●サマン・ソーチャトロン 対 八尋史朗

 (WBC世界J・フライ級タイトルマッチ12回戦:3月8日)

サマン・ソーチャトロン

29歳

37勝30KO2敗1分

八尋史朗

29歳

23勝13KO3敗2分

 

 

 

 

 豪打王サマンに再度挑む八尋。前回の挑戦が敵地タイで行われたにもかかわらず

、意外な善戦だったことから、日本での再戦に期待が集まっている。

 細野雄一に敗れ、リック・マグラモと引き分けに終わった八尋が、世界を取れる

と思った人は96年8月(前回のサマン戦)の段階ではほとんどいなかったはずだ。

しかし八尋のボクシングは、飯田覚士やレパード玉熊のように、少しづつ巧妙に、

堅牢になってゆき、(傍目には)いつの間にか「世界」のレベルに達している、と

いうことがありうるのかもしれない。

 新人時代大いに期待された八尋が、世界レベルに突入する段階で伸び悩んだのは

、おそらく意外にスピードがなかったからだろう。きわめて正統派のボクサーだけ

に、細野戦のように動き負けると、相手に好き勝手やらせる羽目になった。

 

 その点、サマンとの相性は悪くないのかもしれない。サマンの爆発的左右フック

は思い切って振ってくるためスピードもあるように見えるが、じつは速さ自体は驚

くほどではない。リカルド・ロペスはサマンを手玉にとって2回で片付けてしまっ

たし、ウンベルト・ゴンサレスも逆転の一発を浴びるまではペースを掌握していた

。八尋も防御に意識を集中した前回の対戦では、かなりのパンチをブロックするこ

とに成功している。

 サマンはトリッキーさもそれほどない。たしかに強打はガードの上からでも受け

続けると消耗が大きいようだが、八尋の仕上がりが良ければ、今回もある程度持ち

こたえることができるだろう。前半をしのげば、サマンの攻撃力は多少落ちてくる

。八尋の後半での反撃がどれくらい可能かが、勝負の分かれ目だ。アゴは強くない

サマンだけに、粘って執念の一打を打ち込みたいところ。

 

 最近2試合の八尋は、たくましさと落ち着き、懐の深さなど、「成熟」を感じさ

せる試合を見せている。最近、日本−タイの間で世界タイトルが争われる試合が続

いているが、タイの王者がコンディションを崩すケースも多い。それほどプラス・

アルファが期待できる八尋ではないが、遅咲きの大輪が咲く可能性はある。