11月11日・ラスベガス   WBC&IBF世界ヘビー級タイトルマッチ12回戦

王者 レノックス・ルイス VS ● 挑戦者 デビッド・ツア

判定 3−0
117−111
119−109
118−110

mario's scorecard

レノックス・ルイス 

10

9

9

10

10

9

10

9

10

10

10

10

116

デビッド・ツア 

9

10

10

9

9

10

9

10

9

9

9

9

112

by mario kumekawa

 

  ルイスがびびっていた。初回からどうもバランスの悪かったルイスだが、2回、距離がつまったところで両腕で抱きつきにいった。こんなことは、グロッギーの選手か、恐怖にかられた選手しかしない。過去に何人もの大男をにらみ倒してきたルイスが、今回は不安にかられていた。

 何がルイスをおそれさせたのか、ツアの異形、スタイル、テクニック、パワー? それらもあるだろが、今回のルイスは、ツアのスタイルに「敬意」を払い過ぎたようだ。「自分のボクシング」をすることより、相手の武器を警戒することに神経を使い過ぎると、ボクサーの神経は病む。

  しかし、ルイスは結局、「こうボクシングすべし」に、自分をあてはめてしまった。徐々にルイスのボクシングがマットになじみ始め、リズムを握り出す。一方ツアは、5回にはすでに疲労を見せはじめた。口を開いて、荒い呼吸をしている。ルイスの右ストレート、左ボディーが決まり始めた。この当たりから、試合はルイスの「必勝法」が正解だったことを示し始めた。

 ルイスのボクサーとしての「身体」の奥底には、右主体のスラッガーが住んでいるはずだ。だが、結局は「安全策」を貫いたのは、痛恨の敗北やいくつもの拙戦を経験したルイスの成熟なのだろう。極端に斜に構えて、完全にはぐらかしの態勢をとっているシーンなどは、最晩年のモハメド・アリや、パーネル・ウィテカーを思い出させた。

 僕たちは、稀有なハードスラッガー・ルイスに、ジョージ・フォアマンとラリー・ホームズを合わせたような万能のスーパーボクサーを夢見てしまうが、すでに35歳の超ベテランは、もっと老獪ないやらしいボクサーになってきているのだろう。

 中盤以降もツアも押し返し、距離がつまると怖いパンチを突き上げたが、ほかならぬレノックス・ルイスがこれだけ慎重にかまえたら、この日のツアの手数ではとらえられるはずがない。

  やはり、ルイスの技量と度胸はたいしたものだ。そして、エマニュアル・スチュワードの操縦法も、相当にうまかったのだろう。このレベルの試合で、自分のスタイルやリズムよりも「必勝法」を優先させることは非常に危険なことだが、それを成功させてしまった。圧倒的な「器」の大きさ、「ボクシング」の才能と技量の優秀さのなせるわざだろう。

  一方、ツアは作戦ミスだった、と思う。僕は、展望でも「ツアのワンパンチKOは考えにくいが、総合力で押し切る勝利はありうる」と書いた。しかし、ツアの戦い方は終始「一発」狙いだった。セコンドも「KOしろ」、「負けているぞ」、「お前はパンチャーだ」などとはっぱをかけていたようだが、これは間違いだ。ツアは、KOなど狙わなくても、もっとリズムを意識して手数を出していかねばならなかった。むしろ、「判定勝ち」を狙うくらいであるべきだっただろう。

 ツアは、自分で自分を追いつめてしまったようだ。ラウンドを追うごとに、それほどはっきり劣勢ではないのに力んでしまい、逆に終盤はほんとうに「一発逆転」が必要になったのに手が出なくなっていた。

 僕がツアのセコンドだったら、米○会長ばりに、「よしっ」、「そこだっ」、「いーねー」、「しびれるっ」とでも言って、ツアをリズムにのせたいものだ。ロニー・シールズは、クレバーな人なのだろうが、もう少しだけ「テディ・アトラス性」を持ってほしいように思う。

 しかしとにかく、まずはルイスの力の奥は深いと言うべきだろう。商業主義のマスコミや業界人は「次はタイソンとの対戦が楽しみだ」などと言っているが、最近の試合を見る限り、残念ながら力量の差がついてしまっている。タイソンなら、一応対抗王者のホリフィールドの方が力は接近している(勝つのは難しいだろうが)。ルイスにとっての次の強敵は、(いるとすれば)クリチコ兄弟のどちらかか、ということになるだろう。


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