「健康増進法」の施行とともに、タバコを吸える飲食店が少なくなってきました。愛煙家の私は自宅最寄り駅近くのマクドナルドで休日のひと時を過ごすことが多かったのですが、そこもいつしか全面禁煙になり、新しい店を探していました。
ある日、やはり駅に隣接した大手コーヒーチェーン店‘D’に入りました。こじんまりとしながらも落ち着いた雰囲気で、私のお気にいりの場所になりました。しばらく通ううちにあることに気がつきました。
「あれ、ここ髪の長い店員さんが多いんじゃないか?」
後ろで結んではいるものの、3〜4割のスタッフが鎖骨より長く髪を伸ばしているのです。
ある週末いつものように店に行くと、カウンターの中にひときわ髪の長い女性がいました。茶髪にしているもののとてもきれいなストレートヘアで、あと数センチで腰まで届きそうです。 彼女はほぼ毎週土・日に店にいますが、接客に忙しくなかなか声をかけることができません。そこで彼女がレジを担当しているときに帰りがけにケーキをテイクアウトで買うことを考えました。
「すいません…これテイクアウトでお願いします」
「はい、150円になります」
「200円でお願いします」
「50円のお返しです。袋にお入れしますか?」
「お願いします」
「お品物でございます。ありがとうございました」
「おねえさん…髪の毛長くてきれいですね」
「(少し驚いたように)ありがとうございます」
「私…ロングヘアの女性が好きなんで…ここのスタッフさん、髪の長い方が多いですね…
ちょくちょく来てますから、顔を覚えていただければ嬉しいです」
店を出てから達成感(?)と罪悪感が激しく交錯しました。歳もいかなり離れているので、恋愛感情などないのですが。
幸いにも私は「出入り禁止」にもならず、彼女もカウンターに立ち続けています。
「このあいだはヘンなことを言ってごめんなさいね」
と言ったら、
「あ、いえ大丈夫です」
と笑っていました。
「髪の毛もっと伸ばしたら?」
と喉まで出かかった言葉は、私の心の中にしまっておきます。
今週も彼女に会えればいいなあ(笑)。