☆6月14日・後楽園ホール

▽日本S・フライ級王座決定戦12回戦

○ 2位 柳光 和博 VS ● 1位 松倉 義明

KO4回55秒

by mario kumekawa

 

短時間のうちに攻守何度もところを変える、濃厚な4ラウンドの末に、過去1KO(9勝1敗2分)の柳光が20勝17KO3敗の松倉をストップに追いこんだ。

戦前の予想としては、柳光の足を使ったスピーディなボクシング対松倉のパワーファイトといった観点が大方だったろう。僕自身、そう思っていた。

ところが、試合は初回から正面切っての打ち合いになった。立ち上がり、柳光の動きは固く、持ち前のフットワークやボディワークを使えない。一見柳光のジャブが試合をコントロールしているようにも見えるが、距離は松倉のものだ。

松倉のパンチはこの日も迫力十分で、ガードの上からでも柳光の動きを止め、ボディーストレートで足の動きを奪った。どんどん両者の距離がつまる。松倉の殺気立った左右がガードの上を叩くだけでも柳光がたちまち弱るのがわかる。いきなり松倉ペースだ。

ところが、柳光の右フックがどんぴしゃのタイミングで松倉のアゴを叩いた。あっけなく倒れる松倉。場内は騒然とし「形成逆転」に沸くが、実のところ状況は「逆転」していない。過去何人のボクサーが、松倉から先制のダウンを奪ったばっかりに凶暴な罠にかかったことだろう。依然として距離とタイミングは松倉のものだ。ダウンしてますます松倉ペースになってきたと見るべきだった。

案の定、2回は松倉が攻めまくった。ダウンに気を良くしてダッシュしてきた柳光だが、松倉のストレートがボディーに2発ほど入るとたちまち足もとが乱れる。柳光がコーナーから脱出しようと身を低くして出てきたところを松倉が上からプッシュすると、柳光はマットにしゃがみ込んだ。これがなんとダウンの判定。

柳光本人は「プッシュだ」と抗議するが、受け入れられず。ワタナベジムのコーナーメンもクレームをつけない。いつもながら穏やかなジムである(それに救われることもしばしばあるのだが)。

だが、この不運なダウンが、柳光に幸いした。それまで自分のスタイルを捨てた(忘れた)打ち合いを挑んでいた柳光だが、3回からは少なくとも自分なりの距離を取ることを意識し始めたようだ。すでに松倉のパンチが効いてしまっており、動きはずいぶん重くなっているが、危険な間合いやタイミングでのパンチの交換は減った。

こうなれば、パンチの軌道の小ささと正確さ、タイミングのクレバーさで柳光に分がある。一見松倉の迫力が押しているようにも見えるが、すでに松倉のパンチにも一撃必倒の切れ味はなくなってきていた。

それでも、勝負が終盤にもつれれば、松倉の重いパンチに疲れた柳光がつかまる危険性はあったが、終局は4回に訪れた。中間距離で動き勝った柳光の右フックがまたも松倉の顔面を直撃、ロープにへたり込みかけたところで、レフェリーのカウントが入る(これも厳密にはどうなんだろうか。スタンディングカウントではないはずだが、ロープダウンというほどの倒れこみ方には見えなかった)。

柳光のツメは見事だった。これまで比国人ボクサーをギブアップさせた以外はKOはなかった柳光だが、松倉をコーナーにつめての一気の連打でレフェリーストップを呼び込んだ。

どちらにも十分な勝機があった試合だったが、やはり上り坂の柳光の勢いが制した印象だ。松倉の打たれもろさ、時折見せる気弱げな表情(そう見えた)がいささか気になった。


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