●ジェス・マーカ 対 大和 心

 (OPBFバンタム級タイトルマッチ12回戦:1月23日・後楽園ホール)

ジェス・マーカ

27歳

35勝16KO16敗3分

大和 心

23歳

13勝2KO1敗4分

 

続々台頭しつつあるバンタム、J・バンタム級のニュースターたちの中で、誰が世界へと抜け出すのか。

J・バンタムの方は、名護明彦が松倉義明、山口圭司を連破して「切符」をほぼ手中にした。だが、バンタムの方は混沌としている。ジェス・マーカのせいだ。一時は辰吉挑戦の声さえあった中村正彦、復活を期した川益設男、図抜けたパワーで一気に飛躍するかと思われた仲里繁が、この狡猾なフィリピノの術中にはまって挫折した。

マーカ越えは、今や日本のバンタム級ボクサーにとって世界挑戦への条件であると同時に、悲願のようにさえなってきた。大和心がこころでマーカを攻略できるようなら、一気に日本バンタム級の必倒ホープに浮上することになろう(もちろん、辰吉を別格とすればだ)。

マーカのボクシングには特別な凄みを感じさせるものはない。だが、レコードブックを見ると、おおいに特別な凄みを感じるはずだ。チャッチャイ・ダッチボーイジム、セーン・ソープルンチット、ジェリー&ジョナサン・ペニャロサ、ダウルン・チュワタナ、サムエル・デュラン、 呉張均、セムサーン・エリートジム、そしてウィラポン・ナコンルアンプロモーション……。アジアのフライからバンタムの真のトップ選手のほとんどと戦い、しかも必ずしも負けっぱなしではないのである。そして、KO負けはひとつもない……。

マーカはへっぴり腰で戦い、パンチもたいしたことはない。すぐ疲れてしまうようにも見える。だが、じつはマーカはおそろしくタフなのだ。そして、あらゆる経験から、局面に応じてなすべきことを熟知している。へっぴり腰でカウンターを狙う、なんとなくじじむさいボクシングの背後にある地力の裏付けは相当に厚い。日本王者になってからの試合にもうひとつぴりっとした点を欠く大和には、若干荷が重いようにさえ思われる。

だが、大和には、過去マーカに屈した日本人ボクサーたちにはない武器がある。スピードだ。中村も、川益も、仲里も、マカの手足そしてボディワークの(それ自体は驚くほどではない)速さに幻惑された。大和は非力ではあるが、スピ−ドはマカに負けていない。その上、実に素直で癖のないサウスポースタイルを身につけている。無駄な動きがなく、ジャブ、ストレートがノーモーションでスムースに出る。持てるスピードが最大限に発揮されているのだ。フットワークも良い。

試合は、174センチと長身の大和がフットワークを生かして遠距離から試合をコントロールしようとするだろう。対するマーカは得意のフェイントを駆使しながら、大和の顔面やボディーに左右フックを叩き付けてくるに違いない。

大和としては、マーカのフェイントにリズムを崩されないことが肝要だろう。カウンターの上手いマーカだが、大和がワンツーでシャープに攻めたてれば、そうは狙い撃ちできないはずだ。かといって、ウィラポンにもセムサンにも倒されなかったマーカだ。大和の攻撃でマットに沈められるとは思わない方が良いだろう。いかにも苦しそうな顔は、マーカの戦術のひとつかもしれない。大和は自分のリズムで淡々と攻めてほしい。

序盤、3回あたりまでが勝負と見る。ここで大和は確実にポイントを取りたい。マーカも序盤はいつもはっきり取りに来る。ここをスピードと体格で上回る大和が凛然としたボクシングで抑えてくれれば、勝機も見えてこよう。

大和は攻撃がシャープになってきたとはいうものの、結局は自分よりもパワフルなファイターたちに勝っていかなくてはならないタイプである。マーカのパワー&フェイントを完全にコントロールしてこそ明日が見えてくる。

マーカを破った大和と西日本の天才パンチャー・西岡利晃で「世界挑戦者決定戦」をやり、勝者がウィラポンに挑む、そんな展開になってくれると胸はずむのだが……。

 


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