●レノックス・ルイスの「強さ

 ホリフィールド・マニアとしては、レノックス・ルイスが恐ろしくて仕方がない。ホリィ−ルイスの統一戦を、見たいような見たくないような微妙な気持ちだ。  一見、ルイスはたいしたボクサーには見えない。たしかにでかくて、右ストレートは相当の決定力を持っているが、なんだかぶきっちょだし、フットワークもじたばたしている。フランク・ブルーノのスローなパンチに押しまくられるシーンがあったし、タフなレイ・マーサーを相手に青息吐息になっていた。 しかし、ルイスにはなにか不可解な強さがある。いや、あるのかもしれない。最近の彼の勝ち方を振り返れば、誰もが首をかしげるはずだ。唯一の黒星を喫しているオリバー・マッコールとの雪辱戦は、試合中にマッコールが泣き出してしまって実行不能の失格勝ち。直前にWBO王座を返上したヘンリー・アキワンデとの事実上の王座統一戦は、怯えたアキンワンデがルイスの腕をホールドして話さず、これまた失格勝ち。ボウに内容的に2連勝(実際は2連続反則負け)したケンカ屋アンドリュー・ゴロタも、ルイスの前では「異常にナーバスになって」あっという間にノックアウトされてしまった。 なにかある。や、やはり何かある(とは、力石徹の言葉だが)。ソウル五輪の決勝でも、リディック・ボウはルイスの右強打一発で負け犬のように背を向けてしまった。ルイスは精神的に相手を圧倒する。どのようにかは分からぬが、どうもこれは事実のようだ。  ヘビー級には時折、相手を異常にナーバスにする力を持ったモンスターが出現する。ジョー・ルイス、フォアマン、そしてタイソン……。だが、レノックス・ルイスは彼らのような怪獣的ファイターとも明らかに違う。そんなカリスマや破壊性の持ち主ではない。  フォアマンやタイソンを対戦者が恐れるのは、とりあえず共感できる。しかし、レノックス・ルイスの「強さ」というのは、実際に面と向かった人にしかわからない類いのものなのかもしれない。  ルイスがホリィ−タイソン第2戦の前に言った言葉がよみがえる。「ホリフィールドがまた勝つ。タイソンは前回の負けから心理的に立直っていないはずだ」。サイコ・パワーがなんとも不気味なのだ。