
 道の途中のちょっとした段差で、転んだ。
 彼の部屋に早く着きたくて、必死にこいでいたからだね。すぐに立ち上がろうとしたけど、転んだショックでうまく立てず、
その場に座り込んでしまった。
 まあ、いいや。周りには人も車もいないし。少しこのままでいよう。
 そう決めたとき、ふと、張りつめていた気持ちがゆるんだ。
 「12月かぁ・・・」
 おもわず、口に出た。
 その時。
 肩の、力が抜けた。いや、肩だけでなく、全身の力が、静かに抜けていくのが判った。
 心地よい疲れを感じる。
 強い風が吹き始めた。
 コートを着ているのに、体の芯が凍るように感じた。
 寒い。
 ゆるんでいた気がゆっくりと締まっていくのがわかった。でも前のように、張りつめた感じではなくなっていた。
 妙に冷静になっていた。まさに頭の中は「冷」たく、「静」かだった。
 それまでの、彼と出会ってからの自分のことを、一気に思い出した。
 妙に懐かしいような、昔に読んだ本を読み返すような感覚だ。まるで、「自分」の事じゃないような・・・
 痛みも収まったので、立ち上がる。あれ?目線が高い。
 なんだかついさっきより、背が高くなったような気がした。急に周りがよく見えるようになった。
 この、不思議な感覚を覚えながら、彼の家に向かった。
 彼のマンションの入口前に、綺麗な女の人がいた。ちょうど目があったので、軽く会釈をした。
彼女も私に会釈を返した。なんか、雰囲気いい感じの人。
 エレベーターに一緒に乗って、同じ階で降りた。前を歩いていた彼女が立ち止まって、
私の持っているのと同じ鍵で、ドアを開けていた。
 今まで解けなかったパズルが、解けた。
 私はそのまま前を通り過ぎた。奥の階段を使ってそのまま1階まで降りて、振り返りもしないで、自転車置き場に向かった。
 普段は暗くて手間取る鍵開けも、この日は1回で出来た。
 後でちゃんと電話しなきゃ、なんて考えて自転車をこぎながら、私は笑っていた。
 久しぶりに、心から笑っていた。
 嬉しかった。
 自分に正直に行動していた自分が、いとおしかった。
 笑いすぎたのか、涙が出てきた。
 ふいてもふいても・・・
 みっともないくらい、涙が出てきた。
 それでも、私は笑っていたと思う・・・


 4月。
 私は大学生になった。
 知っている人のいないキャンパスは少し心細いけど、勉強したい事を勉強できる学校に受かったので、満足している。
 入学式には、お父さんとお母さんと、なんと兄貴まで来た。
 まったく、家族全員が来ている子なんて、他にいないよ。でも、ちょっと嬉しかった。
 「大丈夫?」なんて言われたけど、「大丈夫!」って答えた。
 新入生説明会も終わり、今日から授業だ。
 さて、何をしようか−
 

END

 


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