☆3月9日・後楽園ホール

▽日本J・バンタム級タイトルマッチ10回戦

○挑戦者1位 名護 明彦VS ● チャンピオン 松倉 義明

KO9回2分57秒

 

by mario kumekawa

 

 とにかく、まず素晴らしい試合だった。とりわけ名護は、一気に次期世界王者の

最有力候補に名を連ねたと言っていいほど、冴えた試合を見せた。

 

 名護のスピードと右フックが試合を支配することは、ある程度予想できたことで

はあった。だが、あれほど絶妙の距離勘、あれほど自在な左右ステップ、そしてあ

れほどタイミング抜群の右フックまで期待していた人が何人いるだろうか。そして

フィニッシュの左ストレート。右利きのサウスポー・名護の弱点として上げられて

いたパンチが、食い下がる王者をマットに沈めてしまった。

 名護の株が何倍にも上がるのは当然だ。

 

 松倉も見事だった。熱烈な松倉ファンや個人的に彼を知る人々からは、「名護戦

の松倉は、もはや本来の彼ではなかった。やはり大雅アキラが亡くなった影響が……。

初回から表情がおかしかった」という声も聞く。だが、松倉のファイトはほぼベス

トに近かったと思う。実際、結果的にはワンサイドの試合となったが、最後の瞬間

まで「もしや」と思わせ続けた。デンジャラスなパンチとプレッシャーは、大雅戦を

上回る迫力だった。大雅選手の死が松倉という人間に影響がないはずがないが、下

手な同情をするよりは、ショックを乗り越えあれほど見事なファイトをしたことを

心から讃えたいと思うのだ。

 

 それにしても、名護のボクシングの高品質ぶりは、満場の観衆とおそらくはTV

観戦のファンを狂喜させた。まだまだ粗削りなところや、はっとさせるステップの

乱れは見せるものの、ディフェンシブな選手でありながら、これだけの攻撃力を備

えたボクサーは日本リング史上でも珍しい。フジテレビのTV解説者輪島功一氏と

矢尾板貞雄氏の双方から絶賛を受けることは(とりわけ矢尾板氏から)、至難の業

なのだ。このまま洗練を加えていけば、川島郭志の技巧と辰吉丈一郎の攻撃力を併

せ持ったスーパー・ボクサーの誕生が期待できる。

 

 名護本人は「リカルド・ロペスが理想」という。相手から距離を取り、バランス

とリズムも修正しながら慎重に戦い、それでも結局KO勝ちしてしまうスタイルは

まさに名護がロペスから学び取ったものだろう。世界タイトルを目指すにあたって、

どうしても「いちかばちか」の攻撃力に賭けてしまいがちな日本人ボクサーにあっ

て、ロペス式の「打たせず倒す」ファイトへの志向を貫き通す名護には大いに期待

したい。

名護のようなスタイルのボクサーが日本ボクシング界をリードするようになった

時、この国のボクシング全体のレベル向上にまでつながるのではなかろうか(あ

まり口にはしないが、名護本人にも僕はそういう意識を感じるときがある)。