●ヒルベルト・セラノ 対 畑山 隆則

 (WBA世界ライト級タイトルマッチ:6月11日・有明コロシアム)

ヒルベルト・セラーノ

30歳

19勝17KO4敗2分

畑山 隆則

24歳

22勝17KO1敗2分

 

(以下の展望記事は、むろん試合前に書いたものですが、落雷被害のため、アップできずにいたものです。ウィラポン−西岡戦とは逆に、あまりに予想が外れていて面白いので、あえて今アップいたします……。)

畑山に勝って欲しい気持ちはあるが、僕の予想は悲観的にならざるをえない。

もちろん、畑山は強豪崔龍洙に勝って世界王者になった実力者で、スピード、動きの多彩さ、ガッツ、パワー、あらゆる面に優れた好ボクサーだ。しかし、今回はちょっと状況が厳しい。

まず、多くの識者が指摘する、ブランクの影響だ。ラクバ・シンに痛烈なKOで敗退したのが昨年6月。その後一度は完全引退を表明していた。単に再起というだけでも簡単なことではない。それが、いきなり世界戦、しかも一階級あげての挑戦だ。過去僕たちは、実績あるボクサーが、頂点復帰を焦って失敗した例をいくつも見てきた。今回も、少なくとも形の上では、そういうネガティブな例になる公算は高い。

畑山は、王者がセラノでなかったなら、こんなに早くは世界挑戦しようとはしなかっただろう。セラノは畑山が1勝1分の崔龍洙にKO負けを喫したことがある上、前回の防衛戦では坂本博之に初回KO負け寸前にまで追いつめられた。たしかに「おいしいチャンピオン」であるように見える。

しかし、崔や坂本に負けたり苦戦したからといって、畑山にとってもおいしいとは限らない。僕は、セラノは畑山にとっては難しい相手だと見る。

まず、セラノは決定力のあるハードパンチャーで、しかもシャープなストレートが主武器だ。……思い出してほしい。過去、畑山がマットに落ちた場面を。シン戦、そしてドローに終わったサウル・デュラン戦で、いずれも畑山はストレートを食って倒れているのだ。畑山は、真正面から来るストレートに対する勘が弱い。おそらく、距離感に問題があるのだろう。だから、あれほどの多彩な攻撃力を持ちながら、世界戦ではすべて頭をつけてフック、アッパーを叩き合うパターンに活路を見出しているのだろう。

しかし、今回はそういう接近戦はできないだろう。肉迫しての接近戦なら、坂本博之の最も得意とするところだ。その坂本が、2度の痛烈なダウンまで奪いながら、逆転TKOされた。たしかにあの試合は、坂本の顔が異常に腫れ上がるという「不運」もあった。しかし、坂本の嵐の攻撃にさらされてなお、決定打を許さず、アッパーやストレートでしこたま挑戦者の顔面を叩き続けたセラノの力量も見逃せない。

しかも、畑山はけして相手に打たせないボクサーではない。坂本と同様か、ひょっとするとそれ以上に「どつき合い」のど根性ファイターである(少なくとも世界戦では)。しかし、セラノのパンチは、デュランやシンをしのぐパワーがあり、スピードもリーチも上だ。打ち合いの危険度はこれまで畑山が戦ったどの相手よりも高い。

さらに、崔戦や有沢戦で見られたように、畑山はボディを打たれてそれほど強くない。特に、崔との試合では右ストレートをわき腹に打ち下ろされてかなり苦しんだ。セラノのボディブローは、ラテン式の「カマキリ・パンチ」だが、多角度から正確に、強いボディブローを打ってくる。坂本もこのパンチでずいぶん前進力を削がれた。ボディに関しては、畑山に坂本ほどのタフネスは望めない。セラノのボディーブローも、今回の試合では驚異的な武器となってこよう。

セラノが崔に終盤大逆転KOで敗れたことから、「セラノはスタミナがない。後半に勝機あり」と見る向きもあるが、これも、どうもそんなには当てにできそうにない。セラノは王座を奪取したシェリフィ戦では、終盤10回に猛攻をしかけてストップに追い込んでいる。

崔戦ではおそらく、S・フェザーに落としたことで、セラノのスタミナは大きく削がれていただろう。またそうでなくとも、崔龍洙(とりわけ全盛の)の後半の強さは比類の無いものだった。坂本戦で大逆転したように、(今の)セラノには勝負根性もあるのだ。「後半」のセラノを過小評価することは、無意味かつ危険な仮定だろう。

ただ、たしかにセラノは難攻不落の王者ではないだろう。アゴが打たれて強くないことも事実だ。畑山にとって「チャンス」であることはたしかだろう。しかし、上に述べたように、条件、相性の点で、けして畑山に楽観的な予測が立つカードではない。挑戦者が勝つには、序盤に思い切った勝負をかけて倒し切る、「浜田剛史方式」が最も考えられるパターンなのではないだろうか。

 


コーナー目次へ