☆8月10日・後楽園ホール

▽スーパーフライ級ノンタイトル10回戦

○ 日本2位松倉義明 VS ●比国3位フェリックス・マルファ

98−94

98−94

98−93

by mario kumekawa

名護明彦に痛烈なノックアウトで日本王座を奪われた松倉のこれが再起戦だった。マルファは比国の同級上位ランカーで、マイナー団体(WBF)とはいえ「世界王者」のセムサーンに挑戦したこともある。戦績も31戦17勝4KO12敗2分と豊富だ。両方の拳に決定的な威力を秘めるとはいえ技術的にはまだ成熟しているとはいえない松倉にとっては「危険な相手」という予測も多かった。

果たして、試合は松倉にとってはじつに苦しいものになった。ぐいぐいと前進してプレッシャーをかけることには成功したものの、マルファの柔らかいステップワークに容易に回り込みをゆるす。必殺の左ストレートを顔面、ボディーに伸ばすが、多くが空振り、ヒットしてもほとんどは浅く、あの戦慄的な威力を発揮できない。

立ち上がりからリズムに乗れない松倉は、2回、マルファの右カウンターを食ってどっとマットに沈んだ。だが、これを島川レフェリーは「スリップ」と判定。これほど明白なダウンを誤って見逃したとすればプロボクシングのレフェリーをする資格はないし、地元選手の利を図ったとすれば、これまたなおさらである(レフェリーの判断に関わらず、ジャッジがそれをダウンと判断したなら、たとえば10−8ともつけられるはずだが、そうしたジャッジは無論いなかった。これが日本の審判だ)。

いずれにしろ幸運だった松倉だが、以後もペースはつかめない。それでも、再起戦に向けて気力は充実していたようで、歯を食いしばって前進し、渾身の左を打ち込む姿は迫力は十分。ペースとリズムはマルファのものだが、フィリピン人は次第に疲労の色を濃くし、手数が減っていった。

中盤以降は両者ともに目の上をカットして、消耗戦が続く。手数で松倉、有効打でマルファという展開だった。松倉の攻撃は、時折打つボディーストレートは相手のスピードを確実に奪っていったが、数が少ない。マルファは松倉の攻撃を完全に読んでしまい、左ストレートは食っても効かないくらい、タイミングがわかっていたようだ。

しかしそれゆえか、マルファはカウンターを狙いすぎた。右ストレートのカウンターは恐いくらいタイミングばっちりだったが、1ラウンドに1、2発ヒットするかどうかでは明白に優位に立つには不十分だ。

松倉は終盤は急にスタミナも失い、苦しげな表情。それでも、気迫の全身を止めなかった姿には、大雅アキラの事故、名護戦の惨敗を乗り越えて闘い続けようとする男の気持ちは垣間見えた気がする。
判定は微妙と思われたが、オフィシャルは大差で松倉支持。松倉の勝ちはいいにしても、これほどの差はなかっただろう。

松倉にとっては苦しい試合だった。出来も、(体調と闘志を除けば)良くはなかった。しかし、松倉は苦しみを背負ったボクサーだ。今回の再起戦に向けても、試合ができるかどうか、という時期もあったと聞く。稀有な凄みと存在感を持ったファイターが、とにかくも再スタートを切った今後を見つめてゆきたい。