ランぶる・イン・ざ・ジャンぐる……

ハメドのようでハメドでない
    アジア系ワンダー・ボーイの行方

                                                          ボクシング・アナリスト 増田 茂

 レノックス・ルイスがWBC世界ヘビー級王者のままリタイアし、魔王ナジーム・ハメドは長い休業状態にあってカムバックの見込みたたず…の英国プロボクシング界。

 L・ヘビー級進出を目論むWBO世界S・ミドル級王者ジョー・カルザギやS・ライト級のホープ、リッキー・ハットン。さらに、クルーザー級ジョニー・ネルソンとフェザー級スコット・ハリソンのWBO王者コンビに、シドニー五輪S・ヘビー級金メダリストのオードリー・ハリソンと、近代ボクシング発祥の地ならではの層の厚さはあるのだが、やはり一人ぐらいは「スーパー」な人材が求められるところ。
 そんな同国で、いま最も熱い視線を集めているヤングスターが、アミール・カーン(Amir Khan)だ。

 英国『ボクシングニュース』紙1月16日号のフロントページにも登場したマンチスター出身のカーン、実は1986年生れの、まだ17歳のアマチュアにすぎない。
 身長 178センチのライト級は、英国ジュニア、米国での国際ジュニア、リトアニアでの欧州学生選手権などを軒並み制覇。年齢規定により、英国ではまだジュニアの大会にしか参加できないのだが、欧州レベルでは、すでにシニアの大会でも頭角を現している。

 去る1月、ドイツで行われたアディダス杯ト−ナメントでは、ドイツ王者エンリコ・ワグナーや世界選手権銅メダルのマーチン・ドレッセンに快勝して優勝。大会最優秀ボクサーにも選出されている。

 世界最古のアマチュア選手権、ABA大会(全英選手権)の存在に象徴されるように、ヨーロッパで最もアマチュア熱の高い英国だが、国外における成績は今ひとつ振るわず、旧東欧諸国の風下に置かれている。それだけにカーンの快挙は、英国人たちの溜飲を大いに下げるものでもあった。

 この2月までのレコードが73勝8敗。半数ほどがKO・RSCだが、カーンによれば「KOを追求するタイプではない」そうだ。

 そのファイト・スタイルをスピードのあるアルゲリョ型と言ってはほめ過ぎか。
 浅黒い肌と黒い髪、大きな黒い瞳。ナジーム・ハメド彷彿させる容貌が示す通り、カーンは、最近の欧州で勢力を伸張しつつあるアジア系。IBOウェルター級王者ジャワイド・カリークと同じパキスタン系の英国人である。

 カーンのヒーローはモハメド・アリ。現役ではリッキー・ハットン。そのファイト・スタイルと人柄に惹かれるという。逆にハメドについては、「試合ぶりも人間性も好きになれないよ」と手厳しい。

 「英連邦大会とオリンピックが終わったらプロに転向したい。でもプロの試合を見るのはあんまり好きじゃない。アマの方がテンポが早くて好きだね。ボクシングをやめたら、将来は体育教師になりたいと思ってるんだ」

 先月末、クロアチアで開催されたシニアのヨーロッパ選手権に、英国代表として参戦したものの、初戦でグルジアの強豪カーシャ・アフタンディルにポイント負けを喫してしまったカーン君。その思惑通りに事は運ぶのだろうか。


PS.この投稿内容が、ボクシングマガジン誌次号の草野氏のコラムとダブらないことを望む。
 

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