☆6月18日・ロサンゼルス・ステーブルセンター

▽WBC世界ウェルター級タイトルマッチ12回戦

○挑戦者 シェーン・モズレー VS × 王者 オスカー・デラホーヤ

116−112

115−113

113−115

mario's scorecard

デラホーヤ

9

10

10

9

10

10

10

10

9

9

9

8

113

モズリー

10

9

9

10

9

9

9

9

10

10

10

10

114

by mario kumekawa

 

いやー、まいった。正直言って、目で試合を追うのが大変だった。とんでもない試合だった。敗れたデラホーヤに「限界説」を唱えている人もいるようだが、とんでもない。モズリーも、デラホーヤも、ほんとに凄かった。

勝負は紙一重だったろう。つねにトップギアで白熱戦を演じる両者の、スタミナとスピードの微妙な優劣が各ラウンドの趨勢を分けた。

モズリーが疲れていないうちは、思い切った右がクロスで決まっていたが、5回にはもうモズリーのガソリンが切れてきてしまった。あれだけの灼熱の距離で、ビデオの早送りのような攻防を続けているのだ。普通とは疲労度が違うはずだ。

ただ速く手数を出すだけでも大変なことなのに、デラホーヤ、モズリーともに、相手の動きに反応して、ガードの空いたところにパンチを打ちこもうとしていた。もちろん、細かいフェイントも多用している。じつに高密度の攻防だ。レナード−ハーンズ戦の攻防でさえ、ここまで濃密かつ高速ではなかった。まさに「驚速! 驚速! 驚速! 」の世界である。

終盤に逆転を許したデラホーヤのスタミナ不足を指摘する人もいるが、あれだけのやり取りをしながら、しかもあれほどのプレッシャーをかけ続けたのだ。それは疲れるはずだ。2回から8回までずっとプレッシャーをかけ続けたデラホーヤの体力とガッツは、このグレートファイトに勝つには十分ではなかったのかもしれないが、トップボクサーにふさわしいものではあった。中盤のモズリーは、明らかにデラホーヤのプレッシャーによって抑え込まれていた。

中盤のラウンズで、モズリーが妙なスイッチを何度も試みたのも、もちろんデラホーヤのプレッシャーがきつかったからだろう。モズリーは上半身こそウェルター級の肉体にビルドアップしたが、足腰はウェルターの太さも力もない。上体の力が互角でも、モズリーは結局後退せざるをえず、スピードも削がれた。

後半に入るまでは、一進一退、あるいはデラホーヤやや有利の展開だったろう。ところが、10回以降、モズリーのロケットに2段目の点火が行われた。最終的な勝負の分かれ道だったろう。しかも、この10回に、デラホーヤはモズリーのボディアッパーを受けて、動きが止まるピンチに陥った。このダメージは大きく、最終回の大ピンチにつながったと言えるだろう。

WOWOWの放送席は「珍しいことだ」とコメントしていたが、デラホーヤのボディは打たれ弱いのだ。過去も、チャベスやミゲルアンヘル・ゴンサレスのボディーブローを食って苦しそうにしていることがあった。増量とともにタフになったとはいえ、元来の打たれ弱さを完全にはカバーしてはいない。アゴを引いたセミクラウチングスタイルでの前進というスタイルはボディーを打たれにくくしているが、スピードがあるボクサーに思い切ってボディーを攻められると苦しいところがある。

弱点を突かれてしまったからといって、デラホーヤが過去のボクサーになりつつあるということはないだろう。クォーティ戦以来、デラホーヤは自分と同格かそれ以上の才能の持ち主と戦うようになっている。トリニダード戦やクォーティ戦は、下り坂のチャベスやウィテカーとは違うのだ。

これだけのタレントが揃った現在の中量級だ。負けることも十分考えられるし、ビッグマッチが続けば負けが込むこともありうる。デラホーヤ落胆のあまり「引退の可能性」も口にしていたようだが、モハメド・アリだって、フレージャーに続いてノートンにまで負けたときは終わりだと思われたのだ。傷ついたゴールデンボーイがどう復活するか、それこそ一番見たい点だ。


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