☆6月25日・両国国技館

▽WBC世界バンタム級タイトルマッチ12回戦

○王者 ウィラポン・ナコンルワンプロモーションVS●挑戦者 西岡 利晃

判定3−0

by mario kumekawa

 

あまりにも予想通りの試合内容だったので、リアルタイムで見ているのにビデオテープを見ているような気がしてきた。残念ながら西岡は、世界戦の大舞台で何一つ壁を破ることができなかった。

西岡はそれなりに鍛えぬいた技を披露したつもりのようだ。「どつき合いをするためなら、あんな(きつい)練習はしない」というコメントにも、その気持ちが現れている。たしかに、挑戦者の体は良くしまっていたし、しなやかな動きを12ラウンド続けることができた。十分な鍛錬と、気力の充実のたまものだろう。

しかし、実際には西岡はこの敗戦、いやこの負け方で大きなものを失ったのではないか。スポーツ各紙の、この試合の取り扱い方がそれを示していた。どの新聞も、じつに小さな記事で「消極策が裏目……」といった内容の、短い文章が掲載されていた。ようするに、西岡の今回のファイトには全く魅力がなかったのである。西岡は「伝説のチャンピオン」を目指している、と言い放った。その言葉に、僕たちも期待した。「伝説の男」は、世界初挑戦で敗れることがあってもいい。しかし、最後の一瞬まで「勝ちに行く」ことをしないボクサーが、「伝説」となるようなファンの熱狂的支持を得ることはないだろう。

西岡は、「負け方」を選択していたように思える。攻撃には本当に相手を打倒しようという意図が感じられず、ひたすら致命打を避けるだけの戦術だった。「自分は高度なボクシングを習得し、理解もしているからこそ、無謀には攻められなかった」、試合後もきれいな西岡の顔はそう言いたげだった。だが、そういう発想を支持してくれるファンはごく少数だろう。僕は少なくとも、世界戦という、全てを燃焼させる価値がある大勝負の場では、「このままでは勝てない」と悟ったなら、玉砕も覚悟で「どつき合い」をしてほしい。それができないボクサーには、大きな魅力は感じない。

たぶん、クレバーな西岡は勝算が薄いことを心の奥底では感じていたのではないだろうか。それゆえ、あくまで勝利を狙うより、極力みじめでない負け方をえらんでしまったのではないだろうか。だとしたら、そんな自信のない戦い方は西岡には似合わない。次回のチャンスまでに、もっと「勝負」のできる戦力をたくわえ、今度は世界チャンピオンと真っ向からの戦いを挑んで欲しい。


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