☆8月20日・両国国技館

▽WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦

×王者 マルコム・ツニャカオ VS × 挑戦者 セレス小林

引き分け

115−112

113−115

113−113

mario's scorecard

ツニャカオ

9

10

9

9

9

9-1

9

10

9-1

10

10

10

111

小林

10

9

10

10

10

10

10

9

10

9

8

9

114

by mario kumekawa

 

小林は、苦労人らしい、しぶといボクシングするだろうとは思っていた。しかし、まさか「勝つ」とは思わなかった(僕の採点でもはっきり勝ちだし、オフィシャルのジャッジだって、韓国のジャッジがちゃんとつけていれば勝ちだ)。

「ツニャカオの弱点はボディー」とは、各種メディアの伝えるところではあったし、メッガン戦でもそういうそぶりはあった。しかし、スピード、パワー、柔軟性ともにすぐれたツニャカオの懐にもぐり込んでボディーを叩き続けるなどということができるとは思えなかった。少なくとも、ボクシングのどこにも鋭いところのないセレス小林には……。

しかし、小林は立ち上がりから、ガードを固めてなめらかに接近、上手に入り込んでは左右フックを若いチャンピオンのボディにめり込ませつづけたのだ。

ツニャカオにしてみれば、こんな展開はさけられたはずだった。最終回、ツニャカオが足とジャブを使い出したら、疲労とダメージも蓄積していた小林はもう手がなかった。僕は、あのシーンが終始続くような試合展開を予想していたのだ。それがじっさいには、小林が疲れきった最終回にしか見られなかった。

小林がツニャカオに優っていた点のひとつは、戦術上の迷いのなさだろう。身を低くして入り込み、ボディを叩く。その実践なしに勝利はない、その決心が美しいほど小林の姿に満ち満ちていた。一方のツニャカオは、そのありあまりほどの能力ゆえに、選択の余地があるがために、後手に回ってしまったのだろう。

決意なき天才よりは、おのれのなすべきことを熟知している凡人のほうが強いのがボクシングだ。セレス小林は中盤以降、明らかにダメージと疲労が深刻なほどに蓄積していたが、だからといって何も戦い方を変えることはなかった。この日の小林を屈服させるには、根こそぎ吹き飛ばすだけの暴風雨的攻撃が必要だったろう。

イベンダー・ホリフィールドが言うように、ボクシングが「どちらが意思を通すかという闘い」であるとすれば、この日の勝者は小林でなければならなかった、と思う。しかし、公式ジャッジの裁定はあくまでもドローだった。「このままでは終われない」と語った小林は、ツニャカオとの再戦に向かうだろう。「再戦すれば今度は完敗では……」という声は多い。小林本人さえ、「再戦では、ツニャカオは今日よりもはるかに強いはず」と語った。

そうかもしれない。しかし、この試合で見せたツニャカオの弱点、すなわちボディーの弱さにしても、「決意」や「想像力」欠如にしても、そうそう簡単に克服できる欠点でもない気がする。早期の再戦なら、このカードは相性の点では小林に利ありと見ることもできるのではないか? この試合を見た今ではそんなことさえ思えてくるのである。


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