☆10月3日・後楽園ホール

OPBF・S・フェザー級タイトルマッチ12回戦

○ チャンピオン 長島 健吾 VS ● 挑戦者 平仲 信敏

判定3−0

正直言って、平仲はすでに過去の選手だと思っていた。ルイシトへの敗戦後約1年のブランクを経てカムバックして以来、衰えがはなはだしい。再起戦の谷川淳戦で、格下の相手を持て余し、しばしばストレートを直撃されてぐらついていたのは、ブランクのせいかとも思えた。だが、その後の試合はすべて、平仲が明らかにロートルになりつつあることを物語っていた。

闘志は往年にも負けないほどあるのだが、前進しようとしても膝のバネが効かず、前のめりになってしまう。強く打とうとしたパンチほど軌道が流れていってしまう。とにかく足腰が弱っており、前にも後ろにもやたらスリップダウンが多く、パンチを食っても当然もろい。

三谷大和戦に圧倒的なスピードの差を見せつけられて完敗を喫した試合で、平仲のトップボクサーとしての命運は尽きた、と思った。

ただ、気になったのは、ワンサイドの試合の最中にも、平仲のパンチが時折見せた奇妙なほどの威力だった。普通、あれだけ足腰が衰えれば、パンチ力も落ちる。ふんばりが効かないのだから、パンチの威力は腕力だけにたよることになるからだ。

ところが平仲は劣勢に立たされよろよろしつつも、すきあらば重いストレートを打ち込み、相手の勢いを一発で止めてみせた。

今回もそうだ。三谷に圧勝した長島は、まだいささか線の細さは残るにせよ、今最も勢いのある若手のひとりと言っていいだろう。三谷に完敗した平仲は、さらに無意味な黒星を重ねるだけかと思われた。ところが、平仲は、最後の最後まで重いパンチの威力で長島の牙城を脅かし続けたのだ。

右のガードを下げ、速いジャブを放ちながら足を使う長島に対し、ガードを顔の前にまっすぐにそろえた平仲は、手数では後手に回りつつもタイミングを見て強打を打ち込んできた。そのパンチはしばしば長島の膝をゆるがし、7回には痛烈にアゴを打ち抜いてのダウンを現出せしめた。

結局、すでにガス欠に陥っていた平仲はここで止めをさせず、11回には逆に軽いダウンを奪われて小差の判定を落とすことになった。しかし、今回の試合は、相当に衰えてなお一条の光をぎらりとはなつ、平仲の強打の凄みをあらためて見せつけたとも言えるだろう。

強打者と言うのは、不思議な存在だ。古今東西、さまざまなトレーナーや理論家が「強打」というものの秘密をさぐってきた。そして、その答えはそれほどはっきりとした形では出ていない。

背中の筋肉(トーマス・ハーンズのような)が、KOパンチを生む、という人もいる。ラリー・ホームズは、パワーの点では強打者ではないが、肩や手首のスナップでKOを生んでいると言われた。カルロス・サラテは相手の急所をピンポイントで射抜く、というのが謳い文句だった。

平仲の「強打」は、また独特のものだ。たしかにスタイルのバランスは良い。力学的なロスが少い打ち方で、パンチに最大限の効果を持たせているように見せる。だが、繰り返すように、あのぐらぐらした足腰では、それも大した効果を出せなくて当然のような気がする。

平仲のパンチの力は、やはり魂の力であるように思えてならない。同じパンチでも、「倒れろ、コノヤロ! 」という気合がどれだけ乗っているかで、効き方はまるで違ってくるのではないだろうか。平仲兄弟と言うのは、非常にシャーマン的な素質の濃厚な人たちで、パンチに何か鬼神の力を宿らせる方法をしているのだろう。兄・明信は明らかにそういうタチのひとだったが、弟も見た目よりもはるかにそういう性質を受け継いでいるようだ。

そう考えると、この特殊な能力の持ち主である平仲弟が地方のジムの不利をもろにかぶり、一番強いはずの時期をほとんど試合をせずに過ごしてしまったことが残念でならない。うまく流れに乗せてやれば、兄がエドウィン・ロサリオを初回で屈服させたようなシーンを弟にも見せてもらえたかもしれないのに。


コーナー目次へ