アメリカにおけるディベート教育(高校編)

ディベート名門校 

ニューヨークには、ディベート名門校が、3校あります。ここに入るには、高い倍率をくぐらなければなりません。また、大学入学選考時に、これらの高校のディベートチームに所属していたことは、かなり高い評価が得られるとも言われています。その名門校の一つ、スタイバソンハイスクールのDebating Coach(ディベートコーチ)にお会いし、高校生を指導する時のポイントやジャッジのポイントなどを3時間以上にわたり伺いました。

 

ディベートコーチ(Debating Coach)

ディベートコーチこと、Gray Alperson(グゥレイ・アルパーソン)は、すでにコーチ歴11年で、週2回、スタイバソンハイスクールで指導し、本業は、ニューヨーク大学法学部の教授です。グゥレイ先生自身、高校時代に尊敬する女性ディベートコーチに出会いいつか自分もそうなりたいと思っていたそうです。スタイバソンハイスクールには、数人のディベートコーチがいて、ディベートコーチのセクションもあります。

 

高校ディベートの種類

(1)尋問型ディベートこのディベートの特徴は、立論の後に4回、反対尋問がきて、作戦タイムが各チーム好きな時にとれます。(2)リンカーン、ダグラス型ディベート1800年代の半ばにAbraham LincoinとStephen Dauglasがディベートを行ないそれに因んでこの名がつけられ、25年程前に手を加えて今の型になっています。

 
<尋問型ディベート> <リンカーン・ダグラス型ディベート>

肯定第一立論 8分   肯定立論    6分

否定反対尋問 3分   否定反対尋問  3分

否定第一立論 8分   (作戦タイム)

肯定反対尋問 3分   否定立論    7分        

肯定第二立論 8分   (作戦タイム)       

否定反対尋問 3分   肯定反対尋問  3分

否定第二立論 8分   肯定反駁    4分

肯定反対尋問 3分   (作戦タイム)

否定第一反駁 5分   否定反駁    6分

肯定第一反駁 5分   肯定反駁    3分 

否定第二反駁 5分

肯定第二反駁 5分

 

論題の種類

政策論題(Policy Debate)と価値論題(Value Debate )があります。たとえば、政策論題では、”U.S Should Substantially Change for Foreign Policy TowardChina"( 米国は中国外交政策を根本的に変えるべし)をちょうど扱っていました。日本では、ホットな話題を避ける傾向にありますが、ここでは、新聞、雑誌などからとてもたくさん資料を集めます。政策論題は基本的には一年間、同じものです。

一方、価値論題は、三か月ごとに論題を変えます。扱うのが難しいので、初心者には、向きません。たとえば、論題に”Oppresive Government is better than No Government"(抑圧的政府は無政府よりましである)を使います。

  

高校生にディベートを教える方法

わかりやすく説明をするために身近な例を取り上げます。まず始めに主要争点(Stock Issues)を教える時、とっかかりにくいディベート用語をこんな例を用いて説明します。

 (1)論題は「リンゴをお店に買いに行くべし」という身近なものにします。

 (2)じゃあ「なぜ買いに行くのですか?」と考えさせます。

それは、「今、お腹が空いているから」「今、ここにリンゴがないから」つまりこれがInherency(内因性)にあたるわけです。

 (3)次に「なぜリンゴを食べるといいの?」

それは、「とても健康にいいでしょ」「ビタミンも豊富でしょ」これが、Significance(重要性)にあたります。

 (4)最後に「リンゴを食べるとどんないいことがあるの?」

それは、「お腹がふくれる」「元気になれる」「エンジョイできる」つまり、これが、Solvency (問題解決性)にあたります。

だから、リンゴを買いに行くとこんなにいいことがあると、説明をします。このようにしてわかりやすい例をあげて、「ディベートっておもしろい」と引きつけていきます。

 

ディベートトーナメントで大切なこと

このディベートで大切なこと2点は、議論をうまく闘わせることとスポーツマンシップにのっとり試合をすることです。また、対抗試合のときは、観客に対して敬意を表するために必ず正装します。

 

高校生のディベート試合の判定とコメントの仕方

(1)判定のポイント

どちらにより説得させられたか

どちらがよりCritical Thinkingであったか

(2)コメントのポイント注意する点が2点あります。

あまり出来のよくないディベート試合(たとえば、議論がかみ合わなかったり、思うようにうまく言えなかった試合)の時、まず、褒めます。でも、あまりみえ過ぎた褒め方をしないこと。その後に、良くなかった点を具体的にあげて、こうすれば良くなることをアドバイスします。最後にこれからこのようにすればもっと良くなるということを言って励まします。

よい出来のディベート試合の時(ディベーターも浮かれている時)、まず、良くなかった点を指摘します。なぜ悪いのかを説明します。そして、最後に正直に褒めてあげます。

このように指導していくと、高校生は本当に純粋で一年もすれば、プレゼンテーションやディベートスキルなどが、目にみえて上達するそうです。

 

NO.1 ディベーター

ディベートトーナメントは、チーム対抗戦ですが、その中で、男女一名ずつNO.1ディベーターを一年に一度選びます。さすがに「人種のるつぼ」といわれるニューヨークで選ばれる生徒の人種は様々です。たとえば、この2〜3年間の顔ぶれは、インド人、アフリカン・アメリカ人、黒人、韓国人、中国人、白人です。実際にアメリカ全体でみますと、ディベートに強いのは、白人だと思われているようですが、ここニューヨークでは、違うようです。つまり、ディベート教育を適切な形で学べば、人種の違いは関係ないということです。ですから一般的に論争べたといわれる日本人でもNO.1ディベーターになることは決して夢ではないのです。

最後に子供達を育てることにとても熱心なグゥレイ先生は、教え子達が、立派に社会で活躍している姿をみると誇りに思うと言った言葉が印象的でした。

 

 

ニューヨークこぼれ話ーその1ー

1996年は米国大統領選。さて、クリントン大統領は再選となるか注目するところです。しかもクリントン大統領がテレビディベートをするので、これまた見物ですね。ところである米国のディベートコーチが評するにクリントンのそばにいるあのゴア副大統領はディベートがとても上手だということです。その理由は、知性的で説得力に優れていてその上、妥協点を見いだすのがうまいそうです。機会があればぜひみたいものですね。