長島健吾−三谷大和戦、杉田竜平−金内豪戦 

by mario kumekawa

 三谷大和と金内豪は、金内のデビュー当時から良くスパーをする仲だ。この2人は相性が良いらしく、スパーではどちらの調子も上がる。両者のスパーリングを目撃した人々の間からは、「あいつらやっぱり強えよ」という感嘆の声が上がったものだ。
 この2人が、ともに痛恨の敗北を喫した。三谷は元国体王者長島健吾に12回大差判定負けでOPBF・J・ライト級王座を失い、金内は背水の陣で臨んだ日本J・ライト級王座決定戦で名古屋・畑中ジムのホープ杉田竜平に痛烈なKO負けを喫した。ともに、戦前の予想では有利とされており、番狂わせだった。

 三谷は、接近戦の苦手をもろに突かれた。長島はサウスポースタイルをコンパクトに磨き上げ、迅速に接近しては左右の小さなフックを振うことで、容易に三谷の防波堤を食い破った。試合前、足首を痛めるという不運もあった三谷は、いつものギャロップ・フットワークもなく、ラウンドを重ねるごとに疲弊して打たれ、ジリ貧で敗れ去った。

 金内は例によって、というかいつも以上に固かった。杉田のボクシングはまだ幼げなところが残ってはいるが、ガードを固め、よくアゴをひいたセミ・クラウチング・スタイルで、基本通りのジャブ、ワンツーを放ってくる。パワーとセンスでは上回っているはずの金内だが、力みからひとつひとつの動きが大きく、ストイックに攻め込んでくる杉田に徐々に連打を許した。7回、ビッグパンチを何発かクリーンヒットし、意地の逆転を予感させたが、8回開始早々に浴びた軽いパンチで運動神経が完全に切断されてしまった。それまでに少しづつダメージがたまり、臨界点に達していたのだろう。

 いずれの試合も好勝負というほどではなく、勝者にとっては良い内容で、敗者はひどく拙いというタイプの試合だった。
 けれども、印象は正反対だった。長島−三谷戦の方が杉田−金内戦よりも格、技術的内容ともに上だったにもかかわらず、三谷は(例によって)どこか「不甲斐ない」印象を与え、金内は「良くやった」という(同情まじりではあるが)称賛を浴びたのだ。

 金内は、リングに上がってくる時から、勝利への欲望で飢餓状態であることがわかった。他には山口圭司しか達成していない「高校三冠王(選抜、インターハイ、国体優勝)」。名護明彦でさえ二冠だ。金内がプロ入りした際には、多くの記者がデビュー時の辰吉と「大器度」を比較、議論したものだ。パワー、スピード、迫力、金内はたしかに輝いて見えた。それが、3戦目での冒険(日本ランカー玉崎義和との対戦)でKO負けの挫折、その後も腰痛、ジムのトラブルによる移籍と、明るい話題がなかった。
「これ以上は絶対に後退できない、負けたくない」という金内の、まさに背水の心情はリングサイドにも痛いほど伝わってきた。その気迫で耐えに耐えていたダメージがついに限界に達し、肉体を支える糸が一瞬にしてばらばらに切れた。リング上には、敗者の無念があまりも鮮明に表現されていたように思う。金内の出来は悪かったが、それでも「良い試合を見た」という感触に似た思いが残った。

 一方の三谷は、これで引退してしまうのだろうか? そもそも、なぜ三谷の敗戦はいつでも「不甲斐ない」感じがするのだろう? 三迫会長がしばしば言うように、「気迫で負けた」からなのか? それとも、能力を残して負けたからか? あるいは単なる偏見か?

 まぎれもなくアマチュア屈指の俊英だった2人のエリートボクサーが、ともに完全には花を開くことができないまま、岐路に立たされている。