展望: 木村 鋭景 対 雄二 ゴメス

 日本フェザー級タイトルマッチ12回戦:3月11日・横浜アリーナ

木村 鋭景 

26歳

22勝11KO2敗4分

雄二 ゴメス

28歳

12勝11KO

 

 いぶし銀(古い表現ですみません)のテクニシャン・木村と100%のパワーファイター・ゴメス。クラシックな名勝負の生まれる顔合わせだ。ボクシング・マニアの心をくすぐるカードである。

 ただ、今回はその対照があまりにも極端である。それはひとえに、ゴメスの個性による。ゴメスはへたくそだ。パワーと馬力、それに独特のパンチの「当て勘」は素晴らしいが、ボクシングのスタイル自体は、4回戦ボーイに毛の生えた程度に見える(失礼だけど、本当にそう思う)。

 ただ、ボクシングの戦力は、「分析」が可能なのはごく一部である。極端な話、どんなにへたくそでも、パンチを受けてびくともせず、逆にKOパンチを一撃見舞うことさえできれば、そのボクサーは強いのだ。ゴメスはそういう、異能のファイターの可能性がある。実際、ゴメスはすでに、海外のナショナル・チャンピオンを一方的にノックアウトしている。

 この試合は、ゴメスと木村の両方にとって、「本物」であるかどうかが問われる一戦だ。ゴメスが本当に、パワーですべてを清算できるパンチャーなら、木村のこともKOできなくてはならない。逆に、木村も「上」を目指すというのなら、いかな猛烈ハードヒッターといえど、ゴメスの稚拙なディフェンスはばらばらに解体できなくてはならない。どちらかが本物で、どちらかはフェイクだ。少なくとも、両雄がともに世界を目指すというのなら(ゴメスはそんなこと言ってないか)、そう言わざるをえない。

 試合を予想するために、似たような組み合わせの日本タイトルマッチを思い出してみたい。ひとつは、古城賢一郎対東悟、もうひとつは赤城武幸対渡辺雄二である。ともに、テクニシャンとパワーファイターの激突だったが、前者では、古城の固いガードが東の豪腕を完封した。後者では、アマチュア全日本3連覇の赤城をキャリアの浅い渡辺がふっ飛ばした。

  この2つの試合の結果を分けた、大きなファクターは、「パンチャー」の方のスピードだったように思う。渡辺雄二は、テクニックでは赤城にはっきり劣っていたが、勢いとスピードがあったため、ディフェンスのわずかなスキを突いてダイナマイトを爆発させた。一方、プロデビューまでに間があきすぎた東は、まったくスピードを失い、古城の名高いガードの前に屈した。

 その理屈でいくと、ゴメスは苦しい、ということになる。ゴメスのパンチには、渡辺雄二のようなスピードはない。木村がちゃんとガードを固めたら、そこを突くだけの速さを備えてはいないように思える。

 と、すると木村か。だが、僕にはわからないことがひとつあるのだ。長年の疑問といってもいい。それは、ごくまれにだが、パンチが遅い方が打ち勝つこともある、ということだ。これを、僕は「ソニー・リストンの謎」と呼んでいる。リストンは、パンチがすごく遅かった。それなのに、同時代のヘビー級ボクサーはまるで催眠術でもかけられたかのように、彼のパンチをまともに食って、「ばったーん」と倒されてしまった。

 ゴメスには、ひょっとすると「リストン性」があるのではないか、とも思うのだ。なぜなら、あの原始的なボクシングでは、ふつう比国王者は倒せない。それを、いともあっさりとしとめたのは、何か特別な能力があるのかもしれない。

 常識的に言って、木村。「サムシング・スペシャル」があれば、 ゴメス……?

 


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