☆4月23日・名古屋レインボーホール

▽WBA・S・フライ級タイトルマッチ12回戦

○チャンピオン 戸高 秀樹 VS ● 挑戦者 ヨックタイ・シットオー

TKO11回38秒

[Mario's scorecard ]

戸高秀樹

10

10

10

10

10

10

96

ヨックタイ

10

10

10

10

91

by mario kumekawa

戸高にはロハスとの初戦以来、驚かされつづけているが、今回こそはつくづく恐れ入った。

状況次第では、強豪ヨックタイに勝つことは十分可能だと思っていたが、このように正面からねじ伏せるとは……。今日のファイトは、まさに世界最強を証明する戦いぶりだった。

僕は展望記事で、「正面から戦うのは危険すぎる」、「マックも本音は出入りのボクシングだろう」と書いた。だが、「さがった方がトラブルに陥る」というマックの言葉は本気だった。戸高は真っ向から豪腕ヨックタイと打ち合い、打ち砕いてしまったのである。

ヨックタイは、テレビ解説の飯田覚士が「オーラがない」と言っていた通り、2年前の凄みはなかったが、そのパワーは十分に世界王座を奪回しうるものが残っていた。2回、そして3回、ヨックタイの左右アッパーから左フックが戸高の顔面をとらえると、一瞬王者の表情から生気が消え、ふらっと後退する。「危ない」と、誰もが思ったはずだ。やはり、正面きっての打ち合いは危険すぎる、と。

両足を踏ん張っているときのヨックタイの両拳は本当に危険だ。しかし、戸高はヨックタイのバランスを崩そうとはしなかった。ひたすら正面から迎え撃ち、我慢比べのような打ち合いを挑む。しかし、やはりヨックタイのパワーは凄く、戸高は2回から5回までは劣勢に立たざるをえなかった。

だが、まったく姿勢を崩すことのなかった戸高は、5回からは打ち勝ちはじめた。底力で挽回したのだ。根底から押し返されたヨックタイには、一気に披露の色が濃くなっていった。

8回、ダウンを奪った右カウンターは、ロハスをマットに這わせたパンチと同じものだった。あの、外側を飛んでくる若干変則的な右クロスの威力も、今回あらためて証明された。たしかに、「戸高の右は強い」とロハスはうめいていた。それを認めなかったのは僕たちだった。たしかに、なんとなく不恰好だが、あの右は、速く、強い。

戸高は、パワーファイターとして世界に君臨しうる、日本では稀有なボクサーであることを見せつけた。ロハス、ヨックタイを倒した今、もはや疑問の余地はない。その上、8回にダウンを奪ってからの攻撃も、実に見事なものだった。遮二無二攻め込みながらもリズムを失わないラッシュは、ここ数年の日本人ボクサーにはなかった。世界戦でラッシュができるボクサーは、誰以来だろうか?

たしかに、ヨックタイは力が落ちていたかもしれない。しかし、この日のヨックタイであっても、鬼塚勝也や川島郭志はKOできただろうか? 僕は難しいと思う。これだけのパワーを持つファイターに、致命打を打ちこみに行くような過激なファイトは、彼らはしなかった。

ロハス、名護、ヨックタイと、3人の強豪を打ち破ったことで、戸高は世界王者としてのステータスを確立した。顔の吹き出物や試合直前の発熱などが、心身の限界を超えつつある徴候ではないかと心配されるが、少なくとも戦いぶりを見る限り、戸高には日本リング史に残るパワーファイターとして巨歩を刻んでゆく可能性が十分にある。

マーク・ジョンソンがリング外のトラブルで去りつつある今、S・フライでの世界最強を主張できる可能性も出てきた。そんな戸高に、一見したほど惨敗ではなかった(と僕は思う)名護明彦が、弱点を克服して近い将来再挑戦する試合を見てみたい。


目次へ