TBS「真夏の恐怖劇場・フェチシズム」への抗議文
           「ロングヘアマガジン」主催  wind(wind@yo.rim.or.jp)

 私は、「ロングヘアマガジン」(http://www.yo.rim.or.jp/~wind/)という髪フェチのサイトを主催していますwind(wind@yo.rim.or.jp)と申します。
 貴局で、1999年7月12日夜9時より放映されました「真夏の恐怖劇場・フェチシズム」(脚本 江頭美智留 監督 星田良子)を拝見しました。
 これは残念ながら、髪フェチに対するたいへんな偏見に満ちたドラマです。私は、髪フェチの立場から、貴局に対して厳しく抗議をするものです。


 まず冒頭の、案内人(岸田今日子)によるフェチの紹介からして間違っています。
 フェチを、下着など人間の身につけるものへの執着、と矮小化し、そしてその対象が人間の体の一部(髪)に向かったら、と言外に、身体の一部へのフェチへの恐怖をあおっています。
 しかしそもそもフェチとは、身体の一部または無生物を愛情の対象とするものです。無生物としてポピュラーなものに、ハイヒール・ゴム・下着・毛皮などがあります。身体の一部としてポピュラーなものは、脚・胸があります。
 フェチは人間に限ったことではなく、人工飼育された猿で、ブーツフェチの例があるそうです。
 フェチは比較的男性に多い事例ですが、女性のフェチも珍しくありません。女性のフェチの場合、男性の胸や腕、あるいは胸毛に対して性愛を感じる例が少なくありません。イタリア女性はスキンヘッドの男性にセックスアピールを感じる割合が高いようですが、これなどはスキンヘッドフェチとでもいうべきでしょう。
 髪に関するフェチにも何種類かあります。まず、我々ロングヘアフェチ。日本のロングヘアフェチは、癖のないまっすぐな黒髪を至上の女性美と感じる人が多いようです。次に、長さや色に関わりなく美しい髪であればそれを好む一般的な髪フェチ。また、断髪フェチ(女性の髪を切るという行為に対するフェチ)や坊主頭フェチ(スキンヘッド女性愛好)もあります。今回の「真夏の恐怖劇場・フェチシズム」で片岡鶴太郎が演じたのは、毛髪コレクターでしょう。これまでマスコミは、断髪フェチを髪フェチとして紹介することば多かったようです。
 髪に関連したフェチにはこれだけの種類があるのに、髪フェチ=毛髪コレクター、とするのはきわめて一面的です。
 髪に関連したフェチの中で最大多数なのは、我々ロングヘアフェチのはずです。世界の髪フェチ=ロングヘアフェチの総本山とでもいうべきThe Long Hair Site(http://www.tlhs.org/)のヒット数を見れば、ロングヘア女性愛好者が世界的にどれほどいるか分かるでしょう。また、画像がほとんどない私の「ロングヘアマガジン」でさえも毎月6000ヒットを集めています。
 私たちロングヘアフェチは、自分たちは髪フェチである、と思っています。同時に、断髪フェチ・坊主頭フェチ・毛髪コレクターとは正反対のフェチであると考えています。それは、断髪フェチ・坊主頭フェチは、髪を切ることへのフェチであり、毛髪コレクターは切られた毛髪自体へのフェチであるのに対し、私たちは、女性が髪に鋏を入れることに胸のつぶれる思いをするフェチなのです。ですから私たち髪フェチ=ロングヘアフェチは、片岡鶴太郎演じる毛髪コレクターが女性の髪を切るシーンにはむしろ悲しい思いをするのです。私たち髪フェチ=ロングヘアフェチはカットされた髪をほしがりません。生身の女性の体の一部だからこそ髪は美しいのです。私たちは女性に髪を長く伸ばしてほしいだけです。
 The Long Hair Siteをはじめとする髪フェチ=ロングヘアフェチのサイトの画像を見れば分かりますが、毛髪だけの画像はありません。すべてがロングヘア女性の画像です。私たち髪フェチ=ロングヘアフェチは、ロングヘア女性を愛するグループであって、このドラマで描かれたのとは異なり、美容院などで短く切り刻まれた毛髪には全く関心がないのです。
 日本では、平安朝から江戸時代に至るまでおよそ900年、すなわち日本が統一国家として成立して約半分の時間は、超ロングヘアが女性美の象徴でした。私たち髪フェチ=ロングヘアフェチは、日本の伝統的な女性美の意識を受け継いでいる、ともいえます。
 現在でも、ヘアスタイルの流行にかかわりなく、男性の多くはロングヘア女性を好みます。髪フェチ=ロングヘアフェチの男性は、その中のやや先端的な部分なのです。髪フェチ=ロングヘアフェチは隠れた多数派であり、知られざるメジャーなフェチなのです。
 さらに、私たち髪フェチ=ロングヘアフェチに特徴的なことは、ロングヘア女性を理想の美女と感じる、という点で、ロングヘア女性やロングヘアを目指している女性と共通の言葉をもっていることです。そして男性だけでなく女性にも髪フェチがあります。ロングヘア関連のサイトを見てみると、少数ながら女性が参加されていることに気づくでしょう。
 髪フェチを自称するグループが複数あり、そしてロングヘアフェチと断髪フェチ等が正反対の性格をもっている以上、その極端な部分(毛髪コレクター)だけを髪フェチとして扱うのは公正さに欠けます。とくに、私たちは、ロングヘアフェチこそが髪フェチの最大多数派であり本流であると考えていますので、毛髪コレクターをもって髪フェチと称せられるのはきわめて不愉快です。


