●戸高 秀樹 対 名護 明彦

 (WBA世界S・フライ級タイトルマッチ:11月7日・両国国技館)

戸高 秀樹

26歳

15勝7KO2敗1分

名護 明彦

22歳

15勝11KO無敗

 

日本にたった一本しかない世界のベルトを日本人同士で争うという、ちょっぴりもったいないカードだが、両選手の対照的なキャラクターもあってじつに興味深い顔合わせだ。

アマ歴のない、叩き上げのプロである戸高は、新人時代にすでに2敗を喫し、けっして大きな期待を集めたボクサーではなかったが、「かませ犬」的なマッチメークをことごとく生き残って、とうとう頂点にまでのし上がった。そもそも宮崎のジムからプロデビューし、アルバイト代を貯めてはロスアンゼルスに飛んで修行を積むという気概あるキャリアを重ねた果てに名古屋・緑ジムに移籍してチャンスをつかんだ。

名護は高校2冠王からプロ入り、白井具志堅スポーツジム第一号選手としてつねに注目を浴びながら無敗ロードを走ってきた。松倉義明、山口圭司と国内最大級の強敵を連破、名実ともにナンバーワンホープとして満を持しての世界挑戦だ。

予想は非常にむずかしい。何度となく大方の予想を上回る力を示してきた戸高 といい、未知の部分を残しながらさしたるピンチを経験せずにここまで来てしまった名護といい、その力量の輪郭は非常に不鮮明なのだ。

J・フライ級の日本王者だった戸高は、KO勝利は全勝利数の半分に満たない。しかし、王座を奪った今年7月の試合では、ふところの深いベテラン、ヘスス・ロハスに見事なワンツーを決めてダウンを奪った。半年前の初挑戦では負傷ドローに終わっているが、この短い期間だけでも飛躍的な進歩をとげたことは間違いない。日本人トップボクサーがことごとく軍門にくだったロハスを攻め落とした一戦で、旺盛な手数、打撃戦を耐えぬいたタフネス、なによりも燃えるようなディタミネーションが証明された。

名護は、過去の15戦でピンチに陥ったことは一度もない。ディフェンスを最重視するスタイルは、時にファンを退屈させることもあるほどだが、とにかく名護は打たれたことがない。それでいて、全勝の15戦のうち、11度がKO勝ちというところに、名護の並々ならぬ攻撃勘も示されている。距離をとり、けしてディフェンシブな姿勢を崩さないのに、ある時突然右フックを決めて倒してしまう、ありあまる才能をもってしなければ不可能なボクシングをやっているのだ。

とはいえ、名護にも「苦戦」はあった。日本王座の初防衛戦だった村越裕昭戦ではタフな変則ファイターを相手に最後まで攻撃の糸口を見出せなかった。また、山口圭司のジャブに対して無策なラウンドを重ね、手数を出せないまま僅差の判定勝ちに終わった。慎重さからくる手数の少なさが、名護の最大の欠点と言えるだろう。

両者のスタイルからいって、試合は攻めこむ戸高、距離を取る名護という形で始まるだろう。しかし、慎重で勘も良い名護がはじめから戸高の攻撃を許すとは思えない。横に動いたり、両腕をデラホーヤばりにのばすディフェンスで接近戦を許さず、それでも戸高がくっつこうとすると、ぴょーんと後方に飛び去ってしまうだろう。

おそらく、試合は「何か」が起きなければ基本的にそのパターンで進むと思われる。問題は、こういう展開の中で、ポイントがどちらに流れるかだ。名護は対山口戦でも、山口がジャブを出し続けるのに対し、タイミングを見ての散発の右フック、左ストレートというパターンで、どちらにポイントが行ってもおかしくないラウンドが続いた。今回の試合でも、微妙なラウンドが続く可能性が高い。そうなると、世界戦をすでに2度経験しているディフェンディング・チャンピオンの方が勝利にクリンチできる可能性はやや高いのではないか。

名護にしてみれば、戸高が、かつて苦戦した村越(ただし、あの時の名護は体調不良だった)にある面似たタイプだけに、いささか不安材料がある。

「何か」が起きるとすれば、名護の左右いずれかのアッパーだ。頭から突っ込んでくることが多い戸高に対し、決定的なパンチがヒットするとすれば、右フックではなくアッパーだろう。「当たる」と直感したときにパンチを強振する名護だけに、戸高もそのタイミングを読むことは難しいだろう。予期せぬアッパーが−がカウンターでヒットしたら、戸高もマットに這うかもしれない。

僕の予想としては、両者が今まで見せている力量をそのまま出すなら、凡戦になれば僅差判定で戸高、どこかで2,3度ビッグパンチのヒットがあれば、それを転機に名護が一気に勝機を呼びこむことになるだろう。そして、後者の展開が実現する確率のほうがやや高いと見る。

僕が現時点で一番想像しやすいのは、中盤6ラウンドあたりに名護の右アッパーがリング中央で戸高をとらえるというシーンだが……。

 


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