おばあちゃん
西原先生
おばあちゃんと母親の洋裁の先生。母親
妹1号、2号
しんいち
筆者。
親父の勤めている会社でトラブルがあって、車の運転を任されたのはいつだったか。親父とは逆に、オレの方は埋まっていた予定がキャンセルとなり都合がついたので快く引き受けることにした。何しろ親の金で行ったことのないところに行かれるのがいい。
いつも通り目黒区碑文谷におばあちゃんを迎えにいき、その足で中野区の西原先生の家へ。西原先生を拾って中央高速道に乗る。中央道から長野道へ、松本ICで下りて国道158道を下る。途中で折れて乗鞍スカイラインに向かうわけだが、その途中に番所大滝はある。
番所大滝は長さ40m、幅15m。「三本滝」「長五郎の滝」と並んで「乗鞍三滝」と呼ばれている。ちなみに「三本滝」は「日本の滝百選」のひとつに数えられている。が、それには含まれていないこの番所大滝もなかなか立派な滝だった。百選以外にもいい滝は存在することをあらためて確認させられる。
駐車場から下り階段が続く。階段も手すりもしっかりしており健常者には平易だが、足の弱いおばあちゃんには少しつらかったみたい。上ってくる人たちに道を譲ってもらい、後から来る人たちに道を譲る。親父に言われていたとおり、オレと妹2号が前後に張り付いた。長い階段を頑張って下りたにもかかわらず、観瀑台の直前で階段が壊れていて最後までたどり着くことはできなかった。母親がおばあちゃんと待っているというので、西原先生と子供3人で観瀑台からの眺めを楽しんだ。
「三本滝」には残念ながら今回は行かれなかった。時間の都合とおばあちゃんたちの体力を考えてのことだ。自分で来るときのために位置だけ確認して立ち去る。
ホテルには18時半頃到着した。今日お世話になるのは「高山グリーンホテル」というところ。このホテルで驚かされた3つのものを紹介しよう。
まずひとつ目。露天風呂がとにかくキレイ。屋外にあるのに木の葉の一枚も小枝の一本も浮いていなかった。露天風呂としては不自然だと言う人もいるかもしれないが、オレ的には気持ちよく入れてとても気に入った。露天風呂がこれだけキレイなんだから屋内の大浴場が汚いわけがない。とても広くて、とても清潔だった。
ふたつ目は「手長・足長」という妖怪(?)について。最初にお目にかかったのは土産物屋の近くにある像だった。「何あれ!?」と心の中で叫んだ。いや、叫んではいないものの口には出してしまったんだと思う。隣にいた妹2号が「ねぇ、あれ何だろねぇ?」と聞き返してきたもん。この妖怪についてはエレベーターの前に説明書きがあった…んだけど、詳しい内容を忘れてしまった。この2人の妖怪が夫婦だってのはおぼえてんだけど、なんでこんな手足になっちゃったんだっけ? 肝心なところを忘れてしまった。とりあえず古い方の男湯と女湯にもこの像がそれぞれあるらしいので行ってみた。女湯の方は妹1号に写真を撮ってきてもらった。
そして最後にして、今回の旅行でもっとも気に入ったのは「さるぼぼ」というお守りだった。この人形、もともとは雪が多いこの地方で、外で遊べないとだだをこねる子供のために家の中で遊ぶための玩具としておばあちゃんが作ってあげたものらしい。転じて、今では夫婦円満や交通安全(なぜ?)のお守りとしてこっちではどこにでも売られている。また、2,3年ほど前から青・緑・黄・ピンク・黒といった具合に色数も種類が増え、それぞれ勉強・健康・金運・恋愛などとご利益があるらしい。これがなぜかオレのツボをついた。行く先々のお土産やさんでこの人形を眺めている始末。翌日、高山の陣屋前朝市で赤・青・ピンクとお土産用に買ったけど、それでも飽き足らない。自分の交通安全用にも買えばよかったなぁ。
翌日、さるぼぼの紹介のところにもチラッと書いたけど、陣屋という、昔の基地みたいな建物の前で朝市をやっているというので行ってみた。ホテルから歩いてもそんなに距離があるわけじゃない。足の悪いおばあちゃんもそんなにつらそうではない。
朝市ではやはり食材がメインで売られている。野菜や果物、漬け物など。中には「さるぼぼ」のようなお土産物なんかも売られているわけだ。オレはあまり興味がなかったけど、おばあちゃんたちや母親は楽しんでいたようだ。オレといえば、陣屋の解説なんかを読んだりして時間をつぶし、帰り際にさるぼぼを買った。
朝食を食べてからホテルをチェックアウト。今日の予定はまず車で高山の「古い町並」を見物することになっている。車と言っても自動車ではない。「人力車」のことだ。
予約をしてあったのでホテルの前まで迎えに来てもらう。残念ながらオレは車(自動車の方ね)を「古い町並」近くの駐車場まで移動させなきゃいけなかったので、むこうで落ち合うことになった。
3台の人力車が連なって狭い道を練り歩く。これがまた上手く人をよけて進んでいくんだわ。後でオレらも自分の足で歩いて見るんだけど、不思議と「邪魔だなぁ」とか思わないんだよねぇ。そして、所々で止まって街中のいろいろな見所や食べ物の美味しいお店なんかを紹介してくれたり、人力車に乗っている姿を写真に撮ってくれたりする。せっかくだからいくつか教えてもらった見所を紹介しよう。
酒の出来具合を計るための松の葉の球。今まで蜂の巣だと思っていた…
町並の雰囲気を壊さないために黒く塗った郵便受け
からくり人形。人形が動くたびに台の上の料理(模型)が次々と変わる。
火よけのお守り。名前は忘れちゃった…
これまた町並の雰囲気を壊さないために電線を軒などに隠して見えなくした通り。
説明を聞いていると今度は自分の足で歩いてみたくなってくる。ひと通りのコースを巡り、車やさんと別れた後、今度は自分たちの足で歩いて買い物や見物を楽しんだ。
高山を出発し、今度は世界遺産に指定されている「白川郷」に向かった。国道158号を西に抜け、国道156道の途中にある御母衣湖の中程に岐阜県の天然記念物「荘川桜」があるので、トイレ休憩がてら寄ってみた。

そして一路白川郷に向かう。親父からこの旅行の話を聞いたとき、世界遺産と聞いて楽しみにしていたのだが、実際に目の当たりにしてガッカリしてしまった。すっかり観光地と化してしまい、「おみやげ」などでかでかと書かれた看板がほとんどすべての合掌造の建物に掲げられていた。同じ世界遺産のタージマハールとはえらい違い。あちらは環境を守るためにポイ捨て条例みたいのがあるんじゃなかったっけ? どうにか展示館らしきものと「和田家」という家(実際に人が住んでいるらしい)は昔の状態で保存してあった。もっともこれらも観光客がそれなりにいるんだけどね。村を見渡すことのできる展望台からの眺めはいいらしいのだが、こちらもおばあちゃんの体を心配して見送りにした。
白川郷を早々に切り上げ、一路今日宿泊するホテルに向かった。今日泊まるのは「ホテル穂高」。奥飛騨温泉郷のもっとも奥にあり、行けども行けどもまだ着かないという印象がある。それもそのはず。このホテル、なぜかロープウェイ直営のホテル(ホテル直営のロープウェイじゃないよ)であり、おそらく登山客を見込んで建てたのだろう。ホテルはあまりパッとしないが、ロープウェイの方は世にも珍しい2階建てのロープウェイというものだった。順番の関係で残念ながら行きも帰りも2階には乗れなかったけど。
山の上は…特に何もないねぇ。展望台に上がると多くの山を見渡すことができる。この展望台には足の不自由な人のためにロープウェイの発着場からエレベーターがあり、また、車椅子も借りることができる。おばあちゃんは必要ないと言ったけど、念のためといって借りていくと疲れたときに妹に押してもらっていた。
展望台のまわりをひと回りして、下りのロープウェイに乗る。ホテルの駐車場に停めてあった車に乗り込み、帰途についた。
この旅行に行くにあたって親父に言われていたことがある。「おまえの仕事はみんなを無事に連れて帰ってくることだ」仕事は無事完遂できたんじゃないかな。