 このドラマの次の問題点は、フェチを恐怖の対象として描いていることです。このドラマは、冒頭の案内人の台詞にあるように、身体の一部を愛の対象とするフェチへの恐怖を描いています。しかし、その論理でいくなら、脚フェチや乳房フェチの男性は恐怖の対象なのでしょうか?胸フェチ・腕フェチの女性も恐怖の対象なのでしょうか?
 脚フェチの男性が女性の脚を切り取って収集するなど聞いたことがありません。腕フェチの女性が男性のたくましい腕を切り取って収集することもありません。これは、このドラマの制作者が、フェチ=コレクターとしている無知に起因するものです。
 フェチは一般に性愛と結びついており、女性の脚や乳房に対するフェチについては専門のアダルト雑誌さえあります。しかしこういったフェティッシュな性愛自体は、決して犯罪でも恐怖の対象でもありません。なのになぜ髪フェチだけが恐怖の対象として描かれなければならないのでしょうか?
 私たち髪フェチ=ロングヘアフェチがこれまで世間に知られていなかったのは、ロングヘア女性を好むことは男性の一般的傾向であること、そして髪フェチ=ロングヘアフェチは他のフェチとは異なり、必ずしも性愛とダイレクトに結びつかないからです。私たち髪フェチ=ロングヘアフェチは女性のロングヘアにまず究極の女性美を感じるのです。
 案内人は、
 「気をつけて下さい。後ろから忍び寄る影が、あなたの美しい髪を狙っています」
と言っています。このドラマの場合、主語は髪フェチです。するとこれは、
 「髪フェチが、あなたの美しい髪を狙っています」
という意味になります。たとえ髪フェチ=毛髪コレクターであったとしても、これはそういったフェチの人全体を犯罪者ときめつける重大な人権侵害です。


