☆6月5日・後楽園ホール

▽OPBF・S・フェザー級タイトルマッチ12回戦

○ 王者 長島 健吾 VS × 挑戦者 李 斗 列

117−114

117−112

115−111

by mario kumekawa

 

「こんなんでは世界戦をやっていいとは言ってもらえない」と、勝者長島はしょげかえっていた。

ひとことで言えばその通りだろう。試合直前の練習中、足首をひねってしまったという長島は、攻撃に切れ味を欠いた上、終盤には失速。最終回にはダウン寸前に追いこまれるピンチだった。仮に世界王者がこの夜の相手だったら、打たれもろい長島のアゴがあっさりと打ち砕かれる図が想像できる。

だが、長島は明日につながる要素もふんだんに見せてくれた。まず、体が大きくなってきている。三谷、平仲、渡辺と世界戦経験者を破ったとはいえ、体格の点で押される面もあった。「世界」を相手にした場合、この「線の細さ」はそれだけで敗因たりえる。長島は現時点で減量が苦しいというが、頂点を極めようというのなら体力の増強は必須だろう。

今回リングに上がった長島の姿は、前回の渡辺戦よりもひとまわりたくましく見えた。たくましいコリアン・ファイターの李が頭ごとぶつかってきても(足の負傷にもかかわらず)受け止めることができたのは、体力がアップしてきている証左だろう。

また、これは以前から見せている長島の美点だが、クリーンヒットを食ってダメージを受けてもフットワークが止まらない。むしろ効いてしまったときほど足はなめらかに動いて身体を危険地帯から脱出させる。これは日頃の鍛錬なしにはできないことだろうが、努力すれば誰にでもできることでもあるまい。この能力が、よりハイレベルの戦いにおいて長島を救うかもしれない。

それから、今回の最終ラウンドの後半に見せた反撃だ。負傷もあって疲労困憊した長島は、李の力任せのパンチを立て続けに食ってピンチに陥った。それでも、KOされそうには見えなかったし、最後まで立っているだけで判定勝ちは確実だった。だが、長島は最後の1分間、ボディー攻めをきっかけに再度李に 攻勢をしかけてみせた。

これは、不本意な試合をしてしまった長島が、自らのプライドの高さを示したシーンだった。相当優れたファイターでも、不調の試合では最終回を流してしまうことはありうる。それだけに、今回長島が最後までベターなボクシングをしようとして、それをある程度果たしたことは高く評価できる。

もともと、僕は長島の将来については懐疑的だった。とりわけ新人時代の長島は、多少アマじこみの上手さがあるとしても、萩原篤に押し切られた試合をはじめとして、心身の線の細さばかりが目に付いた。今でも、長島はほとんどの点で特別な能力の持ち主ではないと思う。

それが、今ではS・フェザー級の、いや日本リング最大のホープのひとりにまで上りつめたのは、ひとえに長島のこころざしの高さだろう。「僕の最終目標は世界チャンピオンではありません」というのがどういう意味かはわからないが、今回の試合の最終ラウンドで見せた「意地」は、非常にグレードの高いものだったと見たい。

この目標設定の高さがやがて長島に、そういう意味では同タイプのデラホーヤに似た軌道を描かせることになると、想像できないこともない。


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