 このドラマはさらに、フェチ全体への偏見に満ちています。
 「髪の毛フェチ?気持ちわるーい」
という台詞。
 「あんた、フェチだろ!」
とフェチへの差別そのものの台詞。
 フェチ自体は性的な少数派ではあっても犯罪ではありません。そしてまた、少数派であるからといって差別されるいわれもありません。上の台詞の「髪の毛フェチ」や「フェチ」を、たとえば、「エイズ」や「部落」と置き換えてみれば、いかに差別的な台詞であるか分かるでしょう。
 日本民間放送連盟放送基準の第8章「表現上の配慮」の(56)には、
「 精神的・肉体的障害に触れる時は、同じ障害に悩む人々の感情に配慮しなければならない。」
とあります。最近はマスコミも、同性愛者に対して、以前のように興味本位や偏見ではなく、個性として扱うようになってきました。では、フェチはなぜ差別と偏見の対象として扱ってもいいのでしょうか?合理的な理由を説明してほしいものです。
 TBS放送基準には、
「TBSは、電波が国民のものであるという原則にもとづき、基本的人権と世論を尊び、公正な立場を守」る
とされています。しかし、「真夏の恐怖劇場・フェチシズム」は、フェチを不公正な立場で取り上げ、性的マイノリティの人々の基本的人権を侵害しています。公共の電波を占有して使用することが認められている放送局が、性的マイノリティへの差別と偏見をあおるドラマを放映することはきわめて問題が多いと思われます。
 「ロングヘアマガジン」の投稿メッセージを見ていただくと分かりますが、髪フェチ=ロングヘアフェチの私たちは、世間の美女・美少女の基準と自分の基準とが違っていることや、ロングヘア女性を見るだけで胸が高鳴ってしまうことに、長い間自分は異常ではないかと思い悩み、誰にも自分の性癖をうち明けられずに苦しんできました。私も、勇気を出して自分の性癖をうち明けたところ、非難されたり変態よわばりされた経験や、髪フェチ=ロングヘアフェチであるがために恋人との関係がうまくいかなくなった経験を持っています。茶髪・ショート・シャギー全盛の時代にあって、黒髪のストレートのロングヘアにしている髪フェチ女性は、「貞子」(「リング」の登場人物)などと幽霊よわばりされます。そのうえに、「真夏の恐怖劇場・フェチシズム」で私たちは、犯罪者として扱われました。こんなことが許されていいのでしょうか?
 髪フェチ=ロングヘアフェチの男性の多くは、ロングヘア女性への思い入れが強すぎるために、ロングヘア女性を前にするとうまく会話もできないシャイな人がほとんどです。そんな私たちが、女性を刺し殺し、私たちにとっての女性美の象徴である黒髪を無惨に切り落とす男と、同じ「髪フェチ」という言葉でくくられたくありません。
 私たちは、髪フェチ=ロングヘアフェチであることを一つの個性であるとちとらえたいと思っています。しかし、私のように、ストレートのロングヘアの女性しか愛せない、という男は一種の精神的な障害を持っていると考えることもできます。「 精神的・肉体的障害に触れる時は、同じ障害に悩む人々の感情に配慮しなければならない。」という基準は、私たち髪フェチ=ロングヘアフェチにはあてはめてもらえないのでしょうか?髪フェチ=ロングヘアフェチの苦しみを、ドラマの制作者は踏みにじっています。


 私は、「真夏の恐怖劇場・フェチシズム」は、
1 フェチの解説部分に誤りが多い
2 髪フェチを毛髪コレクターとして矮小化し一面的にとらえている
3 フェチを恐怖の対象として描いている
4 フェチの人間への差別と偏見に満ちている
という点で、きわめて問題の多いドラマであると考えます。また、マスコミの影響力の強さによって、断髪フェチや毛髪コレクターをもって髪フェチとされていくことに私たちは強い危惧を感じます。
 このドラマの制作者は、フェチというもの全体について、さらに髪フェチについて、果たしてどれほど調べ、どれほどの知識を持ってこの作品を作ったのでしょうか?いいかげんな知識と偏見と差別意識で、安易なスリラーを作ったつもりになっているとしか感じられません。
 プロデューサー・監督・脚本の人々は、障害者を薄気味悪いものとして描く前世紀のスリラー作家と同程度の、人権意識のきわめて低い人たちであるとしか考えられません。
 私は、髪フェチサークルである「ロングヘアマガジン」の主催者として、貴局に厳しく抗議し、私たち髪フェチ=ロングヘアフェチへの謝罪とTV画面での訂正を要求します。「一部に不適切な表現がありました」という形だけの謝罪ではなく、髪フェチに関して誤解していた旨を明確にして謝罪して下さい。
 なお、この抗議文は、参考のため、他の主要TV局・新聞社・出版社にも送付しています。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−なお、TBS以外のマスコミ各社には、次の文を冒頭に添付して送りました。

はじめまして。私はインターネットで「ロングヘアマガジン」というサイトを主催しておりますwindといいます。先日TBS系で放映されました「真夏の恐怖劇場・フェチシズム」は、フェチ、とりわけ髪フェチへの著しい偏見に満ちた作品でした。私はHP主催者として、この作品への抗議文をTBSに送付いたしました。フェチ、とりわけ髪フェチへのご理解をいただくため、貴社にも同文をお送りします。